投稿日:2025年10月15日

スナック菓子の油切れを良くする脱油ドラム回転数と時間制御

はじめに:製造業のレガシーと脱油工程の重要性

製造業、特に食品業界においては、昭和時代から続くアナログ的な工程管理や“職人技”が今も現場の隅々にまで息づいています。

一方で、効率や品質、安全性の追及の流れは止まることなく、特に消費者の健康志向の高まりとともに、スナック菓子などの油切れ管理は、製品価値や市場競争力を大きく左右する重要工程となっています。

本記事では、スナック菓子製造の現場で見落とされがちな「脱油ドラム」の回転数と時間制御について、調達・生産管理や品質管理の視点も交えつつ、実践的なノウハウをお伝えします。

工場の現場で新たな一歩を踏み出したい、バイヤーや現場リーダー、サプライヤーの皆様にも役立つ情報となるよう心がけています。

スナック菓子と脱油ドラム工程の基礎知識

脱油とは何か? ― 油切れ工程の意味

ポテトチップスやコーンスナックをはじめとしたスナック菓子の多くは、最終段階で“揚げ”工程を経ます。

この際、過剰な油が製品表面に残ることで、品質や賞味期限に悪影響を及ぼすだけでなく、べたつきや食感の不均一など、消費者満足度の低下にも直結します。

脱油ドラムは、この余分な油を物理的に除去する設備であり「いかに効率よく、かつ狙い通りの食感や風味に仕上げるか」を握る、いわば匠の領域ともいえる工程です。

脱油ドラムの基本構造と仕組み

脱油ドラムは、ステンレス製などの筒状ドラムがモーターによって回転し、内部に製品を投入することで、遠心力や摩擦を利用して油を除去します。

回転数(RPM・毎分回転数)とドラム内滞留時間がポイントとなり、適切な制御がなされないと、油残りや、逆に製品の破断・変形、過乾燥・食感劣化といったトラブルの原因になります。

昭和のアナログ現場あるあるとその限界

現場の自負とプライドに裏打ちされた“感覚的調整”

昭和から続く多くの工場現場では「うちは長年、先輩の“勘”でやってきた」という風土が色濃く残っています。

たしかに、熟練オペレーターの眼力や体感が品質を守ってきたのも事実です。

しかし昨今では、原材料や消費者ニーズ、出荷ロットの多様化により、「勘」に頼る運用の限界が見え始めています。

「なぜその回転数なのか」「なぜその時間なのか」の理由を明確に説明できなければ、安定調達や品質監査の壁にぶつかるのです。

脱油ドラムの回転数設定の最適化

回転数(RPM)が品質に与える影響

ドラムの回転数が高すぎると、製品がドラム内で暴れて割れや欠けが発生しやすくなります。

一方、低すぎると油が充分に切れず、べたつきや脂質過多による風味劣化の要因になります。

たとえば一般的なポテトチップスであれば、脱油ドラムの回転数は毎分20~60回転程度の範囲が推奨値とされますが、じゃがいもの品種やスライスの厚み、ドラムの直径・内部構造により最適値は異なります。

工場によっては、原材料ロットごとに最適回転数のテスト記録を残し、データベース化している例も見受けられます。

現場でできる回転数最適化の手順

1. 目標とする油切れ率・歩留まりを明確化する(例:油分3%以下、歩留まり98%以上など)。
2. 材料の状態ごとに複数パターンの回転数でテストバッチを実施する。
3. それぞれの結果(見た目、油分測定、破損率など)を定量的に記録。
4. 最も狙い値に近い条件(“ゴールデンコンディション”)を標準工程として策定。
5. 新材料、季節、設備更新ごとにPDCAサイクルを運用する。

このような手順を現場全体で共有し、データによる裏付けを重視することが大切です。

脱油ドラムの時間設定とそのコントロール

滞留時間管理の重要性

脱油ドラムの時間設定も、品質面・歩留まり面で大きな影響を及ぼします。

時間が短ければ油分残り、長すぎれば食感の損失や製品変質が起きます。

また、生産性面では、長時間の脱油はスループットの低下を招き、納期遅延や生産コスト増大の一因となります。

時間設定のベストプラクティス

具体的な管理例として、100秒、120秒、140秒…など複数時間でテストし、それぞれの油分値・食感評価結果を比較。

ピーク時の材料投入量やラインスピードと連携して、製品ごとに最適時間帯を割り出していきます。

ここで大切なのは、“理論値”ではなく“現場値”を最優先すること。

実ラインで“協働検証”を重ねる姿勢が、アナログ現場に根付く「机上の空論は通用しない」という文化にも、バイヤーや品質保証部門の信頼獲得にも直結します。

最新の業界動向:デジタル制御とレシピ管理

自働化・デジタル化の進展

近年、脱油ドラムにも回転数・運転時間をコンピュータで制御可能なモデルが増えています。

工場のIoT化やSCADAシステム(監視制御データ取得システム)との連携により、「レシピ登録」「自動記録」「リアルタイムフィードバック」が実現。

これにより、条件変更のたびにオペレーターが手作業で記録・調整していた負担を大幅に削減でき、トレーサビリティ監査や“不良改善”にもスピード対応が可能となります。

レガシー現場での移行への壁と、成功事例

一方、昭和型アナログ現場では「新機種は高い」「使いこなす自信がない」「今のやり方で十分だ」といった抵抗も根強いのが現状です。

そのため、段階的なパイロットライン導入やオペレーター教育を通じて、まず現場リーダー層に成功体験を持たせることが推奨されます。

たとえば、ある大手スナックメーカーでは、最初は1ラインのみで自動回転制御ドラムを導入。

工程監査の工数削減、品質バラツキの低減が社内外で評価され他ラインへの水平展開が加速した実例があります。

サプライヤー・バイヤー視点で注目すべきポイント

バイヤーが重視するポイントとは?

脱油工程の管理が行き届いているかどうかは、バイヤーにとって重要な品質評価指標です。

「データに基づく標準作業」「異常時のトレーサビリティ体制」「油分値や食感など客観的品質指標の提示」などが、商談や調達選定の重要視点となります。

安易に「ウチは職人技だから大丈夫」とアピールするよりも、「なぜその条件なのか」「万一異常が起きた際のリカバリー体制」というロジカルかつ現場感のある説明が、信頼獲得の近道です。

サプライヤー側でできる競争力強化策

原材料調達先としては、脱油ドラムに左右される製品特性のブレを抑え、“どのバイヤーからも同じクオリティで納入できる”体制が値打ちとされます。

たとえば共有すべきポイントとして、
・脱油テスト結果データの随時提出
・新型設備の導入提案(省エネ型、清掃性向上など)
・“異常値”発生時の調査・再発防止策の迅速なフィードバック
など、単なる納入業者以上の“共創パートナー”としての存在感を発揮できる余地があります。

まとめ:進化し続ける脱油工程で新たな価値を創る

スナック菓子の脱油工程は、単なる油切り作業ではなく「最終商品価値に直結する」戦略的プロセスです。

回転数や運転時間の設定、デジタル制御への適応、バイヤーとの情報共有など、一つひとつの工夫と意識変革が、製造業の未来を形作ります。

アナログから最新技術、現場職人の“感覚”とデータドリブンの融合こそが、時代の地平を切り開くクリティカルな“武器”となるでしょう。

現場で働く一人ひとりが自部門のプロフェッショナリズムに誇りを持ち、業界全体の“進化”と“共創”を実践していく。その一助となれば幸いです。

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