投稿日:2025年10月1日

現場の声を表現できず単調な資料になるコンサルの失敗

はじめに:現場のリアルが消える瞬間

製造業に携わる現場担当者やバイヤーの皆さま、またサプライヤー側でバイヤーの考えや本音を知りたい方々にとって「現場の声」は何よりも価値ある情報です。
にもかかわらず、コンサルタントによって作成される資料が、現場の声や臨場感をうまく反映できず、単調で活用しづらいものになってしまうケースが後を絶ちません。

本記事では、製造業の現場や工場長・管理職として20年以上携わってきた実体験を踏まえ、コンサルが現場の声を表現できない理由、その背景にあるアナログ的な業界特性、さらには今後目指すべき情報共有のあり方について考察します。

なぜコンサル資料は現場から乖離するのか

テンプレート化による「現場の息吹」の消滅

コンサルタントの多くは、実際の製造の現場を直接経験したわけではありません。
そのため、報告書や提案書はヒアリング内容や現場訪問から得た「表面的な事象」を元に、どうしてもテンプレート的な資料へ落とし込まれがちです。

例えば、改善活動のまとめ資料には「歩留まり向上」「不良率削減」「工数短縮」といったキーワードが並びます。
しかし、そこに至る迄の現場での工夫や、現場の作業者が何に困り、どんな想いで改善活動に取り組んだかといったストーリーや温度感は、ほとんど表現されません。

その結果、報告書は無機質な数字や理論の羅列となり、現場の想いが伝わらない資料となるのです。

「現場が語らない」のではなく「語れる仕組みがない」

よく「現場は自分から本音を語らない」と言われます。
ですが本質は、そうした空気や文化を良しとしてきた業界側の問題にあります。

昭和から続くアナログな業界文化では、現場の声をくみ取り、構造的に「見える化」するスキームが発展してきませんでした。
現場での体験・知恵・問題意識をドキュメントに落とし込むような技術や視点が弱かったのです。

このギャップをうまく埋めない限り、コンサルがいくらヒアリングを重ねても、現場目線の資料は生まれません。
ましてや現場での納得感や改善活動につながることはほとんどないのです。

「現場の声」はなぜ経営判断に影響を与えにくいのか

経営視点と現場視点のギャップ

経営者や上層部が求めるのは「全体俯瞰」と「数値的根拠」ですが、現場にいると「体感」「経験則」「気付き」が重要な要素となります。
そのまま伝えるだけでは「感覚的」「属人的」と見なされ、評価が低くなってしまいがちです。

このため、現場としては「せっかく声を上げても取り上げてもらえない」という諦めムードが広がり、ますます現場の声が経営判断に影響を与えにくくなっています。

業界全体に根付く「成功の勘」「根性論」

製造業、とりわけ古くからの大手や中堅の工場では、諸先輩方の「現場勘」や「根性論」が未だに幅を利かせている場面が多々あります。
これは日本の高度成長期やバブル期に成功体験を重ねた方々が多く在籍しているためです。

テクノロジーやIoT導入が進む一方で、「体感」の話や「職人の勘」に頼った運用も強く残っています。
そして、その世界観に合わせた報告資料や説明書きしか経営陣に響かない、という悪循環もあるのです。

デジタル化・自動化の流れと「現場の声」の存在意義

スマートファクトリー化で現場が「見える化」できるか?

昨今、製造業ではIoTやAIを活用したスマートファクトリー化が急速に進められています。
センサーデータや稼働データをリアルタイムで取得し、分析する仕組みは確かに便利です。

ですが、現場に詳しい方であれば「数字には現場の空気感やヒヤリハットまでは表現できない」という点に気づくでしょう。
実際、設備の「異音」や作業者の手の「違和感」など、デジタルデータには現れない異常を直感的に拾い上げる現場力が存在しています。

これらこそ、資料化・デジタル化しにくい”現場の声”であり、現場力の本質なのです。

変わる現場役割:データだけでは補えない「人の目」

工場のオートメーション化、自動化が進む現代においても、現場のオペレーターや管理者は依然として重要です。
突発事象や判断が求められる場面では、現場で得た経験や情報の”ラグ”が命取りとなります。
この”ラグ”を埋めるのが、まさに現場の生の情報、感覚であり、それをまず資料に落とし込む技術が必要なのです。

製造業バイヤー・サプライヤーが現場を資料化する意義

バイヤーがサプライヤーの深部を理解するには

バイヤーはサプライヤーに対して、価格交渉や品質・納期管理など、交渉力が問われる場面が多いです。
その際、サプライヤー現場の「生の声」を掴んでおくならば、コストの裏付けやリスクの実情をより深く理解でき、結果的に精度の高い調達判断が可能になります。
現場のちょっとした悩み、例えば「作業者の高齢化で後継者が足りない」「主要設備の老朽化が不良率増大の一因」などを知っていれば、価格だけでない本質的なリスク把握が可能なのです。

サプライヤーが信頼される理由とは

逆にサプライヤー側に立てば、「現場発」の課題や対策案をエビデンス付きで提案できれば、バイヤーとの信頼構築に大いに役立ちます。
机上の理論や全体最適の話だけでなく、「我々の現場ではこのような努力をしています」「今の体制でネックとなっているのはここです」と、現場目線のリアリティをもった共有がバイヤーの共感を得やすいのです。

現場の声を「強い資料」にする羅針盤

現場ヒアリングを「ストーリー」で可視化

コンサルの失敗は「数字や事象のみの平板なレポート」にあります。
ここを脱するには、現場のヒアリング内容を出来事や数字だけでなく、「ストーリー」として流れを持たせて資料化することが必要です。

たとえば、「日々不良品がXX個発生している」という事実に加え、
「実は、作業員Aさんは先日この異常音に気付き、ラインを一時停止して調査した結果、不良要因となる部品摩耗を未然に発見した」など、
小さな現場エピソードを加えることで、経営層や他部門も現場を”自分ごと”として理解しやすくなります。

アナログな現場文化こそ「語り部」役を設ける

昭和的な文化や職人的な現場が色濃く残る工場では、現場と経営層・コンサルの間にブリッジ役を立てることが重要です。
「現場の語り部」として現場リーダーや若手作業者を資料作りやエピソード共有の担当と認識し、経営会議や報告会でも発表の場を持たせる。
また、日々の会話や出来事をミニレポートや日報で記録し、貯めておくことも非常に価値があります。
これにより、定量的なレポートと、定性的な現場の声が一つの資料で共存できるのです。

まとめ:昭和を突破する現場力の情報発信が未来を作る

コンサルや上層部向けの資料作成において、現場の声や感覚、ストーリーを組み込むことは、単なる「現場アピール」ではありません。
現場に根差すアナログな知恵や経験を、デジタル時代やグローバル時代にも活かせる知見に変換し、業界全体の競争力・持続性を高める「羅針盤を生み出す作業」そのものなのです。

現場従業員、バイヤー志望の方、サプライヤーで新たな信頼構築や交渉を目指す皆様にとって、「現場のリアルを表現した資料」を模索・創出することこそが令和のものづくり現場に求められる最大の進化です。

現場のリアルな声を無視しない、むしろ武器とする――
この姿勢こそが、今後の製造業の新しい地平線を切り拓くカギになるでしょう。

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