投稿日:2025年10月19日

社長の気分で戦略が変わり現場が混乱する課題

社長の気分で変わる戦略、現場の混乱──製造業の真の課題とは

昭和型マネジメントから続く「トップダウン」文化の現実

日本の製造業に根強く残る昭和型マネジメント。
その象徴ともいえるのが、社長や経営陣の一存で下される戦略の変更です。

本来、戦略は現場の声と市場データをもとに、慎重に練り上げるべきものです。
しかし、中小企業はもちろん、大手メーカーであっても、いまだに「社長の鶴の一声」で現場の方針が右往左往するケースが後を絶ちません。

私は20年以上、製造業の現場で管理職から工場長まで経験してきました。
そのなかで一番苦労したのが、まさしく「突然の戦略転換」でした。

例えば、前日まで「品質重視でコストよりも納期を優先」と言われていたのに、翌朝の会議では「やはりコスト削減最優先に切り替えろ」と命じられる。
指示が現場へ伝わるころには意思疎通の齟齬も生まれ、結果、混乱だけが残るのです。

現場に生じる混乱、その実態

社長がその時々の気分や外部プレッシャー(取引先の声、同業他社の動き、金融機関からの指摘など)に影響されて戦略を変える。
これが日常化してしまうと、どうなるか。
多くの現場には、以下のような悪影響が蔓延します。

・計画性の喪失:工程の優先順位や発注計画が頻繁に変更され、余計な調整コストがかかる
・品質の低下:急な方針転換で工程が乱れ、不良や異常が発生しやすくなる
・士気の低下:現場が「また変わるのか」「どうせ長続きしない」と諦めムードに
・コミュニケーション不全:部門ごとに違う指示が降り、現場同士の協力体制が崩れる

特に中堅~ベテラン層は、「昔からのやり方」を重視しがち。
そこへ唐突な戦略変更が降ってくると、指示が浸透しきらず、現場の空気が悪くなってしまいます。

アナログな業界慣習が混乱を助長する

製造業はデジタル化・自動化が叫ばれていますが、未だに「人の勘」や「経験」で動く業界です。
考え方や管理手法も「見て覚えろ」「先輩についてこい」式。
こうしたアナログな文化が、トップダウンの方針変更をより混乱させてしまいます。

たとえば、仕入先への発注をエクセルで管理していた場合、戦略変更があると伝票をいちから作り直し。
おまけに「なぜ変わったのか?」の説明は十分になされません。
これでは現場もサプライヤーも納得できませんし、再発注や手戻りが増え、全体の生産効率も下がってしまいます。

現場の管理職としては、「なぜこの変更が生じたのか」「今の現場のどこを優先して動かせば良いか」まで論理的に説明できて初めて、納得感を得られます。
しかし、アナログ文化下ではこの説明機能が弱く、混乱が常態化してしまうのです。

バイヤー・サプライヤー双方の「想い」のギャップ

サプライヤーの立場からも、「社長判断でコロコロ方針が変わる」ことに頭を悩ませている方は多いでしょう。

昨日までA品を100台発注していたのに、今日は「やっぱりB品50台に切り替えてくれ」と言われる。
こうした頻繁な仕様変更・数量変更は、サプライヤー側の生産計画も大幅に狂わせます。

「自社の利益確保や納期遵守のために、なぜもっと長期目線で計画できないのか?」
「なぜ最後の最後で注文を覆すのか?」
サプライヤー担当者から、こんな疑問や不満も数多く聞いてきました。

一方、バイヤー側にも言い分はあります。
「現場方針がコロコロ変わるから、サプライヤーにしわ寄せがいく」
自分たちも「決して好きで仕様変更しているわけではない」というのが本音です。

このように、どちらの立場も「やむをえず方針変更に追われている」のが実態です。
そこには「本当に必要な情報が共有されていない」弊害があります。

どう変える?現場主導のボトムアップ型戦略構築

では、こうした「気分で変わるトップダウン戦略」から脱却するためには、何が必要でしょうか。

まず重要なのは、現場主導=ボトムアップ型の意思決定を積極的に取り入れることです。
製造現場こそ、最前線の情報とノウハウが蓄積されています。
「今、何がうまくいっていて、何が問題なのか」
「どこを変えれば、全体最適になるのか」
こうした情報は、現場をよく知る生産管理・購買担当・品質管理担当こそが熟知しています。

そのため、「こうしたほうがいい!」という意見を、経営層に直接インプットできる仕組みを増やすこと。
現場⇔経営の双方向コミュニケーションを強化し、小さな変更点でもドキュメント化して全員が共有する。
これだけでも、混乱は大きく減らせます。

デジタル化と「見える化」で本当の戦略を作る

製造現場のデジタル化は、本来的には「計画・変更履歴」の見える化のために活用すべきです。
ERP(統合業務システム)やMES(製造実行システム)を活用すれば、戦略や方針の履歴管理がしやすくなります。

「なぜこのタイミングで戦略が変わったのか」
「どのくらい現場やサプライヤーに影響があるのか」
「将来の変更リスクはどこに潜んでいるか」

こうした情報が、現場・経営・サプライヤーで見える化されれば、みんなが納得のいく形で計画が回ります。

また、デジタルに慣れていない昭和世代の現場スタッフにも、「なぜ変わるのか」を言葉・数字で説明することが不可欠です。
そこに、昔からの「根性論」や「その場しのぎの調整」を持ち込んでしまうと、ますます混乱が深まります。
デジタル化は単なる業務効率化ツールではなく、「全員の意思統一の土台作り」として利用すべきです。

現場視点でのリーダーシップ──「状況を整理する」ことの大切さ

現場を預かるマネージャー・リーダーの皆さんに伝えたいのは、「まず状況を落ち着いて整理し、要点を明確にする」ことの重要性です。

経営層の方針変更に右往左往してしまうのは、「何が変わったのか」「なぜ変えられるのか」「どこまで現場が動かせるのか」の整理が十分でないからです。
この点においては、現場出身の管理職こそ強みを発揮できます。

「今回の変更は、こことここが影響する。それぞれ担当に伝え、必要ならサプライヤーとも再調整を行う」
こうした冷静な対応と段取り力が、現場の混乱を最小限に抑え、自分たちの仕事の質を高め、信頼を得る最善策です。

まとめ:現場・経営・サプライヤーの共創に向けて

社長や経営陣の気分・外部要因による戦略転換は、製造業の永遠の課題とも言えます。
しかし、現場が自律的に状況を把握し、経営側とも連携して戦略をブラッシュアップする。
そしてデジタル技術も使って「見える化」と「納得」を進めていく。
この積み重ねが、現場の混乱を乗り越え、製造業全体の底力につながると私は確信しています。

現場・バイヤー・サプライヤーが三位一体となって、急な戦略変更にも柔軟・的確に対応できる組織体へ。
そんな進化を、共に目指していきましょう。

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