投稿日:2025年10月19日

めっき剥がれを防ぐための素地粗化・電流立ち上げ制御技術

はじめに:めっきの品質は下地作りと初動制御で決まる

めっきは、工業製品の美観や耐食性、機能性を左右する重要な技術です。

しかし、せっかく施しためっきが短期間で剥がれてしまうことが、現場では珍しくありません。

経年劣化や外部環境による影響も否めませんが、多くのめっき剥がれは「素地粗化(表面処理)」と「電流立ち上げ制御」に起因します。

本記事では、めっき剥がれの主要因を現場目線で分析し、昭和から令和へと変わる製造現場の課題に寄り添いながら、最適な対策ノウハウを解説します。

バイヤー、サプライヤー、現場担当者が明日から取り組める指南書となるよう、現場のリアルと未来志向のテクノロジーを融合させてお届けします。

なぜ「めっき剥がれ」は繰り返されるのか?

現場に根強く残る「作業手順の惰性」

めっき工程において「昔ながらのやり方」「標準作業書通りで十分」といった固定観念は根強いです。

めっき装置の自動化・IoT化が進むものの、未だ手作業や職人技頼みの現場も多く、一部工程がブラックボックス化しているケースもあります。

管理項目が多すぎて注力が分散

生産管理や品質管理項目は年々増加し、現場担当は不良低減や納期順守で手一杯です。

その中で「素地粗化」「電流制御」の重要性が過小評価されやすく、形式的な点検やパラメータ管理だけで済ませてしまう例が少なくありません。

バイヤー・サプライヤー間の課題共有が希薄

受発注の関係性や成果主義の影響で、不具合情報や工程ノウハウが十分共有されません。

「仕様書通りでOK」「サプライヤー任せ」となり、めっき剥がれの本質的解決にブレーキがかかります。

素地粗化:密着力向上のための最適プロセス設計

なぜ素地の粗化が必要なのか

めっきの密着力を最大化するには、母材(金属や樹脂)の表面に目に見えない「アンカー効果」を作ることが不可欠です。

平滑な素地では、めっき液が十分に入り込まず、凝集力も弱いため、わずかな外力や経年で剥がれやすくなります。

粗化工程の種類(実例とポイント)

下地処理(脱脂・酸洗い)
サンドブラスト・ショットブラスト
化学エッチング(酸性 or アルカリ性)
プラズマ処理
各種粗化は材料や目的に応じて最適条件が異なります。
例えば、自動車部品の亜鉛めっきでは、酸処理後に適度な研磨を加えることで、表面活性化と同時に微細な凹凸を作ることが標準的です。

粗化度合い「数値化」の重要性

従来は「見た目」や「職人の勘」で調整されてきた粗化ですが、近年は三次元測定や表面粗さ計(Ra, Rzなど)による数値管理が重視されています。

数値管理はバイヤー・サプライヤー間のトラブル低減、トレーサビリティ確保の点でも必須です。

電流立ち上げ制御:初動が密着力を左右する理由

めっき初期の「電流ショック」に要注意

めっき初期の電流設定は、表面の核生成や結晶成長に直結します。

最初から高電流をかけると、素地表面にムラが発生し密着不良の原因となります。

特に複雑形状や薄肉部品では「電流ショック」が剥がれの主因となるケースが多数報告されています。

段階的立ち上げ(グラデーション制御)の実例

安定した密着性を得るには、電流値を段階的に上昇させる「ステップアップ方式」や「パルス電流制御」が有効です。

例:
1分間は初期の30%電流で核生成
その後5分かけて100%に漸増
パルス化で局所過電流を回避
このような電流管理はIoT対応の制御装置では自動管理可能ですが、アナログ現場ではタイマーと目視で管理されている実情もあります。

電流値と密着不良の相関評価

工場間で比較できるよう、実験的に電流値と密着試験(引張り・せん断試験)の関連データを体系的に蓄積することが大切です。

社内の製造技術部門やサプライヤーとの共同検証も推奨します。

「アナログ」現場で明日からできる低コスト改善策

作業標準書の見直し

現場作業者向け標準書には「脱脂20分」「○○液浸漬5分」等の時間しか書かれていないことがあります。

粗化度合いや電流立ち上げプロファイルなど、重要パラメータを図や数値で明確化しましょう。

現場の「勘」と「データ」の融合

職人の経験に頼り切るのではなく、簡易な粗さ測定器やタイムチャートを導入するだけでも再現性・密着力は大幅に向上します。

現場のベテランと若手が共同で評価し合う場も有効です。

バイヤー主導での現場視察・情報共有

バイヤー(調達担当)がサプライヤー現場に足を運び、粗化・電流制御を実際に体験することで課題・リスクが見えてきます。

対話型の品質監査や生産プロセスのビジュアル化は信頼構築に直結します。

技術伝承とAI・IoTの活用で「未然防止型」へ

従来型の職人ノウハウの単なる継承だけでなく、AIや画像解析を活用した粗化度合いの自動判定、めっき槽の電流波形自動監視など、時代に即した「未然防止」の仕組み作りが進んでいます。

高齢化や人材不足の現場こそ、デジタルデータの蓄積と活用が不可欠です。

バイヤーやマネジメント層も「デジタル現場主義」を推進する姿勢が求められます。

まとめ:協働と現場ドリブンで“根本対策”を

めっき剥がれ対策のキーポイントは、「正しい素地粗化」「適切な電流立ち上げ」を徹底し、現場・バイヤー・サプライヤー三位一体で見える化・データ化を進めることです。

昭和時代の「勘と経験」から令和の「協働とデータ主義」へ――。

本記事が、ものづくりに携わる全ての方の現場改革・品質向上に役立つことを心から願っています。

「めっき剥がれ」に悩む全ての工場・バイヤーの皆さまへ、明日から使える現場知識と新たな視点をお届けしました。

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