投稿日:2025年10月15日

編立中のコースムラを改善する給糸ローラーとテンション設定

はじめに:昭和から令和へ、編立工程のコースムラ課題

編立工程は、ニット製品や各種繊維製品の品質を左右する要となるプロセスです。

しかし、「コースムラ(編み目の不均一)」は、依然として現場の頭を悩ませる代表的な品質トラブルのひとつです。

IoTや自動化が叫ばれる令和の時代であっても、特に昭和から続くアナログな現場文化を色濃く残す編立現場では、コースムラ対策はベテランオペレーターの“勘と経験”に依存しがちです。

本記事では、給糸ローラーとテンション設定という2つのキーファクターに焦点を当て、現場目線から具体的な改善アプローチを紹介します。

技術が進化しても変わらない“本質”を押さえながら、ラテラルシンキングで業界の常識に一石を投じます。

コースムラとは何か:発生メカニズムと現象を再点検する

編立におけるコースムラとは、糸の送りやテンションバランスが崩れ、できあがった編地の中で目幅、目付、目の形が一定しない不良現象のことを指します。

コースムラの主な発生要因は、以下の4点にまとめられます。

  1. 給糸時の糸張力(テンション)のムラ
  2. 糸道やローラー、ガイド部での糸の引っ掛かり
  3. 糸材質や加工・保管状態のばらつき
  4. 編立機自身の摩耗やセットアップ不良

このうち給糸ローラーとテンション設定は、現場で能動的にコントロールできる領域であり、即時性が高い改善対象です。

給糸ローラーの役割と重要性

給糸ローラーの機能を正しく理解する

給糸ローラーは、糸の供給源(糸立台やコーン)から編立機に糸を送り込む際に、一定量の糸を安定した速度とテンションで送るための心臓部です。

ローラー部の滑りや摩耗、ゴムの硬さ、表面状態によって、糸に与える摩擦力が変わり、結果として糸の送り量やテンションの安定性にダイレクトに影響を与えます。

また、ローラーの清掃・メンテナンス不足による糸屑やオイルの付着も、コースムラの“隠れた原因”となります。

編立現場でのありがちな問題と対策

・ローラー表面の硬化や異物付着による糸すべり
・劣化による極度な張力増加
・左右での摩耗差による微妙な送り長の違い

これらは全て、最終製品のコースムラとして現れます。

ここで大切なのは“決め打ち”でスペックを固定せず、小まめな点検やローラー交換を日常点検のサイクルに組み込むことです。

コストダウンを理由に長期間の“使いまわし”を続けた結果、不良が出てから慌てて交換…という悪循環を断ち切ることが肝心です。

テンション設定の最適化:定量管理とレシピ化のススメ

テンション調整は“感覚”から“数値化”の時代へ

従来は“オペレーターの指感”で決めていたテンション設定も、現代はテンションメーターやロードセルを使った数値管理が主流になりつつあります。

テンション設定時に重要なのは、「どの編地品質をどの数値レンジで狙うか」を正確に把握し、それをレシピ化することです。

良品時のテンションデータを蓄積し、不良発生時との差分を見ることで、「誰が作業しても同じ結果が出る」現場づくりが大きく前進します。

テンション設定の“黄金律”

1. 糸材ごとに最適テンションを見極める

ポリエステルやナイロン、綿糸など、糸材の延伸率や表面摩擦係数によって、最適テンションは大きく異なります。

新規素材やロットブレンド変更時には、必ず試験編みでテンション値を検証し、エビデンスを残すようにしましょう。

2. ローラー/テンションアジャスターの組み合わせを体系化する

テンションをかけすぎれば糸切れや編み目詰まり、逆に緩すぎれば目落ちやムラ発生のリスクが高まります。

まずは推奨値を設定し、定期的な“検証サイクル”をまわす文化が鍵となります。

テンション管理は科学であり、アートではない。

工場のアナログ文化を変えるには:「改善」から「カイゼン」へ

デジタルとアナログの“いいとこどり”

現場はつい、「昔からこうしていた」「このやり方が一番」との先入観に縛られがちです。

しかし、確かな伝統・職人技に頼る一方で、数字で可視化・改善できる工程は積極的にデジタル管理へとシフトすべきです。

最も効果的なのは、データ計測ツールやIoTセンサーを“現場オペレーターが自分ごと”として活用できるようにすることです。

「現場力×データドリブン」の融合は、驚くほどの歩留まり向上を生み出してくれます。

現場主導の“仕組み改善”を設計する

昭和的なカンや暗黙知は“ゼロにはならない資産”ですが、それだけでは属人化や引き継ぎ不能という新たなリスクもはらみます。

そこでお勧めしたいのがQCサークルや小集団活動による改善(カイゼン)です。

現場の声をボトムアップで吸い上げ、例えば
・不良発生パターンとその都度のテンション設定・ローラー管理内容を記録
・再発防止のための「見える化シート」を作成
・オペレーター育成マニュアルへ体系的に反映
といった“仕組み化”を進めることで、個々の知恵が現場全体の力となり、強靭なものづくり体質となります。

サプライヤーとバイヤー、それぞれの視点を活かす

バイヤーが現場を見るべき理由

バイヤーは「コスト」「納期」「品質」を3大要素としてサプライヤー管理にあたりますが、編立工程でコースムラが頻発する工場と長期的な信頼関係は築けません。

自社ブランドの要求水準と、現場でのテンションや給糸ローラー管理体制、トレーサビリティへの姿勢などをしっかりヒアリング・監査し、「ブラックボックス化した曖昧な手順」を炙り出すことも大切です。

優れたバイヤーは現場を直視し、職人とともに「一緒に改善」する姿勢が欠かせません。

サプライヤーの立場として“伝わる説明力”を持つ

サプライヤー側も「コースムラゼロ宣言」や「テンション・ローラー管理手順書」「定期点検・校正記録」を積極的に開示することで、バイヤーの安心感を生み出し、付加価値の高いパートナーとなれます。

また、バイヤーが求める“見える化データ”を分かりやすく説明できるエンジニアや担当者の育成も、今後の取引拡大に直結します。

まとめ:コースムラ改善が現場力を底上げし、未来を切り拓く

編立工程のコースムラは、決して「運」や「気合」でなくせるものではありません。

給糸ローラーの徹底した点検と、テンション設定の数値化・レシピ化。

そして現場全体での知恵の体系化。

これらを着実に廻していくことで、誰が担当しても安定した品質づくりが可能となります。

今こそ、昭和から続く現場の良さを最大限に活かしつつ、最新技術・見える化・QC活動といった令和型のカイゼンを組み合わせて“地に足の着いた現場改革”を一歩ずつ重ねましょう。

バイヤーもサプライヤーも、お互いの目線と努力を理解し合うことで、製造業の現場から世界を変える原動力となるはずです。

現場からイノベーションを巻き起こす。

その第一歩が、コースムラ対策の“現場カイゼン”なのです。

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