投稿日:2025年10月10日

シャツの襟が型崩れしない芯地接着とプレス工程の最適化

シャツの襟が型崩れしない芯地接着とプレス工程の最適化

1. はじめに:美しい襟が製品の価値を決める

ビジネスシャツの印象を大きく左右するのが、襟の仕上がりです。
どれほど生地や縫製が優れていても、襟が波打ったり、型崩れしていては高級感も信頼感も損なわれてしまいます。
そのため、シャツ製造ラインにおいて襟の芯地接着とプレス工程の最適化は、現場技術者・調達バイヤー・品質管理担当者の三者にとって極めて重要なテーマです。

昭和から続くアナログな工程や職人の勘に頼った作業が根強く残る一方で、近年は自動化設備、接着樹脂の進化、工程最適化ソフトウェア導入など新しい波も押し寄せています。
この記事では、実際の工場現場で起きていること、サプライヤーとバイヤーの攻防、品質向上とコストダウンのための最新動向まで、現場目線で掘り下げて解説します。

2. 襟の型崩れはなぜ起きるのか

2-1. 芯地接着の基本課題

シャツの襟には、表地と裏地の間に「芯地(しんじ)」と呼ばれる補強材を入れてフォームを保ちます。
この芯地を接着剤で貼り合わせるのが「芯地接着」です。
しかし芯地の貼りムラ、温度や圧力の不適切な管理、接着時間のばらつき、「剥がれ」や「シワ」に繋がりやすい工程異常などが襟の型崩れ原因となります。

2-2. 時代遅れの工程とその落とし穴

いまだに芯地貼りは「なんとなくこのくらい」というベテラン担当者の経験則に頼った工場も少なくありません。
昭和以前からのロール式プレス機やボンド塗布手作業など、標準化が難しい作業は「毎日違う品質」を生み出す温床です。
特にパターンが微妙に違う海外生産シャツを混在管理する現代工場においては「主観的な接着」こそが最大リスクです。

3. 最適な芯地接着プロセスとは

3-1. 材料選定のポイント

現場で陥りがちなのが「安い芯地」「すぐに届く接着剤」に飛びつく失敗です。
確かなサプライヤーとの信頼関係の上で、標準化されたスペック管理ができる材料を選ぶことが、型崩れ防止の絶対条件です。
芯地は基布と接着剤(樹脂)の組み合わせで特性が決まります。
たとえば芯地の厚さと圧着温度、表地の吸湿性・収縮率と接着樹脂の相性を現場で実サンプル検証しなければなりません。
また、芯地自体の通気性や柔軟性も「自然な襟の反り」を出すのに重要です。

3-2. 接着条件の見える化と管理

襟の芯地接着で最も失敗が多いのは「温度×圧力×時間」の適切な管理がないことです。
例えば推奨温度140℃、圧力0.3MPa、プレス時間15秒と仕様書にあっても、実際には毎回違う温度・押しムラ・ライン速度に悩まされます。
IoT時代の今、最新の接着プレス機は温度・圧力・時間・湿度をリアルタイムでロギングできるものが登場しています。
データを可視化し、異常時アラームを設定、さらに作業ごとにトレーサビリティを実現すれば、属人的な品質バラツキを大幅に抑制できます。

3-3. トラブル事例と現場での対処法

現場では次のようなトラブルが典型的です。

・襟先だけが浮き上がる(高温焼けor樹脂流れ)
・芯地が全体にシワになる(圧力不足or湿度ムラ)
・洗濯後に芯地が剥がれる(接着剤不良or貼りムラ)
・表地に接着剤のアタリ・テカリが出る(過圧・過熱)

これらは接着条件設定ミス、機械の不具合、材料スペック外使用、または未検証パターン投入で生じることが大半です。
早期発見のためには、朝一立ち上げサンプル(バッチ判定)、作業者ごとの小ロット出荷前抜取検査、日ごとの貼付条件記録が効果的です。

4. プレス工程の最適化が品質を左右する

4-1. プレス機械の選定と保守管理

芯地と表地を貼り合わせた後は、高精度プレスによる形成工程で襟ラインを彩ります。
古いプレス機を漫然と使い続けると、温度分布/加圧均一性/金型の摩耗が品質を大きく下げます。
最近では、サーモカメラ付き圧着プレス(温度ムラ可視化)、自動脱気プレス(金型内の水分飛ばし機構)、IoTによる稼働監視など“わかりやすい品質管理”が導入されています。
保守点検は「予防的交換」が鉄則です。
機械トラブルで1バッチ丸ごと不良…という“あるある”も最適化で防げます。

4-2. デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

これまでアナログと思われがちだったプレス・芯地接着工程でも、近年はカメラAIによる貼りムラ自動検出、ライン全体のスケジューリング自動最適化、作業ログを活用した歩留率改善などDX活用が進んでいます。
サプライヤーの提案型技術導入や、バイヤーによる“ロット単位の品質保証制度”整備が、そのまま工場の競争力強化へと直結します。

5. バイヤー・現場が協働してこそ品質は高まる

5-1. バイヤーが知っておきたい「現場のリアル」

バイヤーにとって「単価」「納期」「品質安定」が最優先ですが、襟部分は特注加工や工程増も多く、簡単な“値引き交渉”では現場の品質維持が難しくなるリスクも。
無理なコストダウン要請や“短納期・ロット混載生産”指示が、現場でどのような課題やトラブルを生みやすいかを知ることは、強いサプライチェーン関係の第一歩です。
芯地・接着剤のロット追跡、「1stサンプル承認→本生産」プロセスの細かなやりとり、標準作業書へのフィードバック体制など、バイヤーも現場感覚で関わることが期待されています。

5-2. サプライヤーは提案型へ、現場も巻き込むパートナーシップ

従来は「指定材料・指定仕様を納入」が主流でしたが、今は“ベターな芯地提案”“現場省力化サポート”“安定供給フォロー体制提案”といった付加価値が求められています。
例えば、現場の「貼りムラ」や「労務コスト負荷」を軽減するための接着性能改善サンプル、現場でのプレス条件計測器の無料貸与、定期的な技術者派遣による作業サポートまで、積極的提案がサプライヤー優位性となります。
一方、工場サイドもサプライヤー提案を「現場実験」し、正しく評価する力が問われます。

6. まとめ:昭和を超えて、進化する襟製造の現場

芯地接着とプレス工程は、今なお「昭和型アナログ」と「最新DX」の狭間で揺れ動く分野です。
しかし、芯地・接着剤・プレス機械メーカー、シャツ工場、バイヤー、サプライヤーがそれぞれ役割を超えて知見を共有しあうことが、より高い“型崩れしない襟”の実現につながります。
職人技やローカルな勘も尊重しつつ、標準化・見える化・データ活用で個人差のない品質維持にシフトしてこそ、世界に通用するシャツ襟に近づけます。

あなたがもし現場に立っている技術者なら、明日からの作業を「なぜこうなっているのか」と疑い、正しい測定・記録・条件管理を進めましょう。
バイヤーやサプライヤーの方なら、現場で“袖をまくって貼り合わせる”工程を一度見学し、対等なパートナーシップでの最適化を提案しましょう。

昭和から続く良き手仕事に、令和の知恵と技術を重ねていけば、日本のシャツはきっと、もっと美しく、もっと丈夫に進化できるはずです。

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