投稿日:2025年10月16日

お菓子のコーティングが剥がれない温度管理と乾燥曲線設計

はじめに:製造業の現場とお菓子の品質

お菓子製造の現場では、「コーティングが剥がれる」という悩みが頻繁に聞かれます。
この問題は見た目の美しさや商品価値に直結し、購買者・消費者の信頼に深く関わります。
温度管理と乾燥曲線をどれだけ正確に設計・制御できるかが、その成否を分けると言っても過言ではありません。
昭和から続くアナログ主義の現場でも通用する王道の考え方に加え、現代の最新動向や現場目線の工夫を深掘りし、バイヤー・サプライヤー双方に通じる知見をお届けします。

コーティング剥がれのメカニズムを理解する

なぜコーティングが剥がれるのか?

お菓子のコーティングは、主にチョコレートや砂糖、グレーズなど多岐にわたります。
コーティングが剥がれてしまう主な要因として、以下の3点が挙げられます。
1. 基材(お菓子本体)とコーティングの密着不良
2. 急激な温度変化による膨張・収縮差
3. 乾燥工程における水分移動・残留

それぞれが複雑に絡み合い、僅かな制御ミスが大量不良やクレームにつながります。
特に近年は、高温多湿な環境下での消費シーンが増えているため、現場では実需を見据えた品質設計が求められています。

昭和から抜け出せない現場が抱える課題

日本の製造業では、「経験と勘」がいまだに主役として君臨する現場も多いです。
乾燥や温度管理も熟練者が火加減や湿度計とにらめっこして調整する場面が少なくありません。
しかし、デジタル情報化や海外輸出等で高い再現性と安定品質が求められる現在、このままのやり方では越えられない壁が立ちはだかっています。

最強の品質を生む乾燥曲線設計の考え方

乾燥曲線設計とは何か?

乾燥曲線設計とは、コーティングが製品に適切に密着しながら、最適な水分量まで乾燥させるプロセスを”曲線”で捉える考え方です。
これは、単に「乾燥機の温度を何度にするか」「時間を何分にするか」だけでなく、「加熱の速度」「水分の抜けるタイミング」「冷却とのバランス」など、複数のパラメーターを連続的に制御するものです。

適切な乾燥曲線の例

1. 低温で緩やかに乾燥を開始し、表面に皮膜を作る
2. 予熱と本乾燥を分け、内部から水分を適切にコントロール
3. 急激な加熱・冷却は避け、収縮ストレスを最小化
特に、最初から高温にすると表面だけが急激に乾燥し、内部とのギャップで「ピリ」「ペリ」と剥がれが起こりやすくなります。
反対に、冷却過程を早めすぎると「曇り」や「結露」による白化(ブルーム)が生じることもあります。

工場現場での温度管理体制の整備

測定・記録のルーチン化

品質管理の第一歩は「正確な測定」です。
温度センサーやデータロガーの導入はもはや当たり前。
手書きの記録や温度計の読み間違いによる「見過ごし」は、大きな損失につながります。
現場作業者が自ら計測し、実際の生産履歴を蓄積することで、「何度・何分でどんな品質に仕上がったのか」を可視化し、ノウハウの形式知化を進めることが重要です。

設備改善とIoT活用

昭和型の温度・湿度管理では目視や手動調整が主流ですが、現代ではIoT技術やPLCコントロールによって正確なプロセス制御が手軽に行えます。
例えば、乾燥工程の記録を自動化し、異常時アラートでロスの発生を最小限に抑える仕組みや、AIによる乾燥曲線の最適化も一部導入が始まっています。
まずはデータを集め、分析できる土壌を社内に作ること。
「人手頼みの現場」から「データ駆動の現場」へのシフトチェンジが必須です。

現場で役立つ温度・乾燥管理の裏技

1. プレヒートとステージ乾燥

コーティング工程でよくあるミスは、「いきなり本乾燥」で表面だけが固くなり内部とのストレス差で割れてしまうことです。
短時間でも「プレヒート(予熱)」段階を設けて30℃台の緩やかな乾燥を数分間を設けると、表面が少し柔らかい膜を作り、後の本乾燥との密着が段違いに良くなります。
同様に、「段階的乾燥」すなわち時間ごとに温度設定を細かく変えてあげることで、品質と生産性が両立します。

2. 製品搬送中の温湿度の意識

お菓子製造ラインでは、焼成・コーティング・乾燥・冷却と複数の工程を通過します。
搬送途中のトンネルクーラー内や、保管ゾーンの温度湿度管理も見逃せません。
例えば、冷却ゾーンの湿度が高いと、コーティング表面に水分が付着し白化やペタつきが出やすくなります。
「工程間の空気」まで意識することが、お菓子メーカーにとっての差別化になります。

3. 原材料と設備の相性を知る

同じ「チョコレートコーティング」でも、原材料の脂肪分・乳成分・糖分によって乾燥耐性や密着性がまったく異なります。
また、乾燥機の種類(熱風循環型、遠赤外線型、エアフロー型など)と製品特性との相性が大きな品質格差を生みます。
小ロット単位でも、計画的にテストを実施し、設備投資判断やレシピ改良に役立てるべきです。

サプライヤー・バイヤー目線での情報共有の重要性

バイヤーが重視する現場の再現性

バイヤーは「安定した品質」「大ロットの品質均一性」「トラブルゼロ生産性」を最も重視します。
つまり、「今月はたまたま剥がれなかった」ではなく、「来月、再来月も必ず同じ結果を出せる現場体制」が求められています。
そのためには、サプライヤー自身が温度・乾燥管理のPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回し続けているか、客観的な記録・データをバイヤーに提供できるかが信頼獲得のカギです。

「現場のナレッジ」を形式知化せよ

100回の経験より、1回の正確なデータ記録。
現状把握を「数値と言葉で伝えられる」ことが重要です。
現場の勘や熟練のコツを「乾燥曲線」「温度・湿度グラフ」「工程毎のトラブル事例」としてまとめておき、バイヤーからの品質監査時に自信を持って提示できると、大きな信頼を得られます。

バイヤーに伝えたい現場の本音

バイヤーにとって「不良ゼロ」は理想ですが、現場には必ずバラつきや想定外のロスが発生します。
忌憚なく「これまで起きた不具合」「対策と改善履歴」「今後想定されるリスク」を分かりやすく共有し、Win-Winの関係性を目指す姿勢が大切です。
アナログ現場でも、進化し続ける取り組みがバイヤーから選ばれる理由になります。

まとめ:現場は進化する、未来に繋がる知見を

お菓子コーティングの剥がれ防止には、「正確な温度管理」と「理にかなった乾燥曲線設計」が不可欠です。
昭和のアナログ現場の良さと、令和のデータ・IoT活用を両立させることが業界の未来を拓きます。
本記事で紹介した現場ノウハウとマインドセットが、サプライヤーとしての信頼獲得や、バイヤー目線でのリスクヘッジ、さらには製造現場全体の弱点克服につながることを願っています。

ぜひ、あなたの工場や職場で今日から実践してみてください。
現場が変わる、業界が変わる、新しい未来を一緒に創っていきましょう。

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