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靴のソールが剥がれないプレス温度と加圧時間のバランス

目次
靴のソールが剥がれないプレス温度と加圧時間のバランス
靴製造の現場において、ソールの「剥がれ」は長年の課題です。
最終工程であるアッセンブリ、特にソール圧着工程は、バイヤー・メーカー双方にとって品質と信頼性を左右する重要なポイントとなっています。
「どれだけ高級な材料を使っても」「最新のデザインでも」ソールがすぐに剥がれてしまってはユーザーからの信頼は損なわれます。
そこで本記事では、実務で20年以上関わってきた経験をもとに、現場視点と最新の業界トレンドも交えて、ソールの剥がれを防ぐプレス温度と加圧時間の最適バランスについて深く掘り下げていきます。
ソール圧着の基本~なぜ剥がれるのか?
剥がれの主な発生要因
まず、ソールの剥がれがどうして発生するのかを整理しましょう。
主な原因は以下の通りです。
・圧着時の温度が低すぎまたは高すぎる
・加圧時間が短すぎる(または長すぎて熱劣化する)
・接着剤の塗布ムラや乾燥不足
・ソール・アッパー素材と接着剤の相性不良
・現場環境(湿度・温度)の変化
上記のうち最も影響が大きいのが「温度」と「加圧時間」の制御です。
昭和から続く多品種少量生産の靴工場では、熟練職人の経験則に頼る部分が大きく、標準化やデータ化が遅れているケースが少なくありません。
しかし、グローバル化やサステナブル製造の観点からも、「誰でも均一に高品質な圧着ができる工程設計」が求められています。
剥がれに直結しやすい温度と時間のバランス
現場作業でありがちなミスは「温度を高くすれば早く、しっかり接着できる」という短絡的な判断です。
しかし、接着剤は温度を上げすぎると分子構造が破壊されたり、素材そのものが変質するリスクもあります。
逆に、温度が低いと加熱反応が不十分となり、十分な密着力が得られません。
同様に、加圧時間を長くすれば良いというものでもありません。
加圧時間が長すぎると「過度の加熱」で素材が変形したり、内部応力による反り戻りが発生します。
短すぎれば反応が不十分となり圧着力にバラつきが出ます。
現場で使える!ソール圧着の温度・圧力・時間のベストプラクティス
代表的な接着剤と最適条件
靴のソール接着に使われる主な樹脂接着剤は主に以下の3タイプです。
その代表例とともに、基本的な最適温度・加圧時間を解説します。
1. ウレタン系接着剤
・圧着温度目安:70~90℃
・加圧時間目安:40~80秒
2. 熱可塑性ゴム系接着剤(TPR、EVAソール等)
・圧着温度目安:80~110℃
・加圧時間目安:30~50秒
3. ホットメルト接着剤
・圧着温度目安:110~140℃
・加圧時間目安:15~30秒
各接着剤にはメーカー推奨値がありますが、現場環境や素材、気象条件によって微調整が必要となります。
特に梅雨時期や冬季などの気温・湿度変化によって、反応速度や粘着性が大きく変わるため注意が必要です。
加圧圧力も重要なポイント
圧着時の「圧力」も見落とせない要素です。
一般的には1~3kg/cm²程度が目安とされています。
ただし、素材の柔軟性やソールの形状、サイズによって調整する必要があります。
過剰な圧力は素材の変形や接着面の潰れ、逆に不足は密着不良・剥がれのリスクを高めます。
現場では圧力計付きのプレス機を使い、こまめな調整と点検を怠らないことが大切です。
経年劣化と現場改善の視点
工場でのサンプル試験だけでは十分な耐久性評価はできません。
実際の使用環境や経年変化を考慮し、歩行試験や温湿度サイクル試験、剥離テスト(ピールテスト)などを定期的に実施することが品質安定につながります。
また、現場の「いつものやり方」が本当に最適なのか、定期的に見直すPDCAの風土づくりが高品質化の第一歩です。
昭和的な職人技から脱却し、再現性の高い標準化へ
「匠の勘」から「データ」と「標準化」へ
靴製造現場にはいまだに「熟練作業者にしかできない圧着工程」が残っています。
これは一見、現場の武器のようにも思えますが、逆に品質のバラつきや技能伝承の壁となっているのも事実です。
どんなに優れた経験則でも再現性のある工程管理でなければ、客観的な品質保証はできません。
これからは
・プレス機自体の温度・圧力・時間の自動制御
・作業記録や品質データのデジタル蓄積
・設備メンテナンス履歴の管理
など、見える化・データ化が「新しい日本のものづくり」の命綱となっていきます。
若手や未経験者でも安定した品質を実現できる「標準手順書」づくりは、海外との価格競争を勝ち抜くためにも必須です。
設備投資と現場改革へのポイント
自動加圧プレス機や赤外線加熱の導入など、省人化・省エネ化も進んでいます。
ただし、初期投資に尻込みせず、現場従業員への教育投資と合わせて、徹底した「現場フィードバック」がポイントです。
なぜなら、設備は使いこなせてこそ価値が出ます。
現場の声を吸い上げ、使い勝手やメンテナンス性まで追い込んで初めて「工程の再現性」が生まれ、高品質とコストダウンの両立が可能となります。
サプライヤー・バイヤー視点で考える、求められる品質保証体制
バイヤーが本当に求めているもの
バイヤーの方が靴メーカー・サプライヤーを評価する際、単に値段だけでなく下記の観点を重視しています。
・出荷前検査(加圧・温度記録やピールテスト実績)の有無
・工程異常時の原因分析・再発防止策の具体性
・品質データを基にした社内教育・改善活動
「発生した不具合にどう対応したか」だけでなく「品質を守る仕組みそのもの」を見ています。
サプライヤーもこうしたバイヤーの視点を理解し、「標準化」「見える化」「再発防止策」の構築に積極的に取り組むことが今後のパートナーシップ強化につながります。
現場で今日からできる品質安定のためのアクション
1. 圧着工程の作業手順書の見直し・明文化
2. プレス機の温度・圧力・加圧時間の点検・記録徹底
3. 接着剤・加熱条件のロット管理、トレーサビリティ確保
4. 社内・協力会社との横断的な品質情報共有会の開催
5. 定期的なピールテストや現場見学を通じた技能伝承
これらを着実に進めることで、「昭和的アナログ作業」から「グローバル水準の品質安定」への転換が図れます。
まとめ
「靴のソールが剥がれないプレス温度と加圧時間のバランス」とは、単なる数値管理ではなく、「工程そのものの再現性」と「現場知見の不断のアップデート」がカギとなります。
昭和的な勘や経験だけに頼らず、客観データや標準化を進めることで、バイヤーや最終消費者から選ばれる強いものづくり現場を作ることができます。
製造業の進化は、小さな現場の「気づき」と「改善活動」から生まれます。
今やっていることを、もう一歩深く、ラテラルに掘り下げてみませんか。
必ず新しい価値と品質向上のヒントが見つかるはずです。
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