投稿日:2025年10月11日

カーテンの光漏れを防ぐ織密度と裏地コーティング厚の設計

はじめに:カーテンの光漏れ対策が求められる背景

カーテンは住空間やオフィスなどで採光・遮光・プライバシー保護を目的に使用される重要なインテリア製品です。
特に近年では働き方改革の影響から在宅ワークが浸透し、家で過ごす時間が増えています。
その影響で、ユーザーの「カーテンの遮光性能」や「光漏れの抑制」に対する関心が高まっています。

しかし、昭和時代から脈々と続いてきたアナログな製造現場では、習慣的な素材選定や設計に頼りすぎる傾向があり、高い遮光性能を実現するための合理的な設計指標を持っていないことも少なくありません。
この記事では、カーテンの光漏れ対策において決定的に重要となる「織密度」と「裏地コーティング厚」という2つの視点から、その設計手法について現場経験者の目線で解説します。

織密度とは何か?技術的な基礎知識

織密度の定義と現場における位置付け

まず、カーテンの織密度とは、一定面積内(例えば1平方インチや1平方センチメートル)に織り込まれている糸の本数を指します。
専門的には「経糸密度」(たていと)と「緯糸密度」(よこいと)で表現され、織物の遮光性や手触り、耐久性などを左右する重要な工程管理パラメータです。

現場の実態として、「遮光カーテン」と銘打たれていても、単純な黒色の生地を厚く織っただけのものと、織密度まで高度に設計された製品とでは、光漏れの抑止力に顕著な差が出ます。
この点は、バイヤーだけでなくサプライヤーサイドで開発する担当者にも深く理解してもらいたいポイントです。

織密度がカーテンの光漏れを防ぐ仕組み

織密度を高めることで、隙間から透過する光の経路を物理的に狭めることができます。
たとえば、1cmあたりの糸本数が30本の生地と40本の生地では、40本生地のほうが小さな穴ができづらくなります。
結果として、生地全体の「布そのものの遮光率」が飛躍的に向上し、直接的な光漏れを大幅に軽減することができます。

ただし、緯経密度を物理的に詰めれば良いという単純なものではなく、糸の太さや素材の特性、織機の制約、コストとのバランスなど、多面的な視点から最適解を導くことが求められます。

裏地コーティング:遮光性能の決定打

裏地コーティングの主な手法と役割

カーテンの遮光性を高めるもう一つの決め手が裏地コーティングです。
ポリウレタンやアクリル、シリコンベースの溶剤を布生地の裏側に塗布し、物理的な光の透過を遮断する役割を果たします。

現場でよくある誤解として、織密度だけで勝負できると思い込んで裏地コーティングを軽視するケースがありますが、これは大きな間違いです。
どれほど高密度な生地であっても、糸そのものや緻密に織った糸の間に細微な隙間ができることは避けられません。
この「穴埋め」の最後の一手として、裏地コーティングが本領を発揮します。

コーティング厚さと遮光性の関係

裏地のコーティングは、厚く塗ればよいというものではありません。
塗布が厚すぎると、生地の柔軟性やドレープ性が失われてゴワゴワになり、見た目や手触りが悪化します。
加えて、生地の通気性が大幅に落ちて、カビや蒸れの原因となってしまいます。

したがって、適切な「コーティング厚の設計指標」を持つことが大切です。
一般的な遮光等級2級のカーテンでは、約20~35ミクロン程度のコーティング厚がバランスのよい目安です。
遮光等級1級の場合は40ミクロンを超える厚みや多層コートなど、より工夫が必要となるケースが増えてきます。

経験則では、現場の塗布テストで300ルクス以上の強い光をカーテンに当て、裏からの透過光を分光測定器や可視光センサーで評価することで、おおよその最適厚みを見いだし量産化することが多いです。

織密度とコーティング厚の「二刀流」設計

なぜ二つの要素をバランスさせることが重要か

織密度と裏地コーティング厚、どちらも遮光性・光漏れ対策のキーファクターですが、単独で最大限強化するよりも、この二つを「最適なバランス」で組み合わせる設計思想が現場では求められます。

例えばコスト面。
織密度を上げれば当然、糸の使用量が増えますし生産速度も遅くなります。
コーティング厚を不必要に厚くすれば、原材料費がかさみ、生地風合いといった品質も損なわれやすくなります。

このためバイヤーが重視すべきは、「遮光等級」「現場の生産設備能力」「歩留まり(不良率)」といった複数のKPI(重要業績評価指標)をサプライヤーと協議しながら、最適な配分を設計していくことなのです。

現場発:製造工程の工夫と改善例

・織密度管理に関しては、大手アパレル用途では自動検査装置の導入と、織機の事前設定値管理が増えています。
織密度のばらつき監視にデジタルカメラ画像処理やIoTセンサーを活用する動きも拡大中です。

・裏地コーティングについては、旧態依然としたバフ塗り手法に加え、近年ではロールコーターやスプレー塗布、あるいは設備内AI判定による自動厚み制御を取り入れる工場も出てきました。
これにより、過剰塗布や塗りムラを事前に抑制し、高品質・高歩留まりが実現できるようになりました。

バイヤー・サプライヤー双方が知っておくべき設計ポイント

バイヤーが重視すべき「現場の裏側」

多くのバイヤーはサプライヤーからの見積書や仕様書で「遮光等級」「見本サンプル」だけを判断材料にしてしまいがちです。
しかし、現場レベルでは「多少の仕様変更で大きくコスト・性能・風合いが変わる」ことが日常茶飯事となっています。

バイヤーが押さえるべきポイント例としては
– 織密度の管理指標(本数・ばらつき許容幅)
– 裏地コーティング厚(単位μmでの数値管理、または多層化仕様の有無)
– 加工後の最終評価指標(実機テスト・ユーザー視点での光漏れ評価プロトコル)

これらの実践的な基準を持つことが、現場の「余白管理」を曖昧にしたまま安易に価格だけで評価するリスク回避にもつながります。

サプライヤーが提案力を強化する方法

サプライヤーとしては、ただバイヤーの指示を受けて加工仕様を合わせるのではなく、「なぜこの仕様が良いか」を技術的根拠に基づき提案・説明できる現場力が求められます。
特に、昭和型の「なるべく安く・なるべく早く」だけでなく、遮光性や耐久性、風合い、安全性など多様な価値基準をふまえ、多角的な観点から設計意図を明示することが競争力につながる時代となっています。

カーテン業界のトレンド変化や海外市場向け(特に欧米・中東など遮光性能の要求水準が高い)の動向も調査し、
「現場だから分かる」最新事例とともに提案の幅を増やすことが成長の鍵となります。

まとめ:カーテンの遮光設計は現場目線で最適化すべき理由

カーテンの光漏れを防ぐには、「織密度」と「裏地コーティング厚」という2大要素を避けて通れません。
20年以上現場で得た実感としては、これら二つをバランスよく設計・管理するには「現場の生データ」と「ユーザーの使い勝手」を両輪で見つめるラテラルシンキングの視点が不可欠です。

バイヤーもサプライヤーも、それぞれの立場から遮光設計の裏側を知り、互いに提案・対話を深めていくことが、製造業としての新たな地平線を切り拓いていく起爆剤になると確信しています。

これからも、昭和的な習慣やアナログな常識にとどまらず、現場から未来を見すえた実践的な設計・調達活動をともに進めていきましょう。

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