投稿日:2025年10月2日

属人化でISO認証維持が困難になる製造業の問題

はじめに:属人化が招くISO認証維持の壁

製造業において、ISO認証は企業の信頼性や競争力を高める重要な要素です。

多くの工場や企業がISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)の認証を取得し、維持に努めています。

しかし、現場ではいまだに「属人化」という根強い問題が存在し、それがISO認証の維持・運用を大きく妨げています。

ここでは、私がこれまで20年以上にわたり調達購買や品質管理、生産管理の現場で直面してきた“属人化”の実態と、その解決策について、現場目線で深堀りしながら解説していきます。

属人化とは何か?製造業における現場のリアル

属人化の具体例:昭和から脱却できない現場の「慣習」

属人化とは、仕事や業務が特定の人物のスキルやノウハウに依存し、他の人が簡単に代替できない状態を指します。

製造業、特に老舗メーカーや中小企業では、長年の経験や現場勘で成り立っているプロセスが多く存在します。

たとえば、
– 「この担当者しか装置の微調整ができない」
– 「品質記録の管理はベテランだけがやっている」
– 「購買先の選定や価格交渉をできる人が限られている」
などの例があります。

昭和時代から続く“親方日の丸”体質や、現場の「勘と経験」を重視する文化は、デジタル化やマニュアル化の導入を阻み、結果的にリスクを高めています。

なぜ属人化が起きるのか?

属人化の根本要因はいくつかあります。

第一に、人材育成や業務引継ぎの仕組みが整っていないことです。

第二に、「ノウハウは口伝え」「紙の帳票による管理」といったアナログな運用が中心で、情報が暗黙知として個人に閉じている現実があります。

第三に、ITシステム化や仕組み化への投資が後回しになりやすく、必要性を認識しつつも「今は忙しい」「入れ替えが大変そう」と先送りしてしまう企業体質も見逃せません。

ISO認証維持と属人化のジレンマ

ISO認証維持に求められること

ISO認証を維持するためには、プロセスが標準化され、誰がやっても一定の品質が再現されることが前提です。

マニュアルや管理台帳が整備され、監査やトレースが可能であることも必須です。

また、不具合やクレームが発生した際に「なぜそうなったのか」を再発防止まで徹底的に追及するための仕組みが運用されていなければなりません。

属人化が引き起こす弊害

属人化した現場では、以下のような問題が頻発します。
– 担当者が休職や退職した際に業務が滞る
– マニュアル通りに作業していないため、記録や証跡が残らない
– 課題の原因が「経験やカン」に依拠するため再現性がなく、改善が進まない
– 監査対応で「説明できない」や「その場しのぎ」の言い訳が生じやすい

これらを放置したままでは、いずれISO認証の更新審査や定期審査で「仕組みの実効性」が問われ、不適合となるリスクが高まります。

特に規模の大きなメーカーやグローバル展開を目指す企業にとっては、深刻な経営課題です。

現場でよくある属人化の現象とその影響

設備保全や生産管理の属人化

生産ラインの保守や修理作業は、高度な技能や装置ごとのクセの把握が必要です。

「〇〇さんにしかできない仕事」となりやすく、他のメンバーが対応するとトラブル発生や生産停止につながることも少なくありません。

設備のマニュアルが現場独自のメモ書きで運用されている例も多く、ISO審査時に「記録が管理できていない」と指摘される原因になります。

調達購買・品質管理における属人化

サプライヤーとの交渉や新規メーカーの立ち上げも担当者の経験値に依存するケースが目立ちます。

図面や品質要件、取引慣行の「阿吽の呼吸」への依存は、取引先の選定や品質不良時の是正処置をブラックボックス化し、改善スピードの遅れやトラブル拡大につながります。

品質不良報告やサンプル管理も「いつも同じ人がやっているから安心」となりがちですが、逆に言えば担当者しか流れを把握していない危うさを孕んでいます。

サプライヤー・バイヤー関係における属人化の問題点

バイヤー(購買担当者)の視点から見た属人化リスク

バイヤーの仕事は、コストだけでなく納期・品質・安定供給など幅広い調整力が求められます。

属人化してしまうと、交渉ノウハウやサプライヤーとの信頼関係、過去のトラブル事例などが個人の頭の中に留まりがちです。

この状態では異動や退職のたびに関係性がリセットされ、社内ロスや認証維持の観点でも大きな損失になります。

また、サプライヤー側から見ても「Aさんが担当だから融通が利く」「Bさんになったら話が通じなくなった」といった不信感や混乱を生む要素にもなります。

サプライヤーの立場で知っておきたいバイヤーの本音

属人化したバイヤーは、どうしても自分のやり方やネットワークに固執しがちです。

その一方、ISOや社内規定で求められる「公正・透明な取引」を守るためには、誰もが同水準で業務できる状態を目指しています。

「なぜ資料をフォーマット化するのか」「なぜ記録提出を求められるのか」といった背景には、“担当者が替わってもスムーズに事業が継続できる強い組織”への変革意識があります。

サプライヤーとしては、バイヤーの属人化に頼るのではなく
– どの担当者とも円滑に情報共有できる
– トレーサビリティや是正処置の問い合わせにも即応できる
体制整備を進めることが、これからの時代は信頼獲得につながります。

どうすれば属人化から脱却できるのか?

1. 業務の標準化とマニュアル整備

業務フローや判断基準を「私のやり方」から「会社全体のやり方」に落とし込むことが重要です。

最低限、現場で日常的に使う書式・帳票はシステム化または電子化し、業務マニュアルも写真や動画を多用して誰でもアクセスできるようにしましょう。

また、OJTとOFF-JTを組み合わせた育成プロセスを構築し、ベテランのノウハウを新任者へ意図的に移転する取り組みも欠かせません。

2. 定期的な業務ローテーションと監査

属人化を防ぐには、数年毎の担当者ローテーションや社内監査の実施が最も効果的です。

ISOの内部監査(インターナルオーディット)の仕組みを活用し、部署横断でお互いの業務をチェックすることで“気づき”や“改善ポイント”の発見につながります。

日常業務から「なぜこの工程はこうなっているのか?」と深堀りする文化が根付くと、属人化リスクの低下と現場レベルの底上げが両立できます。

3. DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

属人化解消の切り札として、IoTセンサや生産管理システム、品質管理アプリの導入が広がっています。

単純なExcel入力や紙の帳票を卒業し、「データで現場を見える化」することで、工場全体が強くなります。

記録や履歴管理がクラウド化されれば、バイヤーや品質管理担当者でも過去トラブルの分析や是正措置のPDCAサイクルを加速できます。

アナログ文化からの意識変革が不可欠

「昭和の価値観」との決別

現場でよく聞かれるのは「自分は昔からこうやってきた」「新人にはまだ無理だから」といった“経験至上主義”です。

この空気感を変えるにはリーダー層自らが変革を宣言し、“会社の資産としてノウハウを残し、誰もがチャレンジできる環境へ”と舵を切る覚悟が求められます。

組織全体で「なぜマニュアルや記録が必要か」を腹落ちするまで議論し、工場長や管理職が率先して標準化に取り組みことがISO認証維持への第一歩です。

PDCAサイクルで持続的改善

計画(Plan)、実行(Do)、確認(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回し続けることが属人化防止の根本です。

最初から完璧を目指すのではなく、小さな“標準化”を重ねていくことが大切です。

定期的な勉強会や現場ミーティングを通して、「なぜを問う文化」、つまりラテラルシンキング的に“新たな視点や問い”を持ち込むことで、現場力の向上と組織の底堅さが育ちます。

まとめ:属人化脱却こそ、製造業の成長ドライバー

属人化によるISO認証維持の困難は、今も多くの製造業現場が直面している問題です。

しかし、自社の「弱み」を「強み」に反転させるチャンスでもあります。

昭和のやり方に固執せず、「誰もがやれる」「何かあっても沈まない」現場を作ることは、ISO認証維持はもちろん、企業の持続的成長や新たなビジネス獲得への最短ルートです。

業務の標準化、DX推進、オープンな情報共有で、製造業全体の未来を切り拓いていきましょう。

あなたの現場努力が、次世代の“強いものづくり日本”を支える礎になります。

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