投稿日:2025年10月15日

織キズ・織段を防ぐための糸張力管理と整経精度の向上策

はじめに

繊維産業は古くから日本の基幹産業として発展してきましたが、現代の製造業においても、その現場では「織キズ」や「織段」といった品質不良が依然として大きな課題となっています。
グローバル競争の激化、顧客ニーズの多様化、納期短縮の圧力など、製造現場は激しく変化していますが、品質トラブルの根本原因の多くは、今も「糸張力管理」と「整経精度」の問題に起因していることが少なくありません。
この記事では、昭和時代から抜け出せないアナログな現場の実態も踏まえ、加えて最新技術や現場改善の実践ノウハウを交えながら、織キズ・織段を確実に防ぐための糸張力管理、そして整経精度向上の現実解を深堀りします。

織キズ・織段はなぜ発生するのか

織キズ・織段の基本的な発生メカニズム

織物製造の現場において、「織キズ」は布面に異常な凹凸や欠点が生じることを指し、「織段」は布面上に目立つ横スジや段差が発生する現象です。
その多くは、糸の質や状態・設備の整備状況・作業者の熟練度など複合的な要因が絡み合って発生しますが、最大公約数として「糸の張力むら」「糸の本数や位置のずれ」によるものが非常に多いのが現場実感です。

糸張力むらによる悪影響

糸の張力が揃っていなければ、経糸同士のバランスが崩れ、機械的に同じ織動作をしているはずでも、商品には不規則な波打ち・段差や撚れが生じます。
「ちょっとくらい大丈夫だろう」と、張力測定や整経精度への意識が甘くなったときほど、狙い通りの品質・生産性は大きく損なわれます。

ベテランですら油断すると陥る危険

昭和時代の現場文化には「経験と勘」のみで微調整をする習慣が根強く残っています。
ベテラン作業者が「これくらいはOK」と流してしまった結果、繰り返し生産で大きなクレームやロスにつながることも珍しくありません。
管理職や購買担当者には、定量的なデータによるチェックと、作業現場の「思い込み」を排除する姿勢が必要です。

糸張力管理の重要性

張力バランスの均一化がもたらす品質安定

糸張力の管理は、織機へ糸を供給する段階(整経)から始まっています。
同じ本数の経糸でも、張力の個体差が生じていれば、織物の密度・表面状態・物理的な強度も全く異なるものになってしまいます。
整経や織りの各段取りの時に糸張力のバラつきを数値で管理し、均一化を徹底することこそ、トラブル発生率を劇的に減少させるカギです。

現場でよくある失敗事例

例えば、複数の原材料メーカーから納入された糸を混ぜて使った場合、糸の緻密さ(撚糸のかかり方や油脂分)が微妙に違い、張力バランスが乱れがちです。
また、同じ原糸であっても倉庫保存時の湿度変化によって物性が変わる場合もあります。
これらの変動要因を放置すると、いくら織り工程を最適化しても、織キズ・織段は完全に防げません。

糸張力測定のアナログ手法とその限界

現場の多くでは、糸の張力を「手感」や「見た目」でその都度判断するアナログ管理が主流です。
一方で、定量的な張力測定装置(テンションメーター)を導入すれば、単純作業の標準化やデータ記録が可能となり、異常検知やトラブル防止のレベルが飛躍的に向上します。
アナログとデジタルを併用し、現場の「感覚」を裏付ける数値管理が今後の常識となるでしょう。

整経精度の向上策

整経工程こそ品質づくりの第一歩

整経は織物の根幹を担う工程であり、糸本数・張力・ピッチ(糸の間隔)が規定通りに均一整列されていることが絶対条件です。
この段階でミスがあれば、そのまま織機に送り込まれるため、織り工程での修正はもはや不可能です。
つまり、「最初にすべてが決まっている」と言っても過言ではありません。

整経装置の自動化とIoT活用

従来のアナログ整経機では、作業者の熟練度や注意力、現場の作業環境に大きく品質が左右されました。
しかし、近年では自動整経装置やIoTセンサによる糸本数カウント、張力のリアルタイムモニタリングも可能になっています。
例えば、1本でも糸が切れたり極端に緩んだ場合、自動で警報を発したり装置を停止できるシステムが普及しています。
部品コストや導入ハードルは一定ありますが、長期的なトラブル削減・品質安定・人手不足対策にもつながります。

人的ミスを防ぐ工程管理ポイント

現場改革の要は「ムリ・ムダ・ムラ」の排除です。
整経台帳で日々の工程条件を見える化し、異常発生時にはしっかり原因分析(なぜなぜ分析やFMEAなど)を行い、再発防止に結び付ける仕組みが重要です。
また、定期的な「糸本数・ピッチのサンプル検査」や「作業者教育」も品質安定のためには外せない施策です。

バイヤー目線とサプライヤーの協働アプローチ

バイヤーが求める品質保証体制とは

生地を調達するバイヤーは、単に「安い」「早い」だけでなく、「安定供給」「不良発生時の迅速対応」「トラブルの未然防止」に大きな価値を感じます。
そのため、サプライヤー側は品質記録データや糸張力管理表・整経工程の可視化資料など、信頼性を裏付ける客観的な情報提示が有効です。
定期的な現場監査や、トレーサビリティへの対応力も引き続き重視されています。

サプライヤーにとっての現場改善のメリット

糸張力管理や整経精度向上は、バイヤーからの信頼獲得だけでなく、サプライヤー自身の生産効率・歩留まり・納期遵守率の向上にも直結します。
仮にトラブルが発生した際にも、詳細な工程記録や原因分析データがあれば、責任分担や是正対応も円滑です。
サプライヤーとバイヤーが共通のゴールを意識して現場レベルから協議し、PDCAサイクルをまわすことで、Win-Winの関係を構築しやすくなります。

アナログ業界の現場に根付く課題と新時代への提言

「昭和の勘」を脱却する現場文化の変革

日本の織物産業は、これまで職人技や担当者の「目利き力」に多くを頼ってきました。
しかし少子高齢化・人手不足の時代において、その一子相伝的なノウハウ伝承だけでは、現場力の維持すら困難となっています。
デジタル技術や自動化装置を積極的に取り入れつつ、「なぜこれが必要なのか」「どのくらい効果があるのか」という意識改革も同時に進めなければなりません。

トラブル例から学ぶ、未来への改善ポイント

例えば、織段が頻発した現場での原因分析では、大半が糸張力の測定方法や作業報告が非統一だったことに起因していました。
「なんとなく」で済ませず、基準づくり・チェックリスト・IoTデータ活用など、小さな改革を積み上げるべきです。
すべてを最新設備に置き換えるのではなく、現場の現実に即した「バランス型改善」こそが最短ルートです。

まとめ

織キズ・織段の発生防止には、「糸張力管理の定量化」「整経精度の見える化」「人的ミス低減」の3本柱が不可欠です。
昭和型のアナログ志向だけでなく、現場に合わせた最新技術・ICTの導入を柔軟に取り入れていくことで、日本の製造業らしい「現場力」と「ものづくり品質」は更に高まっていきます。
バイヤー・サプライヤー両方の視点から、「数字」と「現場事実」に基づいた協働的な品質改善を進めることが、今後の競争力強化と信頼獲得の近道です。
現場での地道な改善が、日本の織物業界、ひいては製造業全体の未来を切り拓く原動力となります。

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