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防炎加工後の風合い低下を抑える薬剤選定と塗布量のバランス

目次
はじめに
防炎加工は、火災リスクの低減や安全確保のため、工場や公共施設、宿泊施設などに不可欠な工程となっています。
しかし、防炎加工後にしばしば問題となるのが「風合い低下」です。
本来の柔らかさや手触り、質感が失われてしまうと、製品の価値そのものが損なわれかねません。
長年、製造現場で工程設計や品質管理に携わってきた立場から見て、薬剤選定と塗布量のバランスをいかに調整するかは、まさに“職人技”とも呼べる領域です。
この記事では、現場感覚と実体験に根ざした視点で、防炎加工後の風合い低下を抑える方法、薬剤選定のポイント、塗布量制御の勘所、さらに昨今の業界動向についても深堀りします。
また、バイヤーやサプライヤーの視点も織り交ぜ、実務に即した内容で解説していきます。
なぜ防炎加工で風合い低下が起きるのか
防炎加工のメカニズムと風合いの関係
防炎加工では、繊維や生地に難燃性の薬剤を塗布または浸透させ、火がつきにくく、自己消火性を高めます。
この薬剤が繊維内部に作用することで、化学構造が変化し、生地表面の質感が変わることがよくあります。
防炎薬剤は多くの場合、溶液中のポリマーやリン化合物、ホウ素化合物、ハロゲン系物質などで構成されており、これらが繊維の隙間を埋めたり架橋したりすることによって、繊維本来のしなやかさが犠牲となるのです。
昭和のアナログ製法と現代プロセスの違い
かつての日本の製造業は、とにかく「しっかり防炎性能を担保する」ことが優先され、薬剤は多めに、手加減なしで投入される傾向が強かったです。
現場作業員の「感覚」に頼ったやり方は、ばらつきや過剰塗布を招き、「ペタッとした」風合いにつながっていました。
近年は、機器化・自動化が徐々に進行し、薬剤量や塗布厚の自動コントロールも広がりつつありますが、衣服やインテリア、車両内装材など「風合い」に敏感な分野では依然として“勘と経験”の世界が色濃く残っています。
防炎加工薬剤の主な種類と特徴
無機系薬剤と有機系薬剤
防炎薬剤は、大きく「無機系」と「有機系」に分類されます。
無機系薬剤(例:リン系、ホウ酸系、無機塩)は、コストが比較的低く、高い防炎性を付与しやすいのが特徴です。
ただし、生地への沈着感が強く、どうしても「ゴワゴワ」「カサつき」「ベタつき」など、風合い低下の原因となりやすい傾向にあります。
一方、有機系薬剤(例:含リンポリマー、有機窒素化合物、ハロゲン系)は、分子構造を細かく設計できるため、防炎性と機能性(柔軟性、撥水性など)のバランスが取りやすいですが、コストや環境規制への対応がポイントとなります。
最新の環境対応型防炎薬剤とは
サステナビリティへの意識が高まる中で、「ノンハロゲン」「ホルムアルデヒドフリー」「生分解性対応」などの環境配慮型薬剤へのシフトが急速に進んでいます。
ただし、これらの薬剤は従来品よりも処方設定が難しく、「想定外の風合い低下」や「難加工」リスクも潜んでいます。
薬剤メーカーと開発現場が密に連携し、加工現場でのテストを繰り返すサイクルが必須です。
風合い低下を抑える薬剤選定のポイント
製品用途に最適な「防炎スペック」の見極め
まず最重要なのは、製品用途ごとに必要な“防炎性”と“風合い”の落としどころを明確にすることです。
例えば、消防服や産業用手袋は防炎性最優先ですが、オフィスのカーテンやインテリア、子ども向け衣類は風合いの柔らかさ・見た目も決定的に重要です。
そのため、JIS規格(L 1091、L 1092)など各種基準を遵守したうえで、顧客やバイヤーと綿密にすり合わせを行い、「どのレベルで合格とするか」の合意形成が肝心です。
「風合い保持剤」との組み合わせ活用
薬剤メーカーによっては、防炎主成分に加えて「柔軟成分(風合い保持剤)」を併用する提案も進んでいます。
界面活性剤やポリエチレングリコール、シリコーンオイル系の添加剤を使うことで、生地への被膜形成をコントロールでき、硬化抑制や、しなやかな手触りの実現に効果があります。
ただし、塗布層が増えると「着色」「ムラ」などの新たな課題も発生するので注意が必要です。
塗布量とバランスの最適化
定量管理の重要性と現場でのチャレンジ
薬剤塗布量の管理は、現場オペレーターの腕に大きく依存することが多いです。
たとえば連続パディング方式(一括浸漬)では、ロール圧や速度、水分率などに細かなバラつきが生じやすく、薬剤が多すぎると必要以上に生地が硬化し、逆に少なすぎると防炎性能が低下します。
一方、スプレー方式やコーティング方式を使う場合でも、厚塗り・薄塗りが発生しやすく、「標準作業書」どおりにやっても狙い通りの出来にならないことが現実としてあります。
AI・IoTを利用した塗布量の最適化
近年は、AI解析やIoTセンサーを使って“塗布量の自動フィードバック制御”も試みられています。
例えば、インラインで生地表面を非接触で測定し、微妙な色変化から塗布厚を評価。
データを蓄積し「良好な風合い」と「適正な防炎性」が得られる範囲を自動判別する仕組みを導入する現場も登場しています。
これらは大手繊維メーカー・加工プレーヤーだけでなく、下請け・中小工場でも徐々に導入が進んでいます。
昭和的な“勘と経験”と、最新DXの融合こそ、現場改革のカギとなっています。
バイヤー・サプライヤー双方にとっての現場主義の重要性
バイヤー側の思考と品質要求
バイヤー(調達・購買担当)は、「規格・コスト・安定供給」だけでなく、最終製品のユーザーが満足する“質感”まで目を配る必要があります。
現場見学や試作現場での立ち合いチェックを通じ、あえて「なぜこういう出来上がりになるのか?」の“問い”を深く掘る姿勢が重要です。
形式的な書類審査や、数値データだけでは埋めきれない“肌で感じる品質”の見極め力を磨くことが、競争優位をもたらします。
サプライヤー側の心構えと提案力
サプライヤーは、バイヤーが“本当に求めていること”を汲み取るヒアリング力と、現場で鍛えた知見を活かした加工提案力が問われます。
「これが現場限界」「風合い保持にはこの組み合わせがおすすめ」など、長年の加工例からくるリアルなアドバイスやサンプル提案を積極的に行う姿勢が、顧客との信頼構築につながります。
「バイヤーの想定通り」ではなく、「現場で得られる最良解答」に導けるのは、やはり現場主義に基づくコミュニケーションです。
よくあるトラブルと改善のヒント
防炎性能不足・風合い低下の典型例
現場では「風合いを守ろうとして薬剤薄めすぎ→防炎試験失格」または「防炎性能を過度に追求して厚塗り→ カチカチの仕上がり」といった失敗が日常茶飯事です。
また、バラツキ発生時のロット管理や、不適合品混入リスクにも注意が必要です。
現場で実現できる改善策とポイント
実務現場で効果的なのは、
– サンプル染色・加工による小ロットテストの徹底(量産前に必須)
– 作業員の勘だけに頼らず、数値(重量比、パディング率、乾燥温度・時間など)で工程管理する仕組み化
– 薬剤メーカー、ユーザー、現場オペレーターの“3者会議”による課題共有
などです。
最終的には、数回のPDCAサイクルを高速で回し、“現場に根付いた標準手順”を確立することが最適解です。
これからの防炎加工現場はどう変わるか
多様化する顧客ニーズとDX対応
今後は、「高い防炎性+やわらかく快適な風合い」が当たり前の時代になります。
従来のような“古い常識”では対応困難となるため、現場のアナログノウハウと、自動記録技術・AI解析などのデジタル技術を融合させた新しい管理体制が鍵となるでしょう。
バイヤー・サプライヤーの成長戦略
バイヤーは現場力と顧客視点を強みに、付加価値の高い商品提案へ歩みを進め、“ただの調達”から“共創”への進化が求められます。
サプライヤーは現場の泥臭い知恵を武器に、積極的な技術提案や、公開テスト・現場立案型の課題解決サービスへシフトすることで差別化が図れます。
まとめ
防炎加工後の風合い低下を抑えるには、薬剤選定と塗布量の絶妙なバランス調整が不可欠です。
現場主義にこだわり、バイヤー・サプライヤーが一体となって「目指すべき品質レベル」を明確に共有し、工程を磨き込む姿勢が、製造業の進化に不可欠です。
昭和から続く“現場感覚”を生かし、DX・AIを積極的に取り入れた新時代のモノづくりをともに目指していきましょう。
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