投稿日:2025年10月12日

マスクのフィルター層を作るメルトブロー不織布の微細繊維製法

はじめに:マスクフィルターの品質は「メルトブロー不織布」で決まる

新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、マスクの需要が急増しました。
その品質を左右する重要な要素の一つが「メルトブロー不織布」によるフィルター層です。
この素材が「ウイルスや花粉、PM2.5をどれだけシャットアウトできるか」を決定づけるため、世界中のバイヤーや工場が技術力を競っています。

本記事では、私が20年以上にわたり工場現場で培った知見や業界動向をベースに、メルトブロー不織布の微細繊維製法について徹底解説します。
調達・購買から生産管理、品質管理目線まで踏み込み、現場で本当に使える視点や今後の動向にまで踏み込んでいきます。
バイヤー志望の方、サプライヤーとして差別化したい方、あるいは「なぜ日本の製造業はアナログ文化から抜け出せないのか」といった課題意識を感じている方にも役立つ内容となっています。

メルトブロー不織布の基本:なぜ「微細繊維」が重要なのか?

メルトブロー不織布は、主にポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を材料にしています。
この素材は、溶融した樹脂を高温・高圧のエアで繊維状に細かく吹き飛ばして冷却・固化させる方法でシート状に成形します。

ポイントは「如何に極細(サブミクロン~数ミクロンレベル)の繊維を均一につくれるか」という点にあります。
なぜなら、フィルター性能は
・繊維径が小さければ小さいほど、空隙が微細になりキャッチできる粒子が増える
・繊維の絡み合いが多いほど、ファン状の三次元ネットワークを形成しろ過性能が高まる
・ただし繊維が細すぎると、通気性が悪化し装着感が著しく低下する
これら相反する要求を両立しないと、実用的な製品とはならないからです。

メルトブロー方式の「微細繊維」製法の工程概要

1. 原料ポリマーの溶融・押出し

フィルターに使用されるポリプロピレン(PP)が主流です。
これを特定温度(200〜300℃程度)で加熱溶融し、スクリュー押出機でノズルに送り込みます。
ここで樹脂の粘度、流動特性の緻密なコントロールが求められます。
なぜなら、粘度変動は糸径の分布ムラにつながり、全体のろ過性能や歩留まり悪化を招くためです。

2. 微細ノズルからの吐出と高温高速エアによる「吹き伸ばし」

ノズルには数百〜千個の細孔が精密に並んでおり、そこから溶融PPが押し出されます。
即座に上下から高温・高速のエアが噴射され、吐出された樹脂が一気に引き延ばされます。
この時の「風速」「温度」「ノズルとコンベアの距離」などが、繊維の細さやバラつきに直結します。
現場では、ここが最大の歩留まり&品質のカギを握っています。

3. 繊維の冷却とウェブ(不織布シート)化

伸長された極細繊維は、空気中を漂いながら冷却されます。
ここでエレクトレット処理(帯電加工)を加えると、静電気による微粒子捕捉性能が向上します。
繊維がベルト上にランダムに積層・絡み合い、「ふんわり」した不織布シートに成形されます。
この積層状態のムラができると、フィルター性能やマスクの装着感に悪影響を及ぼします。
現場では常に空気流やノズル・ベルト位置を微調整してムラのないシートを追求しています。

4. 製品化とラミネート

出来上がったメルトブロー不織布は、マスクの「中間層」として利用されます。
表面のスパンボンド不織布(肌あたりや強度担当)とラミネート接着され、複合シートとして裁断・組み立てられます。
ここでも異物混入や層分離による強度低下は即アウト。
昭和の時代から続く人海戦術的な「目視検査」も、いまだ現場では重要な最終防衛ラインです。

世界で競うメルトブロー不織布の技術力:日本固有の強みと課題

技術の根本は「機械×現場力」

欧米や中国も超大型設備への投資を進めており、生産能力(t/日)は日本の数倍規模が一般的です。
一方、日本のメーカーが今なお高評価を得ている理由があります。
それは「安定生産」「歩留まりの高さ」「ノウハウの蓄積」に他なりません。

ある大手マスク工場では、50年前から受け継がれる「勘と経験」が残ります。
たとえば、気温や湿度の微妙な違いで繊維の絡み方やムラの出方が変化します。
そこで熟練者による五感チェック(視覚、触感、空気感!)と、独自の微調整作業が「一番良いものづくり」を支えています。

現場の戦い:自動化vs人の知恵

AIやIoTによる監視自動化ラインが注目されていますが、「高品質・高耐久・安定供給」の観点では、いまだ現場の人間と設備の融合力が肝です。
昭和から抜け出せない、アナログな現場主義の良し悪しに直面している日本ですが、逆にこの現場力こそが微細繊維不織布の世界競争でのアドバンテージとなっています。

バイヤー・サプライヤー目線で押さえるべき「品質とコスト」

安価なメルトブローフィルターの「罠」

コロナ禍の混乱期、中国から大量に流入した「激安マスク」に紛れて粗悪なメルトブロー不織布も流通しました。
繊維径のバラつき、帯電処理のムラ、目詰まりの起きやすさ、臭い・異物混入など、現場を知らないバイヤーがコストだけで選んだ結果、消費者の信頼を大きく損なう事例もありました。
バイヤーとしては、こうした背景と現場課題を深く理解し、目先の価格ではなく「確かな製法背景」「トレーサビリティ」「メーカー実地監査」までこだわるべきです。

日本の強みを活かすコスト最適化のポイント

高品質な日本産メルトブロー不織布はその分、単価も高くなりがちです。
しかし、
・厚みや繊維径、ラミネート条件での設計見直し(過剰品質を見直し、最適厚で十分な性能を担保)
・副資材コスト(表・裏層スパンボンドやノーズフィッターなど)のパッケージ提案
・生産ロス低減を狙った並流マルチライン化
など、現場課題と費用対効果を総合した提案により、バイヤー側の価値向上も十分狙えます。

また、近年ではグリーン調達(再生材使用やCO2排出削減)も重要な評価軸です。
この分野でも、日本発の独自技術に各社が力を入れており、サプライヤーとして差別化の余地が大いに存在します。

品質管理・規格と現場課題

主要な規格と試験方法

国際的にはEN14683(ヨーロッパ)、ASTM F2100(米国)、日本ではJIS T9001などがマスクのフィルター性能評価に用いられています。
代表的な試験例としては「BFE(バクテリアろ過効率)」「PFE(粒子ろ過効率)」「ΔP(通気抵抗)」が挙げられ、これらはメルトブロー層の設計と密接に関係します。

現場で発生しやすいトラブルと、その対応策

・ノズル目詰まりによるライン停止
・温湿度管理不備による繊維積層ムラ
・異物混入(オイルミスト、虫、繊維だま)
・樹脂ロット替えによるバッチ間品質バラつき

これらは一見地味なようでいて、製品全体の信頼を大きく左右する因子です。
私が工場長時代は、ほんの小さな異物混入や寸法ズレが国内外のお客様からのクレームに直結しました。
実際に現場では、徹底した5S活動や工程ごとの差圧・目視・画像検査の多段階チェックを欠かさず続けることが、「不織布の品質は信用が命」という現場哲学につながっています。

未来を見据えて:新たな地平線への挑戦

今後、メルトブロー不織布に求められる要件はさらなる多様化と高度化が予想されます。
バイオマス由来ポリマーやナノファイバー技術、AI制御によるリアルタイム品質モニタリングなど、技術進化の方向性は無限です。
また、異業種連携(例:医療機器メーカーとの共同開発)で利用範囲はマスク以外にも拡大しています。

製造現場としては、
・一見アナログ的な職人の知恵や勘をどうデジタルに転換し、人×機械の最適プロセスを作るか
・現場目線で本質的な品質を見抜くバイヤーやサプライヤーの「目利き力」を高めていくか
この2つがこれからの競争軸となっていくでしょう。

まとめ:現場の叡智と技術革新が生んだ「真のマスク品質」

メルトブロー不織布の微細繊維製法は、ただ「細くつくる」「大量につくる」にとどまりません。

現場の経験則、職人の工夫、微妙な調整と検証を積み重ねるアナログ的知見と、設備投資やデジタル化、グローバル競争という新しい波。
この2つが融合してはじめて、真に安心・安全なマスクフィルター層の供給が可能となります。

バイヤーの方は、現場のリアルな強みを知ることで、コストや調達先選定での「本物」を見抜くことができます。
サプライヤーの方は、自社の現場課題や技術の何を強みとできるか再構築するヒントとしていただければ幸いです。

製造業は、長年の勘と伝統と、新たな技術革新が共存する「日本らしい職場」こそが価値となります。
本記事が、業界に携わる皆様のラテラル思考と現場改革の一助となれば嬉しく思います。

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