投稿日:2025年10月11日

異常巻取りを防止するトラバース位相制御とテンションフィードバック

はじめに:製造業の現場における巻取り品質の重要性

製造業の現場では、安定した品質で製品を巻き取るプロセスが、最終製品の性能や顧客満足度に大きな影響を与えます。
特に紙やフィルム、ワイヤー、テープなどの連続生産品においては、異常巻取りの発生が歩留まりや生産効率、ひいてはトラブル時のコストアップにつながります。
この記事では、異常巻取りを防ぐための「トラバース位相制御」と「テンションフィードバック」という2つの実践的技術に焦点をあてて解説します。

異常巻取りとは何か:昭和的現場の実情と課題

異常巻取り発生のリアルな現象例

製造業現場、とくに従来からの汎用機が多数稼働する昭和的なアナログ環境では、巻取り工程はノウハウと職人技に支えられてきました。
しかし、巻取り時に発生するテープの片寄り、蛇行、シワ、重なり、芯ずれなどの「異常巻取り」は、気づかれにくく、後工程や顧客納品後に発覚してクレームや大きなロスを引き起こしがちです。

なぜ異常巻取りが起きるのか

根本原因は複数ありますが、主なものとしては以下が挙げられます。

  • トラバース動作のズレ(巻き取りパターンの同期が取れない)
  • テンション(張力)が不安定
  • 巻芯やコアの精度不良
  • 素材特性(伸縮性・剛性のバラつき)
  • 機械のメンテナンス不良や操作ミス

トラバース位相制御の基礎と応用

トラバースとは何か?

トラバースとは、巻取り軸と平行に素材を移動(横動き)させながら巻いていく制御のことです。
例えば釣り糸のリールを巻くとき、ただ回すだけだと一箇所に糸が偏って山状になっていきます。
これを防ぐため、リールが横に往復運動し、糸がきれいに並ぶのがトラバースの動きです。
この考え方は、工業的なロール材やワイヤー製品などにも広く応用されています。

昭和的現場でのトラバース課題

一昔前の機械では、カムやギアで機械的にトラバースを制御していました。
しかし、速度変動や素材特性の違い、摩耗によるバックラッシュが蓄積すると同期がずれ、徐々に「山谷ずれ」や「端部偏り」などの異常が発生します。
職人はそれを経験則で手動調整していましたが、品質安定化や省人化が求められる現代では限界があります。

位相制御によるトラバースの最適化

現在の最先端では、サーボモーターやエンコーダーを用いて巻芯回転数とトラバース位置の「位相同期」をデジタル制御しています。
これによって下記の点が改善します。

  • 素材移動量と巻取りピッチの完全同期化
  • 速度変動や加減速時もパターンが乱れない
  • 異物貼り付きやカット位置で位相微調整可能

さらに、巻芯径が変化する場合でも、角速度からリアルタイムにピッチ補正を掛ける技術などが現場で実装可能になっています。

テンションフィードバックで張力安定化

テンション管理の奥深さ

どれほどトラバース制御だけを最適化しても、巻き取りテンション(張力)が適正値から外れると、素材が伸び縮みし、仕上がり精度が崩れます。
テンションが高すぎれば素材が伸びたり切れやすくなったりし、低すぎれば「ゆる巻き」でシワや型崩れが起こります。

現場がよく陥るテンション管理の失敗例

現場では「重りをつるして目視管理」「フリクションブレーキの摩擦調整」などのアナログな手法が根強くのこっています。
しかし、環境変動や素材ロット差、経時変化で簡単にズレが生じ、これが異常巻取りの温床となります。

テンションフィードバック制御の導入メリット

テンションセンサ(ローラー型やロードセル型)を設置し、常時素材の張力を測定して、リアルタイムで巻取りブレーキや駆動を自動補正する「テンションフィードバック制御」が、近年のスマート工場推進でも重要な技術となっています。
これにより

  • 突発的なテンション変動も即座に補正
  • 人の目視や手操作によるムラを排除
  • トレーサビリティやデータ解析による品質向上

が実現可能です。

トラバース制御・テンション管理の組み合わせで得られる相乗効果

現場では「トラバースはトラバース、テンションはテンション」と個別最適になりやすいですが、両者の連携こそが安定品質実現のカギとなります。
たとえばトラバース位相が乱れるとテンションに微妙な負荷変動を生み、逆もまた然りです。
トラバース部と巻取り部それぞれでデータを取得し、相互に補正しあう「連携制御」によって

  • 工程間・班間でのトラブル再発防止
  • システム停止やハンチングの早期発見・対処
  • 設備仕様のバラつき(多品種・段取り替え時含む)吸収

など「現場のリアルな困りごと」を根本から解消することができます。

昭和的工場からデジタルスマート工場への転換に向けて

いまだに根強いアナログオペレーションの限界

今なお国内には「手作業微調整で名人芸が光る」現場や、「長年変えていないからなんとなく安心」という風土が濃い工場が多く存在しています。
ですが、グローバル競争や人手不足・働き方改革が進む今、「属人スキル」「暗黙知」から脱却し、標準化・自働化・見える化(デジタル活用)が不可欠です。

現場主導型の改善こそが成功への最短ルート

とはいえ、現場を知らないIT部門やコンサル主導のDX化は現場に軋轢を生みがちです。
理想は現場OBや工場長経験者など「現場目線」で、現状のクセや課題感を把握しつつ、段階的に自働化・見える化へ舵を切ることです。
現場メンバーの合意形成やステップ分けも重要なポイントです。

ローカル最適から全体最適・競争力強化へ

トラバースやテンションといった巻取り工程の地道な見直しは、全社経費削減や製品差別化、リードタイム短縮といった経営指標にも直結する力があります。
また川上・川下サプライヤーとの情報連携も進み、より大きなバリューチェーンの強化につなげることができます。

サプライヤー・バイヤー視点で考える品質改善の価値

バイヤーに求められる工程知識

多くの企業バイヤーにとって「巻取り工程」はブラックボックスになりがちです。
しかし、最終製品のクレームや納期遅れ、検査コストを未然に防ぐうえで、基礎的なトラバースやテンション制御の知識を持つことは武器となります。

サプライヤーがバイヤーと信頼関係を築くポイント

サプライヤーの立場で言えば、

  • 自社の自働化・標準化技術を提案型でアピール
  • 納入品の仕組みやデータを共有し、バイヤーの品質保証活動に寄与
  • AI・遠隔監視など新技術による将来性を示す

などが、選ばれる仕入先になるうえでの大きな強みです。

まとめ:現場目線の「巻取り工程革命」で競争力を強化

異常巻取り対策としての「トラバース位相制御」と「テンションフィードバック」の両輪を現場主導で改善すること。
これは旧態依然としたノウハウ・人任せから脱却し、標準化・安定化・自働化につなげる王道です。
すぐに最新設備への一斉更新ができなくても、部分的なセンサー導入・デジタル連携の積み上げで「現場の地力」「知識循環」を高めることは可能です。

一流バイヤーや品質管理担当者こそ、生産現場の細部に目を向け、サプライヤーとの共創を志向していきましょう。
それこそが日本の製造業に新たな価値地平を拓く原動力となります。

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