投稿日:2025年10月20日

糸表面のブツ不良を防ぐ濾過機構と配管デッドスペース除去設計

はじめに:昭和的な“現場力”からの脱却と現代の糸表面品質管理

日本の製造業、とりわけ繊維や樹脂押出などの工場において、「糸の表面にブツが出る」というクレームは今も昔も現場を悩ませる不良の代表例です。

ブツ不良の発生は顧客満足度を大きく左右するのみならず、サプライヤーの信頼低下、再発防止にかかるコスト増、そして「なぜ改善できないのか?」という根本的な経営課題を現場へ突きつけます。

昭和の時代から続く打ち手では、都度清掃やろ紙の交換といった付け焼き刃的な対応が主体でした。
しかし今や、グローバルで高品質なものづくりを標榜し、コスト競争力と納期厳守を両立していくには、それだけでは圧倒的に不十分です。

本記事では、糸表面のブツ不良発生メカニズムを整理し、濾過機構の設計思想と配管のデッドスペース除去という視点から、「現場の守り」と「現代の攻め」両輪を強化するための実践的ノウハウを分かりやすくまとめます。

糸表面ブツ不良の発生原因とは

まず最初に押さえておきたいのが、ブツ不良の本質です。
糸の表面に現れる「異物(ブツ)」は決して偶然の産物ではありません。
主な発生原因には次のようなものがあります。

微細なゴミ・異物の混入

原材料の荷受け工程や溶融・計量過程、配管からの剥離汚れなど目に見えない粒子の混入は避けがたいリスクです。
これらがそのまま糸へ入り込むことで、突起状や斑点状となって発現します。

オイルや薬品のデポジット

糸の滑りや帯電防止用途で使うオイルが長期間、配管やタンクの内部で劣化・固化し、剥離して流出することでブツとなるパターンもあります。

配管・機器内部の死角「デッドスペース」による滞留物

ろ過器、バルブ、継手などに存在するデッドスペース(液が滞留し流れない箇所)が汚れの堆積場になります。
定期的に清掃しないと、稼働中に一気に剥がれ落ちて異物不良の温床となります。

外的要因:工場の老朽化・清掃管理の限界

表面的な清掃や保全頻度の低下、また一定期間ごとのオーバーフロー対応だけではブツの発生リスクは下がりません。
予防保全の視点が非常に重要です。

ブツ不良と真剣に向き合うために必要な現場再設計

ブツ不良ゼロを実現・維持するためには、現場の「日常」として根付く本質的な改善施策がカギとなります。

1. 濾過機構の選定・管理を“線で捉える”発想

かつての現場では、濾過といえば「ろ過器一個でここを重点的に守る」という点的思考が主流でした。
しかし、液体・原料は流体の性質上、“面”や“線”で流れるものです。
そうであれば、システム全体としてフィルター保護エリアを張り巡らせる――この発想が今や常識となってきています。

たとえば「最終製品直前」「大容量原料供給」「循環タンク入口」……各ラインの分岐ごと、重要なポイントごとに適したスペックの濾過機を設置。
また、目詰まりやフィルター破損を事前に検知するプレッシャーゲージや透過度モニターを連動させるのも有効です。

2. 配管デッドスペース“ゼロ”を目指す設計思想

昭和世代の工場設計ではメンテナンス性重視でT字継手やU字配管、小型バルブの多用が一般的でした。
この設計だと必ずと言っていいほど“流れが停滞する区画”ができます。
そこに汚れや異物が溜まり、見かけ上は流れていそうでも内部には蓄積しているのがポイントです。

今日重要視されているのは、最短距離&最短経路設計です。
配管はできるだけストレートにし、90度エルボや袋小路を極力減らし全て流れが貫通する構造にします。
バルブやフィッティングは食品・薬品工場のような“サニタリー型”(液溜まりフリー形状)を採用すると高い効果が見込めます。

また、定期的なフラッシング(高圧洗浄)や、クリーンアウト用の排出口をすべての末端に設けることで、ライン清掃時の取り残しリスクも大幅に減らせます。

3. IoT・AI時代のセンサー監視と予兆保全

現代の工場は、単に現場作業者の感覚値や経験に頼るだけでは持続的な品質維持は困難です。
圧力変化・流量低下・液体中の粒子カウントなどをIoTセンサーでモニタリングし、異常値をリアルタイムで現場・管理者が把握できる仕組みを導入する事例が急増しています。

また、AIによる過去データ分析を活用し、フィルター寿命や異物の発生傾向から「いつ・どこのメンテが必要か」を予防的にアラートするシステムも進化しています。

事例紹介:濾過・配管改善による不良率低減の実践効果

実際に、筆者自身が現場で取り組んだ改善事例を一部紹介します。

濾過機フィルター多段化で不良率95%減少

従来はライン途中に1か所だけフィルターを設けていましたが、流量が多い上流、成形直前、さらに各ユニット間でメッシュサイズの異なるフィルターを多段配置しました。
その結果、最終製品に到達する“本物のブツ”は激減し、不良クレーム件数は月間20件→1件未満に。

配管デッドスペース撲滅設計によるクリーン化

設計刷新の際、従来のT字継手を全廃し、全てサニタリー配管・Y字継手に切り替えました。
さらに洗浄用の出口バルブを網羅的に設け、清掃・乾燥効率を倍増。
結果、流路残渣検査で判定基準の10分の1以下まで粒子数を減少させることに成功しました。

バイヤー・サプライヤーの立場で知っておくべきこと

調達部門やバイヤーの立場で現場のこうした課題意識を理解しているかどうかは、実は大きな差別化要因となります。
「高い品質レベル要求」とは裏返すと「どこまで現場に寄り添っているか」「知見をもってフィードバックしているか」の表れでもあります。

現場の本音「濾過コストを下げたが異物混入リスクが上がるのは困る」「配管洗浄の省力化をしたい」などを把握し、的確なサプライヤー提案(例:洗浄性の高いバルブ推奨・最適フィルターチョイスなど)ができれば、信頼関係は格段に向上します。

逆に、サプライヤーの立場でも、現場・バイヤーがなにを重視するか(異物再発予防か/ランニングコストか)を理解し、技術提案やメンテナンスサポート体制を合わせることが重要です。

まとめ:現場発で“強い現場”を育てる、本質改善の一歩

糸表面のブツ不良は改善を後回しにしてしまうと、結果的に多大な品質ロスとコスト増を招きます。
昭和から続く“現場作業頼み”の属人的な品質管理を卒業し、設計・設備・運用ルールすべてを巻き込んだ本質的な流体管理の改善こそが、現代の製造業の持続的な競争力強化になり得ます。

濾過機構の多段最適化、配管のデッドスペース最小化、IoTセンサーによる予兆保全――これらを“線と面”でつなぐ発想が、次代のものづくり現場を切り拓く大きな地平線です。

工場運営者、バイヤー、サプライヤーそれぞれの視点で「どう現場品質を担保するか」をぜひもう一度深掘りし、強い現場をつくる一歩を踏み出しましょう。

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