投稿日:2025年10月6日

セキュリティ規制に対応しきれない問題

はじめに:昭和から続くアナログ体質とセキュリティ規制の波

製造業の現場は、単なるモノづくりの場であるだけでなく、巨大なサプライチェーンの中核を担う要として、常に進化を求められています。

しかし、多くの現場では、昭和から続くアナログな業務フローや人に依存した管理体制が色濃く残っています。

そんな中、昨今のDX化やグローバル化の影響で、さまざまなセキュリティ規制が加速度的に強化されています。

特に、ISO/IEC27001やNISTサイバーセキュリティフレームワーク、顧客からのセキュリティ要求など、工場や調達現場にも直接的な「対応」が求められるようになりました。

ですが、その対応が現場で進まない、あるいは「対応しきれない」という事例が後を絶ちません。

今回は、現場目線でこの問題の本質と対応策を掘り下げていきます。

なぜ「対応しきれない」のか?現場目線で考える原因分析

アナログ業務とシステム化の狭間

多くの製造業現場では、FAXや紙ベースの伝票、手書き台帳が当たり前に使われ続けています。

効率重視で安定稼働を第一に考える現場ほど、過去に痛い目を見たIT化失敗の教訓から「今のままが安心」となりがちです。

セキュリティ規制に即したデジタル化を進めるための「土壌」そのものが未整備なことが多いのです。

セキュリティ=IT部門任せの意識

サイバーセキュリティや情報管理という言葉を聞くと、「それはIT担当がやるものでしょ?」と現場が距離を取る傾向があります。

ですが、現代の規制や顧客要求は「現場の帳票・作業・製品設計・調達先まで含めて情報管理を可視化せよ」と迫ってきます。

この意識のギャップが、具体的な対応の遅れにつながっています。

属人化・引き継ぎ不足によるブラックボックス化

加えて、ベテラン社員の暗黙知に頼る運用ですと、セキュリティ規制の実務的な運用設計そのものが個人技になりがちです。

記録や手順が整備されず、「その人がいないとわからない」「誰も全体像を把握していない」という事態が生じやすいのです。

どんな問題が現場で起きているか

顧客監査・外部監査での指摘

大手バイヤーや自動車OEM、米系グローバル企業などは定期的にサプライヤーのセキュリティ体制を監査します。

パスワード管理台帳が手書き、USBメモリの持ち出し管理が曖昧、社員教育記録が不十分、など旧態依然とした運用が厳しく指摘されています。

これが直接的に「取引停止」「新規受注不可」などの重大なリスクに発展しています。

図面・技術情報の漏洩リスク

電子メールで重要な図面データを簡単に外部サプライヤーへ送る運用、共有フォルダのアクセス権限設定不備など、些細なミスが機密漏洩につながりかねません。

サイバー攻撃や内部不正への「脆さ」が残されたまま業務が進められる現状は、ビジネス損失のみならず企業の存亡すら左右します。

現場社員の「負担増」「やる気低下」現象

従来なかった煩雑なIT操作やパスワード変更、研修受講などが増え、現場社員からは「本業に集中できない」「形だけで意味がない」という不満も多く聞かれます。

現場主導でのセキュリティ対策に失敗し、逆効果を生んでいるケースも少なくありません。

業界特有の「抜け出せない」構造的問題

レガシー設備と最新ITの共存

半世紀以上前の制御機器やPLC(プログラマブルロジックコントローラー)が現役で稼働しており、最新ITと物理的・論理的につながらない現場が多いのが実情です。

「古い設備を止めるリスク>セキュリティ規制への適合」となり、最短でも計画的な更新・統合がなければ抜本対策は打てません。

系列重視・取引関係の慣習

伝統的な日本の製造業には、「系列」「顔の見える関係」「長期取引重視」という風土が根付いています。

新規サプライヤー参入のハードルが高く、セキュリティ要件未達でも「まあそこはうちが目をつぶる」となる取引実態が今も一部に残ります。

グローバル企業や同業他社が規制強化にシビアになっていくほど、「ガラパゴス」な状態が露見しやすくなっています。

人材不足と教育の遅れ

セキュリティ人材は大手ITベンダーなどに集まりがちで、地方工場や中小企業では育成も調達も困難なのが現実です。

技術・調達・品質・生産管理といった「現場のプロ」ほど、セキュリティ教育の機会が後回しにされ、知見が蓄積しません。

ラテラルシンキングで考える、現場目線の解決策

対症療法から「現場×IT連携」へのシフト

「うちの現場には難しい」と思い込まず、まずは小さな『現場×IT』の連携ポイントを増やしましょう。

例えば、作業日報や調達リストをクラウドベースに置き換え、元帳や台帳のペーパーレス化から始める。

セキュリティ規制「だけ」に目を向けるのではなく、“業務の効率化・ミス削減”とワンセットで現場改革を進めることで、理解・協力が得やすくなります。

ベテランの知見を「ルール」として見える化

暗黙知としてベテランが口伝してきた業務フローや注意点を、手順書やチェックリスト、動画マニュアル化することで属人化を排除しましょう。

こうした活動は、属人化リスク低減だけでなく、セキュリティ対応の「証跡」としても有効です。

バイヤー視点を持った機密管理意識の醸成

ものづくりの現場で働く方は、「うちは下請け、バイヤーの細かい要求には合わせられない」と感じる瞬間が多いでしょう。

ですが、外から見たときの調達先リスク・品質リスク・情報流出リスクに対する“バイヤーの本音”を少しでも理解できると、対応への納得感が大きく変わります。

サプライヤー側でも、バイヤーがどんな目線・期待値で情報管理を求めているかを学び、双方向の対話を進めることが時代の要請になっています。

サンドボックス型の「実験」を推進

現場の一部ライン、あるいは一工程だけを実験的にセキュリティ規制準拠で運用してみる「サンドボックス方式」は有効です。

全社一律で大改革…ではなく、問題点をあぶり出しながら徐々に「成功モデル」を横展開することで、無理なく体制強化が可能です。

未来につなげるための現場の覚悟

セキュリティ規制は、グローバルサプライチェーンで生き抜くための“新しい生存条件”となっています。

アナログな価値観、慣行が残る製造業現場こそ「現場目線で課題を正しく把握し、小さな一歩から変革を積み重ねる」ことが重要です。

経営・管理部門だけでなく、調達購買・生産管理・品質・現場オペレーターまで、多様な立場が連携して日本のものづくりが世界で勝ち抜くための実践知を、ぜひ共有していきましょう。

現場でこそ輝く“昭和の知恵”と“令和のデジタル”を融合させ、今こそ新たなものづくり文化をともに創り上げていきましょう。

You cannot copy content of this page