投稿日:2025年10月19日

靴底の剥がれを防ぐ接着剤粘度と加圧温度の管理プロセス

はじめに

靴製造業において、靴底の剥がれは品質クレームや市場での信頼失墜につながる重要な課題です。
特にグローバル競争が激化する中、高品質な靴を安定して供給する力が製造業の生命線となっています。
私自身、20年以上にわたり製造現場で様々なトラブルを経験してきましたが、その中でも「接着工程の管理」は最も苦労した領域のひとつです。
この記事では、靴底の剥がれトラブルを未然に防ぐために不可欠な「接着剤の粘度」と「加圧温度」の管理プロセスについて、現場目線で実践的に解説します。
また、昭和時代から続く“勘と経験”頼りのアナログ現場で、令和の今も改善余地が大いにある工程管理についても深掘りします。

靴底剥がれの主な原因

接着材の物性劣化

靴底の剥がれは、その多くが「接着剤の管理不備」に起因します。
接着材は適切な温度管理と粘度管理が必要ですが、現場のヒヤリハット統計で見ると、粘度調整の失敗や、保管・混合ミスによる物性変化が剥がれに直結していました。

加圧と加熱条件の不足

省エネ意識や設備老朽化の影響で、加圧または加熱時間・温度が基準未満になることは少なくありません。
結果として、適度な流動性や固化反応が得られず、接着強度の低下や水分侵入による加水分解が促されます。

素材表面の不備

前処理(脱脂や粗面化)が不足すると、靴底素材と接着剤の間に異物や油分が残存し、密着性が阻害されます。
これは最新の自動化ラインでも人的監視を怠ると見逃しやすい点です。

接着剤粘度の管理プロセス

適正粘度とは何か

接着剤粘度=流動性。
粘度が高すぎれば、材料表面に均一に塗布できません。
逆に粘度が低すぎると、材料表面で垂れやすく厚みにムラが生じます。

適正粘度は材料の種類(例えばPU、EVA、ゴムなど)や接着工程の方式(ロールコーター、スプレー、ハンドローラー等)で大きく異なります。
メーカーが推奨する粘度も大切ですが、現場では製造ライン・季節変動・作業者の癖などによる「現場決め」の基準を設定し、数値で把握・管理することが重要です。

粘度計による定量管理

昭和の頃は目視・感触に頼る部分が多く、不良品流出リスクが高かったのですが、粘度計(ブルックフィールド型など)の導入が今では必須です。
サンプリング検査ではなく、ラインごとの工程内管理に落とし込むことで、「あのバッチの時だけ接着が悪かった」という属人的トラブルを撲滅できます。

粘度管理のPDCA例:
1. ロットごとに粘度を自動計測
2. 基準粘度範囲を越えた場合は即ライン停止および再調整
3. 粘度異常時は材料ロットや温度トレンドをトレーサビリティ管理
4. 再発防止策を標準作業手順書にフィードバック

溶剤濃度や撹拌管理の重要性

一度開封した接着剤は時間経過・温度変化で溶剤が揮発しやすく、粘度変動が著しくなります。
またライン切り替えや清掃時の撹拌不足でも粘度ムラが発生します。
“最終ユーザーに最高品質を保証する”ためには、単に測定するだけでなく、材料の受入・保管・仕込み・ライン投入まで一貫して見直す必要があります。

加圧・加熱(温度)管理のプロセス

加圧の意義とよくある落とし穴

加圧の狙いは主に3つあります。
1. 材料全面に均一に接着剤を密着させること
2. エアトラップ(気泡)を排除すること
3. 化学反応を促し、強靭な接合層を形成すること

工場自動化が進んだ今でさえ、「加圧力・時間のムラ」「加圧中に靴がズレた」という物理的要因で不具合は起こりえます。
故障中のプレス機ラインが、そのまま“臨時処置”で稼働し続けてしまう現場も珍しくありません。

加熱温度の管理ポイント

近年の省エネ要求で接着機械の加熱温度をギリギリ運用していませんか?
接着剤の多くは、所定の温度範囲(例:60~80℃)で「最適反応速度」と「硬化品質」が得られます。
しかし、温度不足では反応不十分となり、逆に高すぎると熱劣化や発泡・変色が生じます。
工場長時代、「夏は暑いから機械温度下げていいですか?」と聞かれたのを思い出しますが、室温対策と機械設定は別軸で管理すべきです。

温度センサーがアナログダイヤルの現場なら、校正頻度とヒューマンエラーリスクにも十分注意が必要です。
できればデジタル表示付き・ロギング機能付の新設備に更新したいところですが、投資優先度の見極めもバイヤー・経営層の腕の見せ所です。

現場で根付きやすい運用ルールとは

“勘と経験”から“見える化”管理へシフト

アナログ現場でありがちなのは、「あのベテランのやり方こそ正解」という“職人技神話”です。
ですが、経験則だけに寄せると、急な退職や休暇でノウハウ断絶が発生しかねません。
現場目線の“見える化”として、粘度・温度・加圧時間の「安定的な数値管理」と「異常時の対応フロー」を必ず併記することが重要です。

例えば、
・粘度3000±200mPa・sを維持
・加圧5分/0.5MPa保証
・加熱温度70±5℃
このような数値管理と、現場パートさんでも分かる簡素な帳票をセットにすることで、昭和型工程から令和型標準化につなげられます。

工程異常の早期発見手法

IoT・DX化が進む業界なら異常検知(アラート)システムの導入効果は絶大です。
一方、手作業が多い工場でも「異常時の伝達ライン」「責任者コール」など、2段階チェックを徹底するだけでトラブル流出を格段に減らせます。
作業日報やライン停止記録は、地味でも後々トレーサビリティの命綱になります。

サプライヤー・バイヤーに求められる視点

調達購買担当者として押さえるべきポイント

品質安定には「仕様書の厳格化」「納品ロットごとの試験」「工程監査」が不可欠です。
特に海外調達が増えている今、供給業者の製造管理能力や現場ルールの順守度合いを“現場で”見抜く力が求められます。
接着剤メーカーとの技術交流や、自社の顧客からのフィードバックを基にした改善要望を的確に伝えることで、品質・コスト競争力の両立が可能になります。

サプライヤー側からバイヤーの目線を知る

「ただ安く」「ただ早く」という要求に応じるだけでは、長い目で見て互いに損失です。
“なぜその粘度・加圧温度が要求されているのか”をサプライヤー自身が現場で納得し、工程改善を進めることが、継続的な取引・高付加価値提案につながります。
失敗やトラブル報告も“隠さず開示する”姿勢こそが、信頼あるパートナーシップの礎となるのです。

まとめ〜未来志向の工程改善へ

靴底剥がれ防止のための接着剤粘度・加圧温度管理は、昭和から続くアナログ現場でも劇的な品質向上効果を発揮します。
現場で調整して終わりではなく、数字とエビデンスベースの標準化へ進むことで、人材流動化が進む今も安定品質を追求できます。

サプライヤー、バイヤー、現場スタッフ…すべての立場が「なぜ品質不具合は起こるのか?」「なぜ規定管理が必要か?」を腹落ちさせて、現実的な運用改善を進めていく視点が不可欠です。
一歩先のDX・自動化も大切ですが、まずは“アナログでも必ず守るプロセス管理”から社員一丸となって根付かせていきましょう。

靴底接着工程の地道な改善は、結果として企業のブランド価値向上と、ものづくり日本の未来に繋がっています。

You cannot copy content of this page