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撚糸ムラによる風合い不良を防ぐ糸道設計とテンション分布解析

目次
はじめに:撚糸ムラと風合い不良がもたらす製造現場の課題
繊維・糸の世界において「撚糸ムラ」は、製造現場が長年向き合い続けてきた重要課題です。
わずかなムラが、最終製品である生地や布の風合いや手触り、さらには光沢・強度にも大きな悪影響を及ぼします。
この風合い不良こそが、競争の激しいテキスタイル業界でのブランド価値や顧客満足、さらにはクレーム・ロス削減に直結します。
しかし、現場では「よくあること」「職人の勘でカバーする」「多少補正しても仕方がない」といった、昭和から続く“アナログ的な思考”が根付いているのも事実です。
本記事では、20年以上現場で撚糸の品質改善に取り組んできた立場から、糸道設計やテンション分布の解析という実践的アプローチを解説し、なぜこれらが“ムラ低減”に不可欠なのか、その根拠と先端事例をわかりやすく紹介します。
撚糸ムラ、なぜ発生するのか?アナログ現場の根本課題
ムラの発生原因:糸の偏り、設備の経年変化、管理の“属人化”
撚糸ムラは、糸のテンション(張力)が場所ごと、製造ロットごと、さらには瞬間ごとに違うことから発生します。
主な原因は次のとおりです。
– 糸道のローラー摩耗や汚れによる摩擦変化
– ガイドやテンションディスクのバラつき
– 複数本取りの場合の糸送り量の不揃い
– 設備の芯出し・整備不良
– 適切な張力設定のノウハウ不足
– 新旧オペレーターのスキルギャップ
たとえば、ベテラン職人の経験と“勘”に大きく依存している現場では、「機械は同じ、原料も同じ。それなのに出来がバラつく」という状態が続きます。
「ちょっとムラがあるくらいなら、ひと手間かけてわからなくしてしまえばいい」
「クレームは来ない範囲でバッファーを取る」
これらが現場の“暗黙知”として蔓延していませんか?
しかし、これではいつまで経っても“昭和的な”品質管理の呪縛から脱却できません。
顧客が求める品質水準は厳しくなっている
一方、繊維市場は年々グローバル化とデジタル化が加速し、品質への要求は昔と比べ物にならないほど厳しくなっています。
消費者は「風合いの良さ」はもとより、
– ロット間での絶対的な均質感
– 仕上がりのなめらかさ
– 同一ブランドでの統一感
こうした“見た目・触感の違い”に極めて敏感です。
撚糸ムラが原因で、最終製品やアパレルメーカーからリジェクト扱いとなり、返品・値引き・納期遅延などのビジネス損失が発生してしまうのです。
この課題を“運任せ・勘任せ”からシステマティックに解決するためには、糸道設計やテンション分布という視点が不可欠です。
糸道設計のポイント:撚糸ムラを生まない合理的アプローチ
なぜ糸道設計が重要なのか?
糸道設計とは、撚糸装置やワインダー(巻取り)機の中で、一本の糸がどのようなルートで通されるのか、どの部品を通過するのか、その構成とレイアウトを計画する工程です。
“摩擦と張力”が均一になる糸道を設計することで、撚糸ムラの発生を未然に抑えることができます。
極端な曲がりや急なテンション変化は糸切れやスリップ、うねりムラの最大原因となります。
実践ポイント1:テンション均一化プラン
設備ごと、張力設計には大きな違いが生じます。
最初の一歩は、糸道上の各部品で「糸にどの程度の摩擦とテンションがかかっているか」を把握し、必要なテンション(張力)設計図を作成することです。
1. ローラー・ガイド・テンションディスク各部の摩耗状態を点検し、再現性のある摩擦値データを収集します。
2. 糸が進むごとにどんな張力変動が生まれるか、機械的な張力測定装置や簡易センサーなども活用して実測します。
3. 製品ごとに理想(目標)テンション配分と、現在の実績値の“ギャップ”を可視化します。
このプロセスを通じて、設計どおりの「狙ったテンション」が実現できるように糸道を最適化し、“ムラが生まれにくい仕組み”へ進化します。
実践ポイント2:糸道の直線化と部品の最適配置
意外に見落とされがちなのが、糸道の曲線や部品配置です。
糸が急カーブを描いて巻かれている場合、どうしても一点集中の摩耗や極端な張力が発生します。
部品ごとに「直線に近い」「カーブが穏やか」「無駄なルートがない」設計を再考し、
– ガイドの位置を変更
– 摩耗した部品の早期交換
– 機種ごとのレイアウト最適化
これらを実施することで、手間とコストを最小限にムラを抑えられます。
テンション分布の“見える化”で再現性を高める
デジタル化でムラ低減:テンションのリアルタイム監視
昭和的な現場では「目視」や「手で触って張りを見る」といった方法が一般的でした。
しかし現代では「テンションセンサー」や「張力モニタリング装置」が安価かつ高精度で導入できます。
– 糸道全体に数点のテンションセンサーを設置し、張力変動を数値で記録
– 張力が一定範囲から外れた際、アラートを発信
– 機構部品の劣化兆候を早期に検知
このような“見える化”が進むことで、オペレーターの経験や一時的な感覚だけに依存しない、量産現場に最適な張力コントロールが実現できます。
AI・IoT活用事例:ロス削減の最前線
さらに近年はIoT連携やAI解析の導入も進んでいます。
張力分布のリアルタイムデータを蓄積し、撚糸ムラ発生時の特徴パターンをAIで自動抽出・予知保全に活用する事例も見られます。
– 異常値検出AIにより、ムラ発生装置やバッチを特定→早期是正
– 生産データと品質データを紐づけ、最適条件を自動探索
– クレーム発生率を月次で30%以上削減
このような抜本的な改革事例は、今後の工場自動化と“脱アナログ”推進のキードライバーと言えるでしょう。
バイヤーとして知るべき「撚糸ムラ」への着眼点
品質評価のポイント:サプライヤー選定時の具体的チェック
バイヤーや購買担当者がサプライヤーを選定する際、単なる価格競争だけでなく、「どれだけ撚糸ムラへの取組姿勢があるか」をチェックすることは、トラブル回避やブランド価値向上の観点で重要です。
具体的なチェックリスト例は次のとおりです。
– 糸道設計やテンション管理の仕組み、その根拠を説明できるか
– モニタリング機器やデータ管理体制が整っているか
– クレーム・不良低減のPDCAを具体的な数値で示せるか
– 昭和的な“属人運用”に頼らない現場改革が進んでいるか
これらを明確に説明できる工場は、品質クレームのリスクが低く、長期的な信頼関係構築にもつながります。
サプライヤーの現場意識を高める「一言」
もしバイヤーとして、サプライヤー現場に訪問する際は
「糸道設計やテンション分布をどのようにコントロールしていますか?」
と一言聞いてみてください。
“論理的に根拠を語れる工場”は、全体の生産管理や品質保証体制も精度が高い傾向にあります。
逆に曖昧な説明しかできない、経験則だけに依拠・“古参職人頼み”の現場であれば、将来的な品質事故リスクを慎重に見極める必要があります。
昭和アナログからの脱却、未来への挑戦
撚糸ムラによる風合い不良への対応は、「過去の延長線」ではなく「新しい地平線」を切り拓くものです。
従来型の“勘・根性・手作業”から、
– データに基づいた糸道設計と体系的なテンション管理
– 見える化・自動化による再現可能な高品質づくり
– サプライヤー・バイヤー間の建設的な対話
こうした“現場レベルの生産革新”が、日本の製造業全体の競争力強化に直結します。
まとめ:現場起点の技術革新が製造業を変える
撚糸ムラは、製造現場に根深く残る「昭和的課題」でありながら、糸道設計やテンション管理の工夫によって抵抗感なく改善できる課題でもあります。
ベテランの勘とデータの融合、自動化機器の導入による現場レベルのアップデート。
サプライヤーとバイヤーが協働して品質保証体制を強化し、風合い不良という“目に見えにくい損失”を未然に防ぐ。
こうした地道な一歩一歩が、今後の製造業を確実に変えていきます。
現場で培った経験と新しいテクノロジーを掛け合わせて、ぜひ“未来志向のものづくり”を実践していきましょう。
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