投稿日:2025年10月15日

パスタのコシを保つ押出温度と乾燥時間のバランス制御

はじめに:現場から見たパスタ品質の本質とは

パスタの製造現場において“コシ”は消費者の満足度を大きく左右する重要な品質指標です。
コシとは、芯がありながら噛みしめた時に感じる独特の弾力であり、食味や食感に直結します。
このコシを実現するためには、原材料の品質管理だけでなく、製造工程での「押出温度」と「乾燥時間」の見極めとバランス制御が極めて重要です。

しかし昭和の時代から続くアナログな慣習や、属人的な勘頼みがいまだに根強く残る業界においては、科学的な制御や現場データの扱いが十分に活用されていないケースも散見されます。
本記事では、実践的な現場目線と先端的なラテラルシンキングを駆使し、パスタのコシを保つための押出温度と乾燥時間のバランス制御について深く掘り下げます。
また、調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化の観点から仕組み化に至るヒントを共有します。

パスタのコシのメカニズム:なぜ押出温度・乾燥時間が重要なのか

グルテン形成とデンプンの糊化

パスタのコシは、小麦粉に含まれるグルテンネットワークがしっかり形成されることで生まれます。
加えて、デンプンが適切に糊化し、乾燥工程で崩れないようにすることも欠かせません。

押出工程では、小麦粉(またはデュラムセモリナ粉)に加水し、練りながら形状を作ります。
この時、押出温度が高すぎるとデンプンの糊化が過度に進み、べたつきや柔らかすぎる食感となります。
逆に低すぎると、成形後の耐久性やコシが不足します。

乾燥工程は、押出直後の水分を一定レベルまで減らし、微生物リスクを抑えるだけでなく、グルテンの配列・定着を決定づける重要なプロセスです。
急激すぎる乾燥は、表面にひび割れが生じやすくなり見栄えや内部構造に悪影響を与えます。
一方、緩慢すぎる乾燥は表面にカビが発生しやすく、コシが弱くなります。

押出温度と乾燥時間の“黄金バランス”

多くの現場での経験から、押出温度は45〜55℃が一般的な適正範囲として知られています。
45℃以下だとグルテンの強度が不足し、55℃を超えるとデンプン糊化が進み過ぎてコシが弱くなる傾向があります。
ただし、原材料ロットや気候条件によって最適値は揺れます。

乾燥時間は、一般的なショートパスタであれば8〜12時間、ロングパスタであれば18〜24時間とされます。
早すぎれば割れ・コシ不足、遅すぎればコスト・品質低下のリスクを孕みます。

重要なのは、この押出温度・乾燥時間の組み合わせが“バランス”を保ちながら製品品質を担保することです。
昭和的な属人管理からステップアップするためには、工程内のデータ分析や記録の標準化がカギとなります。

現場でのバランス制御の現実:専門家ならではの勘と結果データ

アナログ時代の課題と成功体験

長らく日本のパスタ工場では、熟練作業者が「触感」や「色合い」「香り」を頼りに押出温度や乾燥時間を調整してきました。
経験則に基づいた手法は確かに一定の再現性を生みますが、イレギュラーな原料や気候変動、新人作業者への伝承には難が残ります。

たとえば、梅雨時は原料粉の含水率が高くなり、押出温度をやや高め、乾燥時間も若干長めに設定することで、発酵やカビのリスクを防いできた現場も多いです。
一方、原料が安定しない場合は、“コシ”と“表面の割れ発生率”といった複数指標を見ながら、何度も試験ロットを流す必要があり、工数と歩留まり悪化につながります。

データ駆動型現場へのシフト

近年では、工程パラメータ(押出温度・水分量・回転数など)および製品評価データ(コシ強度・色調・割れ率など)を一元管理する現場が増えてきました。
これにより、過去の最適条件を素早く検索・再現可能となり、トラブル時の原因解析や迅速な是正につながっています。

将来的には、AI画像解析による表面品質の自動判断や、IoTによる全自動乾燥モニタリング、そしてクラウド型データベースでの横展開など、誰もが“ベストプラクティス”を共有できるプラットフォーム化が期待されます。

調達購買・サプライヤーとの連携がカギを握る

原材料起点での最適化

良いパスタづくりは、良い原材料から始まります。
粉のたんぱく質含有率や粒度、吸水特性に応じて押出温度と乾燥時間を微調整することが、現場では日常茶飯事です。

このため調達購買の担当者は、サプライヤーと密に連絡を取り合い、原材料ロットごとの特徴を現場と双方向に共有することが求められます。
バイヤー視点では、「加工現場がどの温度帯・乾燥時間を理想としているのか」を知ることで、サプライヤー側もよりニーズに合致した粉の提案ができるようになります。

現場改善のためのPDCA循環

バイヤーが原材料の分析データや現場の声を通してPDCAを回す仕組みがあれば、工場側も安定した工程設計が可能になります。
また、複数工場の解析データを横展開すれば、ベストバランスを見つけやすくなり、全社的な品質底上げに貢献できます。

現場で今日から使える“バランス制御”の具体策

1. 頻度・品種別にマスター条件を設定

自社の主力品種ごとに「押出温度・乾燥時間・含水率・初期温度・最終温度」などのマスター条件表をつくり、誰でも参照できるようにしておきます。
これは、OJT教育や急な工程変更時に大いに役立ちます。

2. 変動要素リストアップとチーム共有

気温・湿度、受入粉の個体差など、バランス制御に影響しやすい変動要素を毎日点検。
気づいたことを現場掲示板やデジタルツールで記録し、チーム内でリアルタイム共有します。
属人的な知見を“見える化”することで、誰でもバランス調整ができるようになります。

3. トラブル時の対策マニュアル作成

例えば、「割れが多発した場合」「コシ不足のクレームが届いた場合」など想定されるトラブルごとに、考えられる要因分解(押出温度・乾燥時間・原材料ロットごとの差異など)と推奨アクションのフローチャートを作成しておきます。

未来志向:パスタ製造もデジタル化・自動化へ進化する

デジタルトランスフォーメーション(DX)はパスタ工場にも着実に波及しています。
IoT水分センサー、AI画像解析装置、設備遠隔監視システム等が次々導入され、高精度なバランス制御が実現可能となります。

しかし、そのベースには現場で培った“データとロジックに基づくバランス制御”の思想が不可欠です。
アナログな経験則を正当に評価し、そこにデジタルの利便性を積み上げることで、誰もが失敗なく最高のコシを生み出せる現場が実現します。

まとめ:現場の力を“仕組み”に変えよう

パスタ製造における押出温度と乾燥時間のバランス制御は、単なる知識やマニュアル頼みでは不十分です。
現場の毎日の観察、経験、そしてデータの積み重ねがベストバランスを見極める鍵です。

さらに、調達購買部門やサプライヤーと連携し、現場との情報共有体制を強化することで、より良いバランス制御と高品質パスタの安定生産が可能となります。

いまだアナログ色の濃い製造業界だからこそ、現場のリアルを科学的に見つめ直し、新たな工程管理手法として“バランス制御の仕組み化”が必要です。
昭和の職人芸と令和のテクノロジーが融合した現場こそが、これからの業界を牽引していくでしょう。

You cannot copy content of this page