缶コーヒーの風味を守る酸素遮断材と充填時の脱気工程

はじめに：缶コーヒーの美味しさを守るために

缶コーヒーの売り上げは日本国内で安定した地位を築いています。

コンビニや自販機でいつでもすぐに手に入る便利さだけでなく、開けた瞬間の香りやコーヒー本来の風味を重視して選ぶ方も多いです。

その「美味しさ」を安定して届けるために、私たち製造業の現場では、缶詰技術やライン設備、パッケージ素材の進化、そして酸素管理が重要なテーマとなっています。

特に「酸素遮断材」や「充填時の脱気工程」は、風味保持において非常に大切な役割を果たしています。

本記事では、現場目線から、その技術的背景や工夫、購買・サプライヤーとの連携、そして今後の動向まで、深く掘り下げてご紹介します。

なぜ酸素がコーヒーの大敵なのか？

コーヒーの風味や香り成分は、酸素に非常に敏感です。

開封後すぐに香りが飛ぶ経験は、誰もがあるでしょう。

工場ラインで大量生産する缶コーヒーの場合、製造日から流通・保管・店頭に並ぶまでの期間、そして開封するその瞬間まで「新鮮さ」をできるだけ保つことが求められます。

酸素は、焙煎したコーヒー豆に含まれるオイルや芳香成分と反応し、酸化を引き起こします。

この酸化反応は、コーヒーの香りを劣化させ、苦味や雑味を生み出す主要因です。

つまり、パッケージ内への酸素の侵入や、充填時の混入をどれだけ防げるかが、製品価値そのものに直結します。

酸素遮断材の基礎知識と進化

従来からある「ブリキ缶」とその限界

日本の缶コーヒーは、かつて主にブリキ製の缶を使用していました。

ブリキ（錫メッキ鋼板）は気密性が高く、酸素透過率が低いため、風味保持には優れています。

ですが、「酸」にも弱い、リサイクル性やコスト面での課題、缶内面被膜の劣化等もあり、時代とともにアルミ缶やスチール缶、そして高機能フィルムラミネート缶などさまざまな技術が導入されてきました。

酸素遮断材とは何か？

酸素遮断材とは、主にパッケージの内面（缶の内面コーティングや蓋、場合によってはラミネートフィルム缶）に使われる「酸素を通しにくい素材」のことです。

近年注目されているのは、以下のような素材です。

– エポキシ系樹脂やポリエステル樹脂によるコーティング
– EVOH（エチレンビニルアルコール共重合体）フィルム
– 金属蒸着フィルム
– 酸素吸収機能を持つ特殊インナー材

これらは単独で使われる場合もあれば、多層構造（積層）で異素材のメリットを組み合わせる場合もあります。

特にEVOHは、極めて高い酸素バリア性を持ちつつも、成型や加工が可能なため、多くの飲料パッケージで採用例が増えています。

業界で強く根付く実用主義

昭和時代から続く大手飲料メーカーでは、現場で長年使い込まれてきた缶素材やラインが存在します。

新しい遮断材への切り替えは、コストだけでなく、既存ラインとの適合性や品質安定性、購買部とサプライヤーの信頼関係、リスクマネジメントなど、多様な実務課題と向き合う必要があります。

このため、「最先端素材」だけでなく、現場では“使い慣れた素材の管理水準向上”によって歩みを進めるケースが多いのです。

充填時の脱気工程とは何か？その原理と工夫

なぜ充填時に脱気が必要なのか

たとえ酸素遮断性の高い缶を使ったとしても、中身の飲料そのものや、充填時の微細な泡に酸素が溶存していれば、風味の劣化を防ぐことはできません。

脱気工程とは、コーヒー液や缶の内部からできるだけ酸素を除去し、最終的に「密封」状態にするための重要プロセスです。

脱気の一般的な方法と進化

– バキューム脱気
中身を充填する前後に、容器内部やスペースにバキュームをかけて、空気を吸引する方法です。
– 温度差による脱気
コーヒー液を高温で充填し、冷却時に内容物の体積が縮むことで内部の空気（酸素）を封じ込めにくくするなど、物理的な変化を活用します。
– 炭酸ガス置換
充填した後、シール直前に炭酸ガスや窒素ガスを注入し、酸素を置き換える方法です。

現場では、これらの方法を単独、あるいは組み合わせて使い分けます。

理由は、中身の仕様、缶形状、製造コスト、目指す「期限後品質」など、案件ごとに最適解が異なるからです。