投稿日:2025年10月14日

靴のかかとが潰れない補強芯材とプレス時間の最適化

靴のかかとが潰れない補強芯材とプレス時間の最適化

靴の製造現場で品質を左右する要素の一つに、「かかと(ヒールカウンター)」の耐久性が挙げられます。

かかとが簡単に潰れてしまうと、見た目や履き心地が損なわれるだけでなく、ブランドへの信頼も失いかねません。

こうした課題に対して、補強芯材の選定とプレス時間の最適化は避けて通れないテーマです。

この記事では、20年以上現場に携わった経験をもとに、靴製造のかかと補強技術の本質と、デジタル化の波に乗り遅れがちなアナログ現場でも実践できる最先端の工夫、そしてバイヤーやサプライヤーが知っておくべきポイントを整理し、ご紹介します。

かかとの潰れを防ぐ芯材の役割と課題

「いい靴」の評価基準はかかとに現れる

靴は消費財でありながら、各部材が担う役割が極めて繊細です。

中でも、かかとは着脱時のストレスや歩行中の負荷を最も受けやすいパーツです。

しっかりとしたフォルムを維持し、型崩れや潰れを防ぐには、内部にセットされる「補強芯材」の品質が全てを握っています。

「この靴はすぐにかかとが潰れる」といった声は、設計・購買・製造管理が根本的に見直しを迫られるシグナルでもあります。

芯材の進化と未解決のアナログ課題

芯材には、伝統的な紙ベースや革タイプ、最新の樹脂成型品、特殊不織布まで様々な素材があります。

コスト・形状保持・加工性・環境対応と、日々各社がしのぎを削っている領域ですが、意外なことに現場では「昔からこれ」と決め手のない芯材を長年使い続けている工場も少なくありません。

特にローカルメーカーや中小工場では、見えない部分であるがゆえに、設計や管理部門も深くタッチできていない実情もあります。

昭和のままの資材調達や現場の勘・経験に頼った運用が根強く残っているのが現実です。

「潰れない」かかと芯材の最新トレンド

市場要求の変化と芯材開発の方向性

近年は「作業靴」や「スニーカー」市場の拡大とともに、より軽量でありながら、ヘタリにくい芯材の需要が高まっています。

一方で靴業界特有の「見えない部分こそコストを削る」という考え方や、購買・材料選定段階でのシビアな交渉も依然根強く、調達部門と現場目線との乖離が大きな課題となっています。

最新芯材事例に学ぶ材料技術の進化

・ポリオレフィン系樹脂シート
リサイクル材を活用したシート型補強材は、加工性・環境負荷低減・一定の強度維持が特長です。

表面に適度なザラつきを持たせることで、アッパー材(甲皮)との接着性も向上しています。

・熱可塑性樹脂成形品
専用金型で独自設計した樹脂芯は、人体の足形状を3Dスキャンしてフィット形状に設計できることが大きなメリットです。

スポーツブランドを中心に導入が進み、大量生産との両立も図られています。

・特殊紙・不織布芯
自然素材派ブランドなどでは、特殊紙や不織布を用いたものを選択する例が増えています。

高い通気性やリサイクル可能な点が、サステナビリティ志向の市場で評価されています。

プレス工程が左右する「潰れにくさ」の真実

プレス時間=芯材性能ではない現場の掟

「うちの現場は昔からプレス15秒」といった慣習が残る工場は、決して珍しくありません。

しかし、素材・接着剤・工程環境(温度や湿度)が変われば最適なプレス条件も変わります。

プレス時間を長くすればくっつく、というのは一種の“思い込み”でもあり、条件が合っていなければ逆効果となるリスクも孕んでいます。

見直されるべき工程設計のポイント

・テストプレスとデータ取得の徹底
同じ接着剤・素材・機械でも、日々の環境要因によって出来上がりにムラが出ます。

実寸大のサンプルを作り、芯材のセット/プレス/冷却/型外しまで定量化して管理する試みが、少しずつ広がっています。

・デジタル管理の波
IoTセンサーによるプレス圧・温度・時間管理、サイクルごとのロギングなど、工程監視のデジタル化も大手工場を中心に普及しつつあります。

これにより、ヒューマンエラーや「今日は調子が悪い」要因を排除し、安定品質を可能にしています。

バイヤー・サプライヤー双方が知るべき現場の真価

かかと補強のコスト比較が製品の命取りになる背景

バイヤー目線では、つい部材単価での比較やコストダウン要求を重視しがちです。

しかし、かかと補強芯材のコストは、全体原価のわずか数%しか占めません。

それよりも「潰れない」品質が実現できるか、その条件を保つ現場運用が確保できるかが、最終的には大きな利益とブランド価値の維持につながります。

サプライヤー側としては、芯材だけでなく、その材料の最適な使い方や工場別の運用ノウハウも含めて提案していくことが、新たな付加価値となります。

現場起点のコミュニケーションが最適化を呼ぶ

現場・技術・調達・購買・サプライヤーそれぞれが、お互いの課題意識や現実を知ることが、最適な芯材・プレス時間の設定に直結します。

・なぜこの芯材で決まったのか
・現場目線での加工時の困りごとは何か
・スループット/品質の両立をどう測るか

こうした対話がなければ、真に意味のある最適化は果たせません。

一歩踏み込んだ現場志向の情報共有が求められています。

アナログ現場でもできる「潰れないかかと」の最適化術

古い慣習を活かす、現場力の再定義

全てを最新設備・デジタル管理に置き換えることは、現実的には難しい現場も多いでしょう。

しかし、昭和の時代から受け継がれた熟練工の“手応え”“音”“触感”による現場ノウハウも、再現性が高く共有できる形に整理すれば、現代的な標準化へと昇華できます。

例えば、プレス後の冷却時間や芯材の余長調整といった微修正も、ベストプラクティスを「見える化」し、ダブルチェック体制を設けるだけで大きな品質向上が可能です。

小さな現場データの積み上げが大手企業のライバルに

スマートフォンや小型センサーを活用し、作業ごとの温度・湿度・加圧値を記録、それを現場勉強会で日常的に振り返る。

こうした地道な積み上げこそが、AIやビッグデータに頼らなくとも地に足のついた最適化につながります。

ベテランの“感覚”も数値化していけば、社内での技術継承・異常時のトラブル回避にも役立ち、材料問屋やバイヤーとの交渉でも説得力のあるエビデンスになります。

まとめ:顧客に「違い」が伝わる現場最適化を目指して

靴のかかとが潰れないという一見小さな品質要件の裏には、芯材自体の進化、正しいプレス条件の管理、現場ノウハウの可視化、部門連携による最適化という複雑な背景があります。

製造現場が持つ真の競争力は、目に見えない部分での細やかな工夫や、アナログ的な現場力と現代的な効率化の融合にあります。

購買やバイヤー、サプライヤーがそれぞれの視点で現場と「ひとつのチーム」となり、こうした取り組みを積み重ねていくことが、顧客の信頼とブランド価値を真に高める道となります。

昭和から続くアナログ魂に、最新技術への好奇心と現場への誇りを加え、次世代の「違いが伝わるモノづくり」を進めてまいりましょう。

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