投稿日:2025年10月4日

属人化で改善提案が進まず現場力が落ちる製造業の問題

はじめに:属人化が引き起こす現場の課題

製造業において「現場力」は企業の競争力そのものです。
しかし、多くの現場で今も根強く残る「属人化」は、改善活動の停滞や現場力の低下を招いています。
今回は、長年製造業の最前線で観察してきた視点から、なぜ属人化が改善を妨げるのか、どうすればそれを克服できるのかを、実体験や最新の業界動向を交えて詳しく解説します。

属人化とは何か?現場で起きやすい構造的な背景

属人化とは、業務やノウハウ、判断や作業の標準が特定の個人に依存し、その人しか分からない・できない状態を指します。
製造業の現場では、長年勤めあげたベテランの作業者が「伝承者」となり、暗黙知として経験を積み重ねる一方で、その技術や知識は体系化、可視化されません。
結果として以下のような状況が生まれます。

  • 誰もが同じ作業をしているはずなのに人によるアウトプット品質に違いが出る
  • 新しい人材が来ても、生産性やミス発生率が安定するまで長い時間がかかる
  • 「改善提案」を出すのもベテランや限られた人だけになる
  • 作業マニュアルや現場のルールが形骸化している

特に昭和時代からの町工場や中小の製造現場では、「職人気質」とも呼ばれる文化がいまも強く、これが改善提案のボトルネックになり続けています。

属人化による現場力低下の実例

私が以前工場長をしていた現場でも、ある加工機の調整がベテラン作業者しかできませんでした。
その人が休むと、調整不良で不良品が多発し納期遅れが常態化。
他のメンバーは「やり方が分からない」「教えてもらえない」と委縮し、現場全体から「改善しよう」という雰囲気すら消えていました。

なぜ属人化で改善活動が進まないのか

現場改善を文字通り「現場発」で回すには、次の3つが必要です。

  1. 誰でも現状把握・改善検討・実践ができる仕組み
  2. 成功・失敗のナレッジ共有
  3. 従業員が「改善してもいい、してほしい」と思える空気

属人化の現場では、これらが阻害されます。

ボトルネック1:ナレッジが属人化し検証できない

「うちの会社はマニュアルも作成ルールもある、引継ぎもやっている」のに改善が進まない現場ほど、「例外対応」や「コツ」が個人の裁量・能力に預けられています。
誰かが「もっとこうしたらよい」と提案しても、「それは今やっている方法と違うからダメ」「このやり方の理由は昔からだから分からぬ」とはねつけられる。
検証も改善も回せません。

ボトルネック2:改善提案や実行が特定の人のみになる

改善提案や新しいチャレンジは、同じ作業を複数人が担当し、それぞれの「違和感」や「気づき」をぶつけ合うことで初めて質が高まります。
誰もが手順書通りに作業していれば、「なぜここはこのやり方なのか」「こう変えた方が効率的では?」と気づきやすい。
属人化の現場では、「気づけるのは一人だけ」で、多様な改善策が出ません。

ボトルネック3:失敗事例や成功事例の共有がされない

「失敗は隠すもの」「ベテランのやり方は絶対」。
こういった暗黙の了解が強い現場では、改善活動のPDCAが回りません。
もし失敗しても原因の共有や次へのステップが語られず、同じ失敗が繰り返され現場ノウハウも蓄積しません。

なぜ今、属人化を放置するのは危険なのか?時代の大きな転換点

従来は「職人技」の現場力が強みとなり、日本のものづくりを牽引してきました。
しかし、今や「昭和流」だけでは立ち行かなくなっています。

少子高齢化・技能伝承の限界

高齢化と若手不足によって、ベテランが突然引退したとき技術がごっそり消失する事例が増えています。
「人に頼る」現場のままだと、事業継続すら危ぶまれる時代に突入しています。

顧客要求・グローバル化と品質管理の高度化

かつては「細かなバラつき」や「現場裁量」が許容されてきた世界でも、今やISOやIATFなどグローバル規格で品質が数値で管理されます。
どの現場担当でも同じ品質で、原因分析やフィードバックも仕組み化されていなければ、国内外の顧客から見放されます。

デジタル技術導入の障壁

DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せ、自動化・IT化・データ活用が急速に進んでいます。
属人化が進んだ現場では、「どうやって現場情報をデータで引き出したらよいか分からない」「ベテランが抵抗して新システムが定着しない」といった新たな壁にも直面します。

属人化を脱却するための実践的アプローチ

現場改革は一朝一夕にはいきません。
しかし、属人化脱却は必ず「仕組み」と「風土づくり」の両輪で取り組む必要があります。

標準化の徹底と現場主導の改善サイクル

まずは属人化業務の洗い出し、①作業手順の「見える化」②基準や条件を予め言語化して残す③定期的な手順見直し会議。
この流れを徹底しましょう。
「標準化」は単なるマニュアル化ではありません。
今やっている業務の「なぜ、こうやるのか」という根拠を言語化し、誰でも考えて検証できる土壌を育てる活動です。

誰もが気づきを言える現場風土づくり

リーダーや現場長が「気づいたことを必ず声に出す」「現場の小さな提案も真摯に受け止め評価する」という場を仕掛けることが大切です。
日々の朝礼や改善会議で、「新人が出した改善提案」を積極的に採用したり、「失敗事例も必ず共有・フィードバック」させることで風通しの良さと学びの蓄積が進みます。

デジタルツールの活用による可視化

IoTセンサーやデジタル作業指示システム、作業日報の電子化など、テクノロジーを活用して暗黙化しがちな現場業務を丁寧に記録・分析していきます。
これにより、業務の属人領域がどこにあるかが浮き彫りになり、ピンポイントでの改善が進みます。

現場と調達バイヤー・サプライヤーの新しい関係性

属人化を脱却し「現場力の再構築」に成功した製造現場は、バイヤーとの間で新たな信頼を築くことができます。

属人化脱却が信頼と取引拡大を生む

過去には、「困ったらあの人に聞けばいい」といった人依存のビジネスだったかもしれません。
しかし今後は「どの担当者でも同じように対応できる」「変更点や改善内容も履歴として残っている」ことで、サプライヤーはバイヤーから信頼・発注拡大の条件を獲得できます。
また調達バイヤー側も属人化支配のサプライヤーリスクを避けたい傾向が強まっています。

サプライヤーがバイヤーの期待を理解するには

サプライヤーは自社の現場が「この仕事は○○さんにしかできない」のではなく、「誰でも同じ成果が出せて、改善提案も全員が出せる現場」になることで、バイヤーに対して「再現性あるものづくり」の安心感を提供できます。
結果、価格だけでなく「改善提案力」「対応力」が評価され選ばれる存在になれます。

まとめ:属人化を乗り越え「現場力」を再生しよう

現場の属人化は、昭和的な「現場の勘・職人芸」が強みであった時代の名残ですが、現在の製造業では大きなリスクであり制約です。
標準化→風土改革→デジタル化の3つの柱で脱属人化を進め、個人依存から現場全体の「組織的現場力」へとアップデートすることが、変化の激しい時代を生き残る唯一の道です。
現場で働く方、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして信頼され続けることを目指す方、ぜひ現場の属人化問題を自分ごととして見直し、今日からの改善に取り入れてみてください。

製造業の発展は「現場力」の進化にかかっています。

You cannot copy content of this page