投稿日:2025年10月14日

スナック菓子のサクサク感を作る脱水と油温プロファイル管理

はじめに:サクサク感の裏側にある科学と管理の妙

スナック菓子の命とも言える「サクサク感」。
この唯一無二の食感は、脱水と油温の絶妙な管理によって生み出されています。
製造現場で長年経験を積んできた私が改めて振り返ると、この工程管理には職人の勘に頼った“昭和的発想”とDX時代に向けた最新技術の融合が不可欠だと痛感します。

本記事では、製造現場のリアルな視点からスナック菓子で求められるサクサク感の秘密を深堀りします。
バイヤーやこれから業界を目指す方、またサプライヤーとしてバイヤーの視点を理解したい方にとっても必見の内容です。

サクサク感とは何か?製造業・品質管理の観点から解析

サクサク=脱水+膨張構造+油脂コーティング

スナック菓子における「サクサク感」とは、単なる食感だけではありません。
原材料中の水分の抜き具合、デンプン粒子の膨化、油のコーティング、それぞれが複雑に絡み合って生まれます。

1. 原材料から水分を適切に抜く(脱水)
2. 油の温度プロファイルにより膨らみ具合や気泡の形成状態を制御
3. 表面に程よく油をのせることで、香ばしさとテクスチャーを演出

この3点がサクサク菓子の品質を大きく左右します。

消費者アンケートと現場感覚のギャップ

消費者にアンケートをすると、多くが「サクサクした食感が好き」「しけっているものはNG」と答えます。
しかし、工程現場で働くオペレーターたちは意外にも“一定のしっとり感”を残すことで割れやすさやクレーム率が下がることを知っています。
この乖離をどう埋め、「サクサク」らしさを最大化するのか―
長年現場のPDCAを回したからこそ言えるポイントがあります。

脱水工程の重要性と技術の進歩

加熱による脱水:バッチ型から連続炉へ

スナック菓子の脱水は、基本的に加熱による水分の蒸発です。
かつてはバッチ型オーブンや小規模フライヤーを使い、“焼きムラ”や“揚げムラ”が品質不均一の原因でした。
現在は連続フライヤーや多段式乾燥機が導入され、温度・湿度・時間を正確に制御して均質な脱水が可能になりました。

ただし、昭和的アナログ現場では「脱水=乾かしすぎ」に振れやすく、実は過度な脱水はサクサク感を損なう原因。
原材料によっては水分が2〜3%残ることで、食感が軽快になり破断音も良くなるケースもあります。

最新トレンド:マイクロ波・減圧乾燥技術

近年は、マイクロ波を使った短時間の均一加熱や真空状態での減圧乾燥がスナック業界でも注目されています。
これらは“外カリ中ジューシー”“素材の風味保持”といった付加価値型スナック菓子にも最適です。
工程管理者は新技術導入時に、従来の揚げ上がり・焼き上がりの感覚との違いを理解しなければいけません。

油温プロファイルの極意:サクサク感の決定打

始まりと終わりの温度設計

スナック菓子の「サクサク」は、油温管理で決まると言っても過言ではありません。
ポイントは、加熱開始時と終了時の温度差・時間差をどう設定するかです。

例えばポテトチップスであれば、初期段階は高温(170〜180℃)で表面をすぐに固め、仕上げはやや温度を下げて中心までじっくり脱水というプロファイルを取ります。
一方、コーンスナックやあられでは、最適な油温は異なり、低温から入り次第に高温へとシフトしていく手法もあります。

油温変化×品種別プロファイル化のすすめ

一律の温度管理ではどんな原材料・形状にも対応できません。
そこで生産管理現場では、「品種ごとの油温プロファイル管理」がカギになります。
たとえば、フライヤーのゾーンごとに温度を細かく設定できる設備を使い、ゾーン1:165℃→ゾーン2:178℃→ゾーン3:180℃というように段階的な油温制御を行います。
これはサクサク感だけでなく、製品の色、表面の泡立ち、火通りにも直結します。

油質・油交換サイクルとフレーバーへの影響

油は劣化するとスナックに不快な風味が移り、サクサク感も損なわれます。
調達部門としては、油脂の回転在庫や入荷ロット管理、設備側では油のろ過・リフレッシュサイクル管理が重要です。
このような細やかな連携こそが現場力の真骨頂です。

昭和から続く勘と経験の世界、DXによる変革

「鉄板の目利き」から「センサー×AI」へ

熟練オペレーターは、音(揚げるときにはじける音)、香り、色づきを総合して品質を判断してきました。
これを「カンコツ」という形で代々伝承してきた製造業の文化は強固で、今も根強く残っています。

しかし、近年では画像センサーで色調を数値化、温度プロファイルをIoTで取得、さらには破断音や食感をAIで評価する技術も登場しています。
将来的にはAIによる「サクサク判定」が標準になっていくでしょう。

昭和流とデジタル両方を知る人材こそ最強

現場で強いのは、昭和流の“カン”とDX推進力の“データドリブン”両方を体現できる人材です。
管理職は両者の連携を促進し、勘所をマニュアル化+デジタル化することで、製品サイクルタイム短縮と歩留まり向上を同時に達成できます。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場から見る品質マネジメント

バイヤー視点:「数値化されたサクサク」要求の裏側

バイヤーがサプライヤーに「サクサクした感触を毎回同じ品質で」と要求する時、実は脱水率や油温プロファイルの定義があいまいだと問題が起こりやすいです。
現場レベルでは、「脱水率2.5%±0.3%」「油温変動±2℃以内」といった数値でのルール化が、品質ブレを抑える鉄則です。

サプライヤー視点:バイヤーの真意を読み解く

バイヤーの「品質トラブルを減らしたい」要望に対し、“サクサク基準”を現場の経験値と照らし合わせて再設計する提案力が差別化要因です。
たとえば、油交換サイクル短縮の提案や、脱水工程での新センサー導入、トレーサビリティシステムの併用は大きな信頼獲得につながります。

現場目線で考えるこれからのスナック菓子づくり

勘とデータ、アナログとデジタルの融合

日本の製造業、特にスナック菓子分野は“昭和的な職人魂”と“令和型のデータサイエンス”のハイブリッド化が進みつつあります。
現場の勘を数値化し、新世代へ継承する仕掛けづくりが不可欠です。
若手にとってはデジタルツールを活用しつつ、ベテランの「サクサク感」の言語化にチャレンジしてもらいたいです。

サプライチェーン全体の連動が「最高のサクサク」を創る

脱水・油温のコントロールは現場オペレーションだけでなく、原材料調達から倉庫管理・ロジスティクス・納品先での在庫保管条件まで総合的に品質を左右します。
発注ロットの最適化、在庫回転率向上、物流の温湿度管理、こうした“連動した現場改革”こそが、安定した「サクサク品質」の鍵となるのです。

まとめ:サクサク感の未来へ向けて

スナック菓子のサクサク感は、単なる味や食感の問題ではなく、現場の知恵・技術革新・供給網全体の連携によって生み出される総合芸術です。
長年現場を見てきた立場からいえるのは、脱水と油温プロファイル管理の“攻めと守り”が未来の競争力を左右するということ。

現場担当者・バイヤー・サプライヤー、それぞれの立場から科学的根拠と経験に基づいた管理と提案力を強化していけば、今後も日本の製造業は世界で光り続けるはずです。

サクサク感を科学しようとする全ての製造業関係者にエールを送ります。

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