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マスクの通気抵抗を一定にする繊維密度と積層厚の制御

目次
はじめに
医療現場や日常生活に欠かせない存在となったマスクですが、その品質を決定づける要素の一つが「通気抵抗」です。
通気抵抗とは、マスクを通過する空気が受ける抵抗の大きさを示し、これが高すぎると息苦しさの原因となり、逆に低すぎると異物・飛沫の遮断能力が低下します。
高機能マスクの開発競争が激化し、ユーザーのニーズも高度化しているなか、「繊維密度」と「積層厚」の精密制御は、マスク製造に携わる工場やバイヤーにとって避けては通れないテーマです。
本記事では、長年製造現場に従事してきた立場から、マスクの通気抵抗に及ぼす繊維密度・積層厚の影響や、制御手法、それに関わる業界動向について、実践的かつ現場目線で掘り下げていきます。
通気抵抗とは何か ― マスクの品質を左右する要素
マスクは、空気とともに混入する粉塵やウイルス、花粉などの侵入を防ぐ「バリア」として作用します。
そして、その“バリア性”に直結するのが繊維層の構造です。
通気抵抗(圧力損失)は、JIS規格(JIS T 9001、T 9004など)でも測定法が規定されており、一般的には単位面積あたりの圧力降下(Pa/cm2)で表されます。
適切な通気抵抗は、快適性(息苦しさの緩和)と高いろ過性能(安全性)のバランスが重要です。
しかし製造現場では、この数値を常に一定範囲に収めるのは容易ではありません。
その理由は、「繊維密度」「積層厚」などの製造条件がミクロレベルで通気抵抗へ影響を及ぼすからです。
繊維密度と通気抵抗の関係
繊維密度とは
繊維密度とは、マスクの不織布層における「単位体積あたりの繊維量」や「繊維がどれだけ詰まっているか」を示します。
一般的には目付(g/m2)や体積密度(g/cm3)で管理されます。
密度が上がると通気抵抗はどう変わるか
密度が高まれば、空気の通り道が狭まり、通気抵抗は当然上昇します。
ただ、密度を上げればろ過効率も比例して向上するため、どこでバランスを取るのかは設計思想や顧客ニーズによって変わります。
経験的には、繊維密度の2〜3%の揺らぎでも、通気抵抗値(特に微細なフィルタ層の場合)は大きなブレを生じます。
現場では、繊維供給量の僅かな変動や混綿(ブレンド)の均一性、原料繊維そのものの太さ(デニール値)も影響するため、熟練のオペレーターがわずかな機械の音や振動から密度異常を察知する、といった“昭和の匠技”が今なお求められることもあります。
密度制御の最新手法
近年はウェブフォーミング(不織布形成)工程の自動化や、リアルタイムで厚みや密度を測定するオンライン検査機が普及してきました。
AI画像解析による密度ムラ判定、原材料供給装置のフィードバック自動制御など、IoT技術が進展しています。
これにより、過去の経験と勘に頼らない「標準化された密度制御」が進みつつあります。
ただ、完全な自動化は難しく、季節変動(湿度や温度)・微細な原料の質の違いによる「ロットばらつき」への目利きが今なお重要です。
現場では、ベテランのオペレーターと自動化技術をどううまく融合するかが、密度一定化の成否を分けています。
積層厚(厚み)が設計通りでなければならない理由
マスクの多くは2〜4層の不織布でできています。
積層厚は、全体の「呼吸のしやすさ」、またバリア性能(何層目で異物を捕捉するか)の“許容範囲”を決めます。
現場目線で言えば、積層厚の変動要因の多くは、
・各層のウェブ形成速度・張力バランス
・不織布貼り合わせ時の圧縮率/膨張率
・熱圧着や超音波溶着工程の条件
に起因する場合が多いです。
わずか数十ミクロン単位の厚み変動が、通気抵抗を無視できないレベルで変化させます。
アナログ的管理からデジタルモニタリングへ
従来は、抜き取り品をノギスやマイクロメーターで測定しつつも、“職人”のフィーリングで積層圧を調整することが一般的でした。
昨今は、全自動の非接触厚み計を導入し、生産ラインスルーでモニタリング→異常時は自動停止、という流れが主流になってきました。
ただ、人の感覚による「正しい異常検知」のほうが早い場合や、非接触厚み計の“機械誤差”を見極める現場ノウハウも健在です。
通気抵抗を最適化する“設計の知恵”
モノづくりの現場経験から言えば、「単に密度と厚さだけを厳密に管理すれば良い」わけではありません。
実践でのポイントは――
・同じ目付、同じ厚みでも、繊維の太さや形状(断面)を変更して流路構造を変えることで通気性と捕集性のバランスを最適化できる
・熱接着不織布や静電フィルタ層を導入することで、厚みを抑えつつ高いろ過率・低通気抵抗を両立できる
つまり
「設計→素材選定→工程管理→完成品評価」すべての段階で、どこまでバラツキを許容するか
「どの項目の標準偏差を、どのくらいのコスト/オペレーションで抑え込むか」
という“全体最適”の視点が不可欠です。
バイヤーやサプライヤーとしては、単なるスペック比較やカタログ値だけでなく、現場ごとの「製造安定性」「標準化度」「ロット間バラツキ」まで深掘って商談判断することが競争優位につながります。
昭和的アナログ管理の課題と今後の方向性
昭和の時代から引き継がれる現場の良さは「異常時の発見力」「細やかなチューニング力」です。
一方、デジタルツールや自動化を導入しても、“どこを見ればよいか”“どこに注力すべきか”のノウハウは、現場内部で可視化されにくい課題も温存されています。
産業界全体の課題としては、
・IoT/生産データの活用・工程定数化
・属人化工程の脱却
・標準化資料の整備、トレーサビリティ確立
が求められています。
導入のコストと、人的ノウハウの継承・融合をどう両立するか――これが今後の成長のカギを握ります。
サプライヤー・バイヤーが抑えておくべき現場視点
これから製造業界のバイヤー・サプライヤーを目指す方、取引先の実力を見分けたい方は、
・目標通気抵抗をどこまで高い再現性(標準偏差)で実現できているか
・密度や積層厚の変動要因に対し、どこまでデータ分析等の見える化を進めているか
・特別対応時(異常発生時)の現場力(どんなノウハウ、人材、仕組みがあるか)
を重点的にヒアリング・チェックするべきです。
実力あるサプライヤーは「できない原因」「起きた変動の根本理由」を“数字と現場実例”で説明できます。
逆に、数値根拠のない“自信”だけに頼る場合は要注意です。
まとめ
マスクの通気抵抗を安定化させるには、繊維密度と積層厚という基本パラメータに対し、繊細かつ高度な管理が必要です。
その方法はますますデジタル化・自動化へと移行しつつも、人が培ってきた現場ノウハウの価値も失われてはいません。
今後も「昭和の現場力」と「令和のデジタル技術」を融合することで、より高品質・高性能な製品を安定供給できる体制の確立が不可欠なお題目です。
バイヤー、サプライヤー双方とも「現場の実力」を見極め、強い現場づくりに投資を惜しまないことが、次のマスク品質革新へつながるといえます。
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