投稿日:2025年10月6日

スープの風味を保つ瞬間凍結とリテルト殺菌の工程差

はじめに

食品製造業において、消費者においしさと安心を届けることは何よりも重要です。
特に「スープ」のような液体食品の分野では、工場の製造工程において品質保持と安全性確保を追求する技術革新が日々求められています。
中でも注目されているのが、スープなどの食品の風味や食感、色合いを“できたて”のまま長期保存するための「瞬間凍結」と「リテルト殺菌」という2つの保存技術です。

本記事では、製造業現場での長年の知見を生かし、スープの風味を守る瞬間凍結と、常温流通や長期保存を可能にするリテルト殺菌、それぞれの工法の特徴や工程、実践的なメリット・デメリット、業界動向も交え、現場目線で詳しく解説します。

スープ製造における品質保持の重要性

食品加工現場では、できたてのスープを如何にしておいしさそのままに消費者へ届けるかが大きな課題です。
味や香りはもちろん、色やとろみなど、官能的な品質も重視されます。
さらに、安全な状態での長期保存、輸送コスト効率、作業の自動化や省人化、法令規制への対応も求められます。

このような背景から、瞬間凍結技術とリテルト殺菌技術は、それぞれ独自の進化を遂げ、製造業界に根付いてきました。

瞬間凍結(急速凍結)とは

工程の概要

瞬間凍結とは、できたてのスープを急速に-30℃以下の低温で一気に凍らせることで、おいしさや食感、色をキープする冷却保存技術です。
通常、製造直後に自動充填されたスープバッグや容器を、トンネルフリーザーや液体窒素などを用いて20分~1時間程度で芯まで冷凍します。

食品品質への影響

急速冷凍のメリットは、氷結晶を微細化し、細胞壁の破壊を最小限に抑えられることです。
これにより、解凍後のドリップ(汁の流出)が少なく、スープ本来の香りやコク、野菜や肉の食感が再現されやすくなります。

特に、だし感やとろみ成分(デンプン・コラーゲンなど)の品質を守りやすい点が、和洋中問わず多くの飲食店や高級惣菜メーカーで支持されている理由です。

コールドチェーンと業務フロー

瞬間凍結後は、冷凍倉庫(-18℃以下)で保管し、流通も冷凍専用車や店舗の冷凍庫が不可欠です。
コールドチェーン(低温物流)の維持がコスト要因になりがちですが、昨今では業界DXの進展や、自動化冷凍倉庫の普及で効率的な運用が進んできました。

導入の工夫と留意点

瞬間凍結設備は初期投資・ランニングコストが大きいですが、1回に処理できるスープ量や容器形態の多様化を工夫すれば、歩留まりや生産性が大きく向上します。
また、レトルト殺菌に比べて添加物を減らして商品設計でき、ナチュラル志向や健康志向にも対応可能です。

一方で、解凍時の温度管理や物流事故が起きると、品質劣化や菌の増殖リスクがあるため、全工程で従業員教育や監視システム導入が欠かせません。

リテルト殺菌(レトルト殺菌)とは

工程の概要

リテルト殺菌とは、密封容器またはレトルトパウチに充填したスープを、120℃前後の高温高圧で数分~数十分加熱殺菌する保存技術です。
主に加圧加熱式の装置(レトルト釜)で一括処理し、冷却後は常温で保管・流通が可能になります。

食品品質への影響

最大の強みは、常温での長期保存(最長1~2年)が可能なことです。
冷凍保存に比べ物流コストが下がり、災害時の備蓄やギフト商品など幅広い用途に向いています。

一方で、高温長時間の熱処理は、スープの香り成分や食材本来の色・食感へ影響を及ぼしがちです。
とろみ具材(でんぷん・コラーゲン)は特に分解・ゲル化が進み、粘度や口当たりが変わりやすい点は商品設計上の課題です。

業務フローと自動化の進展

大量生産やライン化、作業者負担の軽減に非常に適しています。
昨今はリテルト装置の自動化・Iot監視、トレイ搬送・充填・密封技術が進化し、生産ラインの省人化が進展しています。

また、食品表示法やアレルゲン法令対策など、コンプライアンスに対する工程管理もシステム化されています。

導入の工夫と留意点

リテルト商品は容器材料の選定、生産工程での二次汚染防止、商品設計時の水分活性調整(脱気・pH調整・添加剤選定)が品質維持のポイントです。
また、加熱による加水分解・退色リスクを抑えるために、Pre-cook工程(食材下処理・半調理)や殺菌プロファイル最適化を細かく設定することが重要です。

瞬間凍結とリテルト殺菌、どちらが優れているか?

現場目線でのメリット・デメリット

両者には一長一短があり、最も大切なのは「用途・ターゲットに合わせた技術の使い分け」です。

・瞬間凍結は、味や見た目重視の高付加価値商品に向きます。
調理後即座に凍結することで、おいしさをそのまま閉じ込められますが、コールドチェーンの維持がマストとなり、物流コストが高くなります。
また、在庫管理の難しさがあります。

・リテルト殺菌は、省コストかつ長期常温保存が可能なため、日常食材、非常食、低価格帯惣菜の大量生産に向いています。
一方、“家庭の味”再現には技術的工夫・添加物の補完が必要となります。

昭和から続く業界構造の壁

双方の技術が普及しはじめた昭和の時代から、「冷凍=高級・外食」、「常温=家庭的・大衆」といったイメージが一部業界内にも根強く残ってきました。
しかし、近年は冷凍物流の効率化、レトルト惣菜の高級化、ミールキット需要の拡大などが進み、選択肢そのものが大きく広がっています。

今後は、“ひと手間価値” を考えた商品づくり、サプライチェーン全体を見据えた生産投資、環境負荷低減(省エネ化・プラ削減)も一層重視されていくことでしょう。

サプライヤー、バイヤー、現場担当者が今考えるべきこと

バイヤー目線:何を重視して選定するか

量販店・外食チェーンバイヤーは、商品差別化、コスト、保存期間、ロスリスクで選びます。
自社の販売チャネル(冷蔵・冷凍・常温・EC)に合った保存技術をしっかり見極める必要があります。
また、サステナビリティや安心・安全基準(HACCP、ISO22000 など)もチェックポイントとなります。

サプライヤー目線:どんな提案・改善が期待されるか

OEMメーカーや一次サプライヤーは、「少量多品種・短納期」化、「小袋化」「環境配慮容器の提案」「原材料トレーサビリティ」の要求が年々高まっています。
保存技術を上手に使い分け、受注生産型から予測生産型へのシフト、最終バイヤーの課題や狙いに応じた商品サンプルの用意が求められます。

現場担当者目線:今こそ改善・変革できること

現場では、瞬間凍結・レトルトそれぞれの自動化、省人化、歩留まり改善への投資判断、オペレーター教育が業界DXのポイントになります。
また、工程間の温度監視やIoT遠隔監視、衛生強化や作業環境改善によって、従業員の安心・安全確保と品質向上を共存させる現場改革も必要です。

今後の展望と製造業の新たな地平線

日本の食品メーカーは、世界最高水準の衛生・品質管理技術を持っています。
一方で、昭和の経営慣習や“人頼み”の作業体制からの脱却も課題です。
今後、AI・IoT・ビッグデータ解析を駆使した「最適生産」「受注即時生産」モデルの導入、環境に配慮した新容器・再生資源活用、“究極の出来たて再現技術”の実用化が求められています。

瞬間凍結とリテルト殺菌、どちらも「ただの技術」ではなく、“エンドユーザー体験を追求するための手段”であることを強く認識すべきです。
それぞれの技術が補い合い、さらに新たな技術や考え方と融合していくことで、食品業界の新しい地平線が開けるのです。

まとめ

スープの風味やおいしさを守るための保存技術として、瞬間凍結とリテルト殺菌はそれぞれ歴史と進化を続けてきました。
現場での着点・課題は異なりますが、「用途・目的に応じて最適な技術を選び、さらに進化させること」が製造業DX時代に求められています。

バイヤー、サプライヤー、現場担当者が、それぞれの立場で知恵を出し合い、日本のものづくりの底力を発揮するためにも、現場知と新しい発想を融合し続けていきましょう。

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