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昭和流の精神主義が合理化を阻む製造業の実態

目次
はじめに―いまだに根強い昭和流の精神主義とは何か
日本の製造業といえば、長らく「世界の工場」としての地位を築き上げてきました。
高度経済成長期を支えたのは、現場の叩き上げの熟練工がもつ技、その底力、そして「気合」「根性」「人海戦術」など、いわゆる“昭和流”の精神主義に彩られた現場文化でした。
ところが、グローバル競争が激化した現代、またデジタル技術が飛躍的発展を遂げた時代にあっても、いまだ多くの製造現場や調達・購買の最前線には「昔ながらのやり方」「精神論的価値観」が色濃く残っています。
こうした文化が現場の合理化、生産性向上、ひいてはグローバル競争力の阻害要因になりつつあることは、現職者であれば誰しもが感じているのではないでしょうか。
本記事では、実際の工場経験と管理職としての視点をもとに、昭和流の精神主義が合理化の壁となっている製造業の現状と、その背景、今こそ打破すべきポイントについて深く掘り下げていきます。
“精神主義”の具体的な弊害―なぜ合理化が進みにくいのか
精神論でカバーする “人依存” の現場
日本の工場では、「現場作業者は一つ眉に汗して長時間耐えるもの」「できるまでやるのが美徳」「ミスは許されない」。
こういった価値観が今も根強く残っています。
生産トラブルが発生したとき、「現場が頑張るから大丈夫」「昨日も徹夜で乗り切ったからなんとかなった」と属人的に解決する事例が後を絶ちません。
本来なら「なぜトラブルが発生したか」「どうすれば根本的に繰り返さずに済むか」をシステムや工程、業務フローの見直しで解決するべきなのに、属人化と精神論で糊塗してしまうのです。
管理職やリーダーも「俺たちの若い頃は…」「もっと気合を入れればできる」といったアドバイスが未だに横行しています。
この結果、“属人化する現場”“伝承されないノウハウ”“やらされる側へのプレッシャー”が蓄積されていき、効率化は進まず、人材育成や離職率悪化の一因にもなっています。
非IT化、紙ベース、現場主義という慣習
業務のIT化・デジタル化が叫ばれて久しいですが、「現場の目で見て、触って、手を動かさなければ意味がない」「紙に書いて回すほうが安心」といったアナログ志向も根強く残っています。
調達購買の現場でも「BOM(部品表)はエクセル管理、承認は紙でサイン」「在庫確認は倉庫まで走って目視」「見積依頼書や発注書はFAXが主流」といった事例を今でもしばしば目にします。
これは、ITツールの導入や自動化に対する不信感(「システムは融通が利かない」「現場の実態と合わない」など)が背景にあり、それが新しい挑戦や投資への障壁となっています。
バイヤー・サプライヤー間の “情” に頼る取引慣行
調達やバイヤーの立ち位置でも、長年の取引からくる「なあなあ」の関係や、「お得意さま意識」が根強いのも、精神主義の一形態です。
価格交渉でも「今回はお互い様だね」「頑張ってあげるから、来月はよろしく」といった、明文化されていない“情”が優先されがちです。
一見、信頼や人間関係という美徳のように思われがちですが、その裏でコスト削減やサプライチェーンの抜本的な最適化のチャンスを見逃す温床となってしまいます。
昭和流精神主義が生まれた歴史的背景と業界構造
高度成長期の成功体験が“改革拒否”の源泉
戦後日本の復興、高度成長、ジャパン・アズ・ナンバーワン…。
かつては「従業員の一丸となった努力」「現場の底力」「終身雇用による結束」で世界的に高い品質と生産性を誇りました。
この時代、精神主義が成功要因であったことも事実です。
しかし、市場が成熟しグローバル化が進んだ今、バリューチェーン全体を最適化するデータ活用、AI・IoTの導入、業務プロセスの自動化なしには太刀打ちできません。
それでも依然として、古き良き時代の精神論が企業文化として色濃く残り、現場改革を阻んでいるのです。
日本のモノづくりを取り巻く “長いサプライチェーン” と下請け構造
日本では川上から川下まで分業が非常に細かく、部品メーカーから最終組立てまでを多重下請け構造が支えています。
この階層構造は、細やかな責任分担や柔軟な調整を可能にした反面、「親会社の顔色をうかがう」「現場の空気を読む」「上下関係を乱さない」など“情”を重んじがちな習慣の温床ともなっています。
変革は部分最適で終わりがちで、全体最適化や抜本改革にはなかなか繋がらないという課題を孕んでいます。
合理化を阻む“昭和的価値観”から脱却するために
“人に頼る現場”から“システムで回る現場”へ
人の頑張りに依存する現場から、仕組みとルールで自律的に高効率が維持できる現場への転換が不可欠です。
生産現場で言えば、目視に頼る品質チェックや、個人スキルで成り立っている段取り作業を自動化設備やAI検査で代替し、“誰がやっても同じクオリティ”を実現しなければなりません。
調達購買の現場でも、見積り調整・交渉・発注フローのDX化(デジタル化)で、情報共有や承認フローをシステム化し、属人性を排除することが大前提になります。
“空気を読む文化”から“データと論理”で議論する文化へ
「現場が納得すればOK」「ムードを壊さぬように」といった阿吽の呼吸から、誰もがデータで客観的に判断し、論点を整理して合理的に意思決定できる組織風土が不可欠です。
MES(製造実行システム)やERPによる現場データのリアルタイム可視化、購買コストのKPI化、サプライヤー評価指標の全社共通化など、データに基づくマネジメントの徹底が必要です。
“情”に頼る調達慣行から、“合理性と透明性”を重視する調達戦略へ
サプライヤーとの“お付き合い”優先ではなく、競争力向上や最適調達を明確に意識した戦略的な購買が必要になります。
サプライヤー選定も「古くからのつながり」や「情」に引きずられるのではなく、コスト・品質・納期・リスク対応力などの客観評価を明確化し、時には思い切って切り替える勇気も問われます。
同時に、提案型サプライヤーとのコラボレーションや、共創によるコストダウンの仕組みづくり(オープンイノベーション)も欠かせません。
ここでも、互いの“精神的信頼関係”に加え、“合理的なパートナーシップ”を磨いていくことが新しいバイヤーやサプライヤーの価値となります。
昭和流の現場文化を活かしつつ、次世代の合理性を組み込むには
成功事例:精神主義とデジタル化のハイブリッド
実際、現場のベテラン技術者の“カン・コツ・勘所”がDXの推進に活かされている例も出てきています。
例えば、長年の経験で蓄積された異常検知能力をAI学習モデルに落とし込む、これまで紙でバケツリレーしていた情報を現場の意見を吸い上げつつデジタル端末化するなど、“現場力+IT”のベストミックスが生まれています。
要点は、「現場の矜持や経験値を否定せず、データやITで標準化し、次世代に継承していくこと」にあります。
昭和精神主義の“良い部分”(職人気質・高い責任意識・妥協なき品質追求)と、デジタルや論理の“新しい風”を融合させることが、脱昭和・新時代の製造業に求められる姿です。
激変する製造バイヤー・サプライヤー像
購買(バイヤー)やサプライヤーにとって、「情」や「精神論」に頼る旧来型から、世界最先端のトレンドを読み解き、時に全体最適を見据えてルールや役割も大胆に変化させるバイヤー像が主流になっています。
また、サプライヤーは「やってくれと言われたからやる」から「こうすればもっと良くなります」「コスト・品質・納期をバランスして提案できる」トータルバリュー志向のパートナーとして変わる必要があります。
まとめ―昭和流価値観から抜け出し、進化する製造業へ
日本の製造業をここまで培ってきた“昭和流の精神主義”。
決して全てを否定するものではありません。
しかし、「頑張ればなんとかなる」「根性で乗り切る」「紙・アナログの方が安心できる」という価値観だけでは、合理的なプロセス革新や生産性向上、グローバル標準の競争力には限界があります。
今こそ、「人の気持ち」や「現場力」が持つパワーと、IT・デジタルやデータ活用、客観的な評価の両輪で進化していく。
昭和の良さを活かしつつ、次世代の合理性を取り入れる、そのラテラルな視点こそが、日本の製造業の明日を切り開く鍵となるはずです。
“精神論”に寄り過ぎた現場を変えたいと考えるすべてのバイヤー、工場長、現場リーダー、そして未来のサプライヤー候補のみなさま。
古い殻を破り、“誰もが誇れる強い現場”をともに目指していきましょう。
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