投稿日:2025年10月13日

お弁当用仕切りカップの耐熱性を保つシリコーン配合比と硬化条件の制御

はじめに:お弁当用仕切りカップの重要性と耐熱性への要求

お弁当用仕切りカップは、食品を仕分けて美しく見せ、味や匂いの移りを防ぐ役割を果たしています。
近年、共働き家庭の増加やコンビニ弁当など中食需要の拡大もあり、使い捨てタイプから繰り返し使えるエコなシリコーン製仕切りカップの需要が高まっています。

仕切りカップには「耐熱性」という極めて重要な性能があります。
製造、流通、使用現場において想定される多様な温度変化に対して形状や物性が安定していることは、消費者からの信頼に直結します。
特にシリコーン製は繰返しの加熱や洗浄にも耐える必要があり、耐熱性の向上と安定した生産性の両立が求められています。
この記事では、シリコーン仕切りカップの耐熱性を左右する「配合比」と「硬化条件」の制御について、20年以上現場で培った知見を交え、製造業目線で深掘りしていきます。

シリコーンゴムの基礎知識:性能と配合の要点

シリコーンの特性

シリコーンゴムは耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐老化性など多くの優れた特性を持ち、食品用途にも安全性が高い材料です。
食品衛生法への適合や、臭い移り・色移りの少なさも採用理由となっています。

耐熱温度は配合にもよりますが、一般的には180〜220℃程度。
電子レンジやオーブンで加熱されても変形しにくいことが大きな特徴です。

必須成分と配合設計

シリコーン製品の原材料には下記があります。

– 主成分:シリコーンゴムポリマー
– 架橋剤:加硫・硬化を促進する
– フィラー(補強剤):シリカ、カーボンブラックなど。耐熱性・耐久性に貢献
– 軟化剤、可塑剤:柔軟性や加工性を調節
– 顔料:色付け
– 安定剤、アンチエイジング剤

このうち耐熱性に最も大きく影響するのが主成分/フィラー/架橋構造のバランスです。
柔軟性や量産性、安全性(食品への適合性)とのトレードオフを考えながら配合を設計する必要があります。

耐熱性に影響する配合比と現場での選択ポイント

主成分の分子量・構造の違い

主成分であるシリコーンポリマーの分子量が高いもの、シロキサン結合数が多いものは、架橋密度が上がり耐熱性が向上します。
一方、加工性が下がったり硬く脆くなったりするため、現場では「加工のしやすさ」と「最終用途での性能」の妥協点を探ります。

フィラーの分散・量・種類

沈降シリカやフィュームドシリカ等フィラーは、耐熱性や機械強度を高める要素です。
量を増やせば耐熱性能は上がりますが、多すぎると成形不良や外観不良の原因となります。
また分散性が悪いと物性が均一にならず、不良率が上がります。
現場では「どこまで添加するか」「どのミキサーで均一にできるか」「季節による分散条件の違い」など高度なノウハウが必要です。

架橋剤(加硫剤)の種類と量

シリコーン製菓用品では過酸化物加硫と白金触媒を使う加成反応系が一般的ですが、加硫度合い(架橋密度)が高すぎると硬くなりすぎたり耐熱性とは別の性能(弾力や曲げ性)を損なうことがあります。
特に仕切りカップは「適度に柔らかい」「形状保持性もある」という難しいバランスが要求されるため、配合比調整の幅をどれだけ狭くできるかが管理レベルを示すポイントです。

実際の製造工程での硬化条件の重要性

金型温度と加熱時間の最適化

いくら配合が適切でも、金型温度や硬化(加硫)時間が適切でなければ、均一な耐熱性は実現しません。
金型温度が低いと加硫不十分となり、柔らかく戻りやすい半製品になります。
逆に温度が高すぎたり加熱しすぎると、チクソトロピー(流動性)の問題や過度な硬化によるクラック発生の原因となります。

現場では「温度プロファイルの記録」「サイクル毎の硬度・物性モニタリング」「金型ごとの熱伝導違い」など細やかに管理しなければなりません。
ベテランの経験とデジタルロギング(IoT監視)の両輪が生産安定化のカギです。

加硫時の雰囲気(湿度・不純物)管理

意外と盲点になりがちですが、加硫時の雰囲気(空気中の湿度や埃、金型潤滑剤・洗浄剤の残留など)も耐熱性・物性に影響します。
昭和時代の現場では「匂い」や「触感」で判断していたケースも多いですが、今後は空調・クリーン化の徹底や、IoT計測管理によるヒューマンエラーの排除が欠かせません。

耐熱性評価法と品質管理の現場ノウハウ

耐熱性の評価手法

自社での物性評価や信頼性評価が生産現場のPDCAに直結します。
主な評価項目は以下の通りです。

– 表面変形・変色試験(180~220℃での連続加熱評価)
– 硬度測定(ショアAやデュロメーターによる物性管理)
– 荷重下での変形率測定(使い続けてもヘタらないか)
– 食品衛生法適合のための抽出物・溶出試験
– 加熱/冷却サイクル耐久試験

現場ではロットごとに「何を・どこまで・どの周期で」チェックするかの標準化も不可欠です。

生産性との折り合い:歩留まり管理と原因分析

工場では、「歩留まり」を前提にした生産計画が求められます。
例えば同じ配合、同じ硬化条件でも、天候や原料ロット差、金型メンテナンス状態などにより耐熱不良が発生することがあります。
不良率低減のためには「現場の即時小集団ミーティング」と「ベテランノウハウの形式知化」が重要です。
システムで異常検知しても、対処が定型化されていなければ現場の混乱を招きます。
ここは昭和的”カンコツと職人力”とDXの融合が進むポイントでもあります。

サプライヤービジネスでの差別化戦略

バイヤー目線から見た重要ポイント

バイヤーは何を見ているのでしょうか。
コストはもちろん大事ですが、それ以上に
「安定した供給力」
「短納期対応力」
「クレーム時の迅速な是正力」
「監査や品質要求への柔軟性」
なども重視しています。

耐熱性は「分かりやすい機能性」なので、厳しい試験条件クリアや自主的な信頼性データ提出で差別化できます。

また「自社製造設備の新しさ」「IoT生産管理」「熟練工との融合体制」なども、定性評価で意外と見られています。
バイヤーと良好な関係を築くためには自社の生産哲学と現場改善の歴史を語れることが必要です。

サプライヤーとして工場現場の知恵をどう活かすか

現場改善ノウハウやQCサークル活動、トラブル未然防止のアイデア提案などは、バイヤーからの評価を高める大きな武器になります。
例えば、
「過去どの不良で、どんな再発防止をしたか?」
「耐熱性以外に安全性や加工性も両立した裏話」
「現場で定着化した作業標準や教育体系」
こういった”現場発の知見”は、サプライヤーとして選ばれる理由になります。

アナログ業界だからこそDX・知恵継承が価値を生む

昭和の現場感覚とデジタル管理の融合

まだまだ製造業全体はアナログ体質が色濃く残っています。
設備トラブルや人材不足時、結局モノを言うのは「現場に蓄積された改善ノウハウ」です。

異常時のデータ記録・可視化、IoT管理の導入に積極的な会社ほど、不良やクレーム時の”責任の所在”も明確になりやすい傾向があります。
一方で過度なDX推進で現場意見が軽視されれば、ベテランの知恵継承が滞り、結局は現場力低下に直結します。
「現場とデジタルの対話」「昭和の知恵の次世代承継」この両立こそ製造業の生き残り戦略です。

まとめ:配合比と硬化条件で製造品質は大きく変わる

お弁当用仕切りカップなどのシリコーン製品では、原材料配合設計と現場での硬化条件管理が性能・品質を大きく左右します。
現場の知識や経験が、歩留まり向上・耐熱性の安定供給・バイヤーとの信頼構築の核心にあることをぜひ意識してください。

アナログからの脱却は一朝一夕にできるものではありません。
しかし「現場の知恵」をいかに標準化し、デジタルと組み合わせていけるか。
これが今後の製造業発展、そして次世代バイヤー・サプライヤーが共存共栄していく道筋になると私は考えています。

耐熱性を保つ現場目線のノウハウ、ぜひ自社でも深めてみてください。

You cannot copy content of this page