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マグカップの転写プリントがはがれない昇華転写と焼成工程

目次
はじめに:なぜマグカップのプリントは「はがれる」のか?
マグカップのオリジナルプリント市場は、ノベルティやギフト需要の高まりとともに年々拡大しています。
しかし、一部の業者や消費者から「すぐにプリントがはがれてしまう」「食洗機で色あせる」といった声も後を絶ちません。
この不満の多くは、プリント方式や工程管理の違いから生じています。
特に、業務用や販促品として繰り返し使われるマグカップにおいて「プリントの耐久性」は最重要課題と言えるでしょう。
本記事では、「はがれない転写プリント」を実現するために不可欠な昇華転写方式と、焼成工程の具体的なポイントを、現場で培った経験とノウハウを交えて解説します。
製造現場ならではの視点、バイヤーやサプライヤーが気を付けたいトレンドを織り交ぜ、既存の「昭和的なやり方」から一歩抜け出すヒントを探っていきます。
転写プリントの仕組みと種類
1. 転写プリントの原理とは
転写プリントとは、紙やフィルムなどの媒体にあらかじめデザインを印刷し、それを対象物(マグカップなど)に熱や圧力で移し取る技術です。
従来は陶器用の転写紙を使い、釉薬(うわぐすり)上のマグカップにプリント層を貼付→焼成する方法が一般的でした。
ただし、これには課題もあります。
印刷と素地への密着性が低い場合、剥離や色落ちが起きやすい。
また、複雑な多色印刷や写真クオリティの再現性に限界がありました。
2. 主な転写方式の特徴と違い
マグカップ転写プリントの主な方式は大きく次の3つに分けられます。
・水転写(セラミック転写)
・昇華転写
・UVプリント(ダイレクト印刷)
中でも「はがれにくさ=耐久性」および「量産性・安定品質」の視点から現在最も支持されているのが昇華転写方式です。
昇華転写方式が「はがれない」理由
1. 昇華転写とは何か?
昇華転写は、専用インクを使って紙にデザインを印刷し、そのデザインを高温でマグカップなどの専用素材に「転写」する方法です。
この際、昇華インクが熱で気化(昇華)し、マグカップ表面のポリマーコーティング層に浸透することで、表面上にインクが「乗っている」のではなく「染み込む」形になります。
2. 「染み込む」から、はがれない
この“浸透(染み込む)”現象こそが、昇華転写の最大のメリットです。
表面に物理的に貼り付ける水転写やUVプリントとは異なり、剥離・摩耗にも強く、食洗機や電子レンジにも耐える高い実用性を発揮します。
– インク層が表面ではなく素材内部に定着
– 表面に凹凸や段差ができない
– 擦過や高温反復にも抜群の耐久性
筆者自身、工場にて数千個単位で食洗機通しのテストを行いましたが、昇華転写の耐久性には目を見張るものがありました。
現場目線で読み解く:昇華転写が広がった背景と業界動向
現場から読み解く「昭和的」課題
かつては陶器屋の職人による手貼りの水転写が主流でした。
印刷部門と焼成部門は別ラインとなるアナログ分業。
結果、「転写紙のはみ出し」「釉薬とプリント層の定着不良」など“ヒューマンエラー”が再発し、品質バラツキに悩む現場も多かったのです。
さらに、こうした昭和的な現場では、「定着温度を温度計で測る」ではなく「釜の“カン”」や「見た目」で調整判断する伝統も強く残っています。
これが「何かあったときのトレーサビリティ欠如」や、「品質改善PDCAの遅れ」につながっていました。
転写プリントの自動化・デジタル化の波
近年は
・昇華転写方式の普及
・プリント自動化設備の導入
・焼成工程のIoT化(温度履歴のデジタル管理など)
が急速に浸透しています。
例えば、昇華転写用プリンターの普及とともに、1人のスタッフでも大量の多色・高精細デザインを短納期で生産可能に。
焼成ラインの温度・時間管理もPLCや遠隔制御装置で一括管理され、仕組みとルールで「品質のバラつき」を抑える現場が増えたのです。
業界動向と顧客ニーズの変化
今や「安くて速いプリント」が当たり前。
加えて「食洗機対応」「電子レンジ対応」「企業ロゴや写真の忠実再現」「10年使っても色落ちなし」まで求められる時代です。
量と質の両立、短納期対応に加え「安心して使える耐久性」がバイヤーにとって発注先選定の重要指標になりました。
この流れを受け、製造側も「高効率・安定品質」「工程トレーサビリティ」に投資を惜しまなくなってきています。
昇華転写の焼成工程と「はがれない」作り方の実際
1. 昇華転写に適したマグカップ素材
昇華転写向けには「ポリマーコーティング済み」のマグカップが必要です。
陶器表面を特殊加工し、昇華インクが熱で反応できる「受け層」を作ります。
この素地選びを怠ると、どんなに設備やインクがよくても定着力が出ません。
マグカップ原材の歩留まり管理やサプライヤー選定は、バイヤーにとっても重要なファクターとなります。
2. 成功のカギは「温度管理」と「圧着」
昇華転写は、180~200℃程度の高温状態を約60秒〜4分キープし、転写紙をマグカップに圧着します。
このとき
・圧力が弱い(接触が甘い)
・温度が不均一
・加熱時間が短い
と均一な色再現や密着ができません。
工場では
・ヒーター/プレス機械の定期点検
・温度PID制御(誤差±2℃以内とする)
・転写部位全体への均一加熱設計
・万一の焼成不良品を目視&AI画像判定
など、現場レベルでの工程管理・自働化を進め、不良発生率の“見える化”も定着しています。
3. 焼成後の品質検査
焼成後は
・目視検査(色ムラ・剥離)
・洗浄耐久テスト(食洗機30回以上通し)
・落下や摩耗テスト
といった工程検証が欠かせません。
とくに品質保証が重要なOEM受託現場では、IoT×データの「焼成ログ」「検査履歴」と組み合わせて、トレーサビリティ向上に一役買っています。
バイヤー・サプライヤーが押さえるべき現代的昇華転写プリント発注のポイント
発注側(バイヤー)での着眼点
– 単なる「印刷価格・ロット」だけでなく
– ・使用マグカップ素地のポリマー層品質は?
– ・転写・焼成の温度管理は設備デジタル化済みか?
– ・食洗機・電子レンジ耐久テストの成績
こうした工程監査ポイントをヒアリングすることで、ワンランク上の「はがれないプリント」を発注可能です。
提案側(サプライヤー)の工夫ポイント
– 単なる「デザイン再現力」を打ち出すのではなく、
– ・耐久テストデータの開示
– ・工程見える化やAI検査の活用
– ・品質保証体制の説明
など、「安心・信頼」を裏付ける提案が顧客獲得の決め手となっています。
「うちはデジタル温度ロギング導入済」「1個単位の生産履歴証明ができる」等、リアルな現場ならではの情報開示が強みになります。
まとめ:現場が変われば、製造業全体が進化する
マグカップの昇華転写と焼成工程における「はがれにくいプリント」。
その実現は、単なる作業仕様(方式・温度)だけでなく、設備投資、工程デジタル化、そして現場品質文化の変革までをもたらしています。
産業現場の“昭和的”常識にとらわれず、しっかり「工程でつなぐ品質管理」、人の経験値×デジタルの力によるイノベーションが、新しい地平線を切り開きます。
これからの製造業は、「耐久性」というベーシッククオリティへの信頼が無ければ、差別化は難しい時代です。
バイヤー、サプライヤー、製造現場に関わる全ての方が、“現場で本当に使える品質・業務革新の目”を養い、日本のものづくりをさらに高めていきましょう。
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