投稿日:2025年10月21日

人気メニューを商品化する前に考えるべき保存性と品質維持の基本原則

はじめに:製造業の現場から見る「人気メニューの商品化」の落とし穴

食品業界における「人気メニューの商品化」は、外食チェーン、惣菜メーカー、小売部門など、ものづくりの現場で長きにわたり語られてきたテーマです。

ヒットした店舗メニューや地元の名物を、量産・流通・販促していく際の第一歩は、「保存性」と「品質維持」という2つの原則に集約されます。

私も工場長として数々のPB・NB製品化に携わる中で、多くの「成功と失敗」を目撃してきました。

今回は、単なる保存技術の話ではなく、現場目線・バイヤー目線・サプライヤー(供給側)目線、そのすべてに立脚し、どのように根本からモノ作りを見直すべきか、今なおアナログ的思考が残る業界の現実も含めて、深掘りします。

人気メニューの商品化とは?

なぜ「店舗で人気=市場でヒット」ではないのか

店舗で絶大な支持を得ているメニューであっても、それを工場生産し、店頭販売するとなれば全く別物と考えるべきです。

現場の厨房は、調理・提供までの時間も短く、注文を受けてから仕上げる「ライブ感」が最大の魅力になります。

一方、商品化された食品は、製造から物流・店頭保管・消費者の手元に届き、実際に食卓に並ぶまで「時間」という壁を越えなければなりません。

この「製造~消費」の間で、思わぬクレームや、品質の経年変化による評価低下が数多く起きています。

現場が直面する「商品化の壁」

初期段階で見落とされがちなのが、店舗では見過ごせる「保存性」と「品質維持」。

「美味しい」だけでなく、「安全」と「一定の風味・食感・外観」が、指定された流通経路・期間にわたり保てるのか。

この観点がおろそかになると、導入直後は売れても数カ月後に「クレームの山」となるのです。

保存性と品質維持の基本原則

1. 保存性の設計:どこまで「商品寿命」を求めるのか

製品の「保存性」は、賞味期限の長さだけでなく、「どうやって」その期間を実現するかが問われます。

たとえば、冷蔵で10日と常温で30日では必要となる加熱方法・包装形態・保存料・水分活性などが大きく異なります。

ここでまず決めるべきは、その商品が「どの売場で、どれくらいの回転速度で販売されるのか」という具体的な流れです。

加えて、メーカー側は「物流段階での事故」や「消費者の誤使用(加熱不足・放置)」などをどう防ぐかまでシミュレーションすべきです。

2. 品質維持:誰が食べても「同じ体験」を提供できるか

品質維持とは、味や食感だけではなく、色や香り、パッケージの状態までも含みます。

頻繁に起こるクレームの半数以上は「劣化」によるものです。

現場では以下のような落とし穴がよく目立ちます。
– 調理時との「水分バランス」の崩れによる食感の変化
– 冷凍・解凍工程でのドリップ(汁漏れ)や結露による味の弱体化
– 包装フィルムの膨張・収縮による外観異常

こうしたトラブルの多くは、「家庭で食べた時、どんな状態になるか」を考えずに工程設計を進めることによって発生します。

昭和型アナログ思考の根強さと、現代のトレンド

変化を嫌う業界風土─「今まで通り」で失敗するワケ

食品製造の現場では、「このやり方で何十年もうまくいってきた」式の昭和的発想が残っています。

これは「菌検査をクリアすれば良し」「とりあえず保存料を添加」といった、いわばその場しのぎの対策が横行する理由です。

しかし消費者の志向や流通チャネルは、ここ十年で劇的に変化しました。

たとえば
– チルド弁当の店頭常備
– オンライン販売による宅配
– SDGsやエコ包材への高い関心

といったニーズに、旧来の設計思想では追いつきません。

データを活用した「見える化」と現場のラテラルシンキング

現代の製造業では、センサーやIOTの普及による「工程の見える化」が進行しています。

「温度記録データ」や「バラツキのログ」を定量的に管理することで、ほんとうの意味で「家庭で安全に・美味しく」提供できるかを再確認できます。

また、他業界の知見(医薬品の包装技術や化粧品業界の保存設計)などをラテラルに取り込めば、「定番化」を果たした商品が、競合より頭ひとつ抜けることも可能です。

バイヤー/サプライヤー双方が知るべき「商品設計」の基礎

バイヤー視点:説得力ある提案とは

バイヤー(購買担当)に求められるのは、「商品コンセプト」と「リスク管理」のバランス感覚です。

試作品を食べて「おいしい!」と感じたら、その場で勢いづく現場も少なくありませんが、本当の力量はその後に発揮されます。

– この味が「家庭で再現可能」か?
– 流通・納品までの品質低下は想定内か?
– 季節変動(温度・湿度)に強い処方設計か?

こうした懸念点を事前にサプライヤー側に問うておくことが、後々のトラブルを防ぐコツです。

サプライヤー視点:「説明責任」と「アップセル発想」

サプライヤー(供給者)は、「この商品化にどんな技術的・工程的課題があるか」を最初に明確化しなければなりません。

– 一括大量生産で再現不可能な調理工程はないか
– 原材料の供給変動による品質影響はどうカバーするか
– 包装や流通形態をアップセル商材(例:冷凍→レトルト)に展開できるか

これらの「説明責任」を果たすことが、信頼されるサプライヤーの第一条件です。

「現場が主語」の商品化プロセス 最先端事例

事例1:冷凍食品のイノベーション

冷凍パスタの世界では、「急速凍結」技術と「個食パック化」によって、茹でたて食感を一年近く維持できる事例も出てきました。
この技術は、予冷・過熱・冷却スピードの最適化、および容器の密封度と着脱ノズルの最適設計との組み合わせの成果です。

事例2:地域惣菜のレトルト展開

北海道ご当地カレーの「レトルト化」では、加圧加熱による組織変化のシミュレーションを、調理用デジタルモニタを駆使し「味・食感の劣化」を徹底的に削減。
現場からのフィードバック(調理従事者の感覚含む)をデータ化し、「保存性」と「品質」の両立を実現しています。

まとめ:製造業に関わるすべての人へ

人気メニューの商品化には、「保存性」と「品質維持」という2つの基本原則が不可欠です。

しかし、これは単なる技術論に終わりません。

現場・バイヤー・サプライヤーが「なぜそれが必要か」を納得し、従来の発想(昭和的アナログ思考)から踏み出す勇気をもち、ラテラルシンキングで現場の知恵を結集することが、真のヒット商品を生み出す条件といえるでしょう。

製造現場のリアルな課題に正面から向き合い、業界に新たな地平線を切り拓いていく。

これこそ、私たちものづくり現場の使命です。

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