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レトルト食品の保存性を高める加圧加熱殺菌と袋積層構造の工夫

目次
はじめに:レトルト食品の保存性が重視される理由
私たちの食卓に身近なレトルト食品は、忙しい現代人の強い味方です。
長期間保存でき、開封するだけで簡単に食べることができるという利便性は、多くの消費者にとって大きな魅力となっています。
しかし、この「保存期間の長さ」と「安全性・おいしさ」を両立させるためには、製造現場ではさまざまな工夫がなされていることをご存じでしょうか。
本記事では、レトルト食品の保存性を高めるための加圧加熱殺菌と、袋の積層構造に施されている工夫について、20年以上の現場経験から実践的な視点で解説します。
また、調達・購買や生産現場、そしてサプライヤーの立場でぜひ知っておいてほしい業界のトレンドや、昭和のアナログ思考から脱却するためのヒントも交えながらご紹介します。
加圧加熱殺菌とは:レトルト食品の安全性を守る要
加圧加熱殺菌の基本的な仕組み
レトルト食品の製造工程で欠かせないのが「加圧加熱殺菌」です。
これは包装した食品を高温・高圧の環境下で一定時間加熱し、食品内部の微生物や細菌、ウイルス、酵素などを死滅させる工程です。
一般的に、日本では121℃で4分以上の加熱(F値4以上)が基準とされ、耐熱性の高いボツリヌス菌芽胞も死滅すると認められています。
この工程によって、常温保存で長期間の安全性を保証できるのです。
現場が直面する2つの課題:品質と風味の両立
加圧加熱殺菌工程では「どれだけ確実に殺菌を達成するか」と「食品の元々の風味や食感をどこまで損なわずに残せるか」がバランスの難しいポイントです。
過度な加熱をすれば確かに安全性は高まりますが、味や香り、食感が損なわれ、せっかくの美味しさが失われてしまいます。
殺菌不足であれば、食中毒などの安全リスクにつながる危険性があります。
この課題を解決するため、現場ではサーマルマッピング(加熱分布の可視化)や急速冷却装置の導入など、絶え間ない技術革新が進んでいます。
昭和型工程管理からの脱却
かつては「経験と勘」に頼ることが多かった加圧加熱殺菌の工程管理も、今ではデジタル記録によるデータ管理が主流となっています。
殺菌条件の自動記録システムを導入し、ロットごとのトレーサビリティも強化されています。
このようなシステム化によって、属人的なノウハウ依存の弊害を減らし、誰もが同じ高品質の製造ができるようになってきました。
レトルトパウチの積層構造に隠された工夫
なぜ単層ではなく積層が必要か
レトルト食品を手に取ったとき、外側のフィルムが単体でできていると思ったことはありませんか?
実際には、2層、3層、場合によっては5層もの異なる目的を持ったフィルムが貼り合わせて作られています。
理由は、外部からの酸素や水分の侵入、そして食品中の香味成分や油脂などが外に漏れるのを防ぐ必要があるからです。
たとえば単層のポリエチレンだけでは、長期間の保存には十分なバリア性を確保できません。
積層フィルムの具体的な構成と役割
代表的な構成例を挙げると、
1:外層(ペット/ナイロンなど):耐熱性・強度を確保
2:中間層(アルミ箔/EVOHなど):酸素・水分の遮断
3:内層(ポリプロピレンなど):溶着性・内容物との接触安全性
このような多層構造によって、「密封したまま高温高圧殺菌工程に耐える強さ」「内容物を変質させないバリア性」「食品安全を保ちながら口当たりも良くする設計」など、レトルト食品特有の要求に応えています。
なおアルミ箔を用いない透明パウチ(ノンメタルタイプ)も増加傾向にあり、環境配慮や電子レンジ調理ニーズに応じてフィルム開発の多様化が進んでいます。
調達・購買の現場が知っておきたい最新動向
近年ではサプライヤー各社から新しい積層フィルムが次々と発売されており、「いかにバリア性、透明性、コスト、リサイクル性を両立するか」が競争軸となっています。
サステナブル素材(バイオマスフィルムやモノマテリアルパウチ)に注目が集まりつつあるのも見逃せません。
購買担当者としては、スペック比較だけでなく、サンプルテストや小ロット発注による適合確認、製造ラインとのマッチング評価など、多角的な情報収集と意思決定がますます重要になっています。
現場目線で見た製造工程のテクニカルポイント
生産管理の観点:ラインの安定稼働とロス削減
加圧加熱殺菌では、食品を充填・シールしたパウチを製品バスケットに並べ、殺菌釜で一括処理を行うことが一般的です。
このとき、「パウチ同士が重なって加熱ムラが出ないように配置を工夫する」「釜ごとに温度ムラが発生しないよう、定期的に熱分布の実測を行う」といった現場ならではの知見が重要です。
また、殺菌工程後には急速冷却を行い、香味劣化やパウチの熱収縮による形状不良を防ぐなど、ひとつのミスがそのまま廃棄ロスに繋がるため、作業ごとのマニュアル徹底や定型作業の自動化が推奨されています。
品質管理の観点:管理指標と目視検査だけに頼らない仕組み
品質管理の現場では、加熱殺菌温度・時間の記録はもちろん、「無菌確認試験」や「バリア性フィルムのピンホール検査」「液漏れ・膨張品の抜き取り検査」など多岐にわたるチェック項目が課されています。
昨今は検査データをAI解析するシステムや、画像処理によるシール不良自動検出など、省人化と再現性向上の取り組みも拡大しています。
「昭和的なベテラン技術者の目」だけに依存しない品質管理体制への進化は、今後の業界標準となっていくでしょう。
自動化・DXの推進:アナログ脱却の勘所
工場の現場ではいまだに手作業や紙帳票が根強く残ることも多いですが、IoTセンサで加熱釜の温度・圧力・流量などをリアルタイム監視し、問題発生時に即座に原因追及できる体制を築くことが課題解決の近道です。
製造条件やトレーサビリティの電子化は、「ヒヤリハット」や「クレーム再発防止」にも寄与します。
調達・購買部門の方も、こうした現場DX推進と連動した部材サプライヤーの選定(デジタル納期管理、AI品質保証など)が競争力強化に直結する時代です。
バイヤー・サプライヤーの立場で知っておくべき視点
バイヤーに求められる新しい選定基準
レトルトパウチや副資材を調達する際、従来は「価格」「納期」「性能」の比較で済んでいました。
しかし今後は「環境配慮(リサイクル性・再生樹脂使用率)」「トラブル発生時の対応力」「共同開発力」など、サプライヤーとの関係性やSDGsを意識した新指標も重要です。
また、災害時やパンデミックなどサプライチェーンリスクが顕在化した現在、複数ソースの確保や在庫ローテーション、短納期発注対応もきわめて重視される傾向にあります。
サプライヤーの立場で知っておきたいバイヤーのホンネ
調達先として評価されるためには、製品スペックの高さだけでなく、「継続したイノベーション提案」「カスタマイズ対応力」「情報提供・技術サポート力」が決定打となります。
バイヤー部門が現場と密に連携している場合、「現場の悩み(充填機との適合、熱封不良、廃棄率削減)」に寄り添った提案ができるかどうかが信頼関係構築のポイントです。
また、品質トラブルやリードタイム遅延時の“情報オープン”な姿勢が、実は一番評価される点であることも現場経験上痛感しています。
まとめ:今後のレトルト食品製造の地平線
レトルト食品の保存性の向上は、加圧加熱殺菌と積層フィルム設計の両輪で成り立っています。
そして、それを現実の工場現場で実現するためには、生産管理・品質管理・調達購買の綿密な連携と、アナログ思考からのアップデートが不可欠です。
今や、ただ「長持ちする」だけでは差別化は難しい時代です。
「風味や食感をできるだけ損なわない」「環境にも配慮できる包装」「トレーサビリティ完全保証」「いつでも安定供給できる体制」のすべてを追求することが、次世代のレトルト市場の勝者となる条件です。
製造現場で日々奮闘している皆さま、そして新たにこの分野へチャレンジする皆さまが、正しい知識と実践的なノウハウを身につけ、力強く昭和型アナログ思考から脱皮し、新時代のものづくりを牽引していくことを心より期待しています。
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