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飲食店が商品化を進める際に直面する“味の限界点”とその受け入れ方

目次
はじめに:飲食店の商品化と“味の限界点”
飲食店の看板メニューが、市販商品として新しい市場に踏み出すケースは増えています。
冷凍食品やレトルト、半調理パックといった形で店舗の味を家庭へ持ち帰る体験は、多くの消費者に支持されています。
しかしこの「商品化」には必ず乗り越えなくてはならない壁、すなわち“味の限界点”が存在します。
店舗で使える生鮮食材の鮮度や繊細な調理テクニック、盛り付け時の熱量や香りのニュアンス。
それらの魅力を、パッケージ商品でもそのまま再現するのは至難の業です。
なぜ味の限界が生まれるのか、どこに壁があるのか。
そして、その限界とどう向き合うことで、ファンに愛される商品を生み出すことができるのか。
今回は、製造業で生産・調達・品質管理に携わってきた視点から、現場目線でそのポイントを掘り下げていきます。
飲食店の味はなぜ商品化で再現困難なのか
1. 生産スケールと生鮮素材の制約
店舗では調理直前に仕入れた新鮮な食材を使うことができます。
一方で、商品化となると流通や在庫上の観点から、賞味期限を延ばすことが第一条件となります。
このため、保存料や加熱処理、冷凍技術への頼り方が大きくなり、香りや風味、食感の一部がどうしても損なわれてしまいます。
たとえば店頭のラーメンでは、スープの油分が絶妙に麺へ絡みつき、立ち上る湯気に旨味が凝縮されています。
しかし、商品としてパック詰めする際には、油分が分離したり香味成分が揮発したりして「なんだか違う」と残念な印象になりかねません。
2. 調理の再現性の壁
現場の料理人は、その日の食材や環境によって細やかな調整を行っています。
火力の微妙な調整、味見しながらの塩分調整、盛り付け時の手際など、細かな“匠の技”が味を支えています。
工場では全ての工程を標準化し、誰が作っても同じ品質にすることが優先されます。
機械で撹拌するスープ、一定時間加熱されるカット野菜、機械で絞り出すソース。
こうした効率化と品質安定の裏側には、どうしても「個店の味のままではない」側面が顔を出すのです。
3. 原材料コストの現実
店舗では10食しか出なくても、高価な食材や特別な調味料を使うことができるかもしれません。
ですが一度に1万食、2万食を製造する商品では、安定的な原材料調達が不可欠となります。
一部のスパイスやブランド肉、地元野菜は量が確保できず、別の原材料で代替せざるを得なくなるケースも少なくありません。
味の限界とどう向き合うか:現場での実践的アプローチ
1. 商品の味と店舗の味は“同じものではない”と割り切る
店舗の味そのままでなければ商品化してはいけない、そんな強迫観念に縛られているケースが多々見受けられます。
しかし実際には、商品としての「新しい美味しさ」として、受け止められることも多いのです。
たとえばカップラーメンやレトルトカレーの名店コラボ商品が「お店とまったく同じじゃない」と言われても、支持され続けるのはなぜか。
食べる場面や調理環境が大きく異なり、手軽に体験できることに価値があるからです。
大切なのは店舗で感じた感動や雰囲気を、商品なりの形で“再解釈”すること。
お客様と一緒に新しいファン体験を紡ぎ出す気持ちが重要です。
2. 「旨味のピーク」を見極める
工場生産の現場では、加熱や冷却、包装など、様々な工程が味質の劣化を引き起こします。
この変化は「時間軸で味がどのように変化するか」を理解することから始まります。
たとえば冷凍食品では、解凍時に旨味成分や水分が抜けやすいポイントを調査し、加熱前提で調整します。
冷蔵商品であれば、流通過程を通じて一番美味しい「ピーク」をラストに持ってくる逆算設計など、現場経験に基づいた工夫が求められます。
3. “アナログの良さ”と工場の技術革新の融合
昭和時代から続く職人の勘やアナログ的な応用力は、今も見直されています。
たとえば「炊きたてご飯の香りをどうパックご飯に残すか」など、経験則と最新テクノロジーの融合でしか解決できない課題が山積しています。
最近では急速冷凍技術や低温加熱法、減圧加熱装置など、革新的な設備も増えてきました。
「温度変化ごとの味比較」「微細成分の香気分析」など、アナログな五感とデジタルな分析の橋渡しが現場力を高めています。
サプライヤー視点:バイヤーが考える“限界”との付き合い方
1. クレームを恐れず「進化」させる姿勢
サプライヤー(製造工場)はしばしば「なるべく現状維持」「味は忠実に」というプレッシャーを受けがちです。
ですが、バイヤーの本音は「味の限界を分かったうえで、どう既存商品を超えるか」に向いています。
現場の経験者は“狭間”に悩みすぎず、可能な改善策や差別化ポイントを自信を持って提案していくことが、信頼関係構築に繋がります。
2. 原材料のトレードオフを説明できる力
「この値段でこの味は無理だ」と言ってしまうのは簡単です。
ですが、「この材料に変えると風味は落ちるが、もっとコクが出る」「この産地なら安定調達ができ、味のブレが減る」と、トレードオフの理由や工夫を丁寧に説明できることが、現場の信頼獲得には不可欠です。
バイヤーもまた「すべてが理想通りにはいかない」ことを知っています。
率直な情報交換、改善ポイントの共有が新たな商品開発を促進します。
バイヤー志望者・サプライヤー必見:味の限界を活かした商品開発のコツ
1. オリジナル要素の“分解”と“再構築”
単純に「店舗の味に近づける」ではなく、「商品だからできる美味しさ」を積極的に打ち出すアプローチが求められます。
たとえば店舗特有のスパイス配合は、家庭調理の手軽さを考慮して“後入れ調味料”として別添えにしたり、見た目だけでなく香りや食感を重視する新しい形態に挑戦してみることです。
2. “食体験”の再現方法を再定義する
店舗の味が家庭で100%再現不可能であっても、「店舗に来てくれた人が喜ぶ要素は何か」と考え方を変えてみましょう。
パッケージデザインや付属のトッピング、調理のひと手間を“儀式”として体験してもらう演出も響きます。
またインストラクション動画やQRコードを貼付して調理のコツを伝えたり、店舗限定の食材や特典情報を商品に同梱するなど「体験価値」重視の発想が大切です。
3. 持続可能なサプライチェーンづくり
商品化においては「いつでも店舗の品質を期待どおり提供し続けられるか」という課題がつきまといます。
原材料の調達先多様化や、地元生産者との連携、季節変動を見越した在庫戦略など、調達購買や生産管理の知見が活きてきます。
サプライヤーは自社の強みにフォーカスし、現場から「こうしたら持続的な美味しさを提供できる」という主体的な提案が評価されます。
まとめ:限界と共に“新しい美味しさ”の時代へ
飲食店の味の商品化には、避けては通れない“限界点”が存在します。
ですがその限界こそが「商品だからこそ生まれる新しい魅力」「現場連携による進化ポイント」になるのです。
理想を追い、現場で知恵を凝らし、バイヤーやサプライヤーが忖度や惰性にとらわれず、情報をオープンにしあうことで、“ファンが本当に喜ぶ”商品化プロジェクトが生まれます。
味の限界を前向きに受け入れ、それを超えるクリエイティブ発想と現場のノウハウ融合が、これからの製造業と飲食業の新しい可能性を開いていくと信じています。
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