投稿日:2025年10月21日

歯磨き粉チューブの折り目が割れない多層フィルムと押出成形条件の制御

はじめに:歯磨き粉チューブの折り目問題とその重要性

歯磨き粉チューブは、日常生活のなかで極めて身近な存在です。

そのチューブに折れ目が入る、割れる、または漏れが生じるといったトラブルが発生すると、顧客満足度が大きく低下します。

この問題は最終パッケージの品質だけでなく、ブランドイメージにも直結するため、製造現場にとって常に解決すべき課題となっています。

近年、環境意識の高まりや製品差別化の要求から、従来の単層フィルムから多層フィルムへの移行が進み、押出成形の高度な制御技術が求められるようになりました。

この記事では、現場で長年培った知見をもとに、歯磨き粉チューブの折り目割れを防止する多層フィルム設計と、押出成形条件の最適化について深掘りし、現代製造業の流れや業界動向も織り交ぜながら解説します。

なぜチューブが割れるのか?現場視点からみる根本要因

主な破損メカニズム

歯磨き粉チューブの割れは、原材料選定のミス、成形プロセスのばらつき、または最終工程での取扱いに起因します。

とくに押出成形においては、材料の混錬不良による層間剥離、フィルム厚みの不均一、冷却不足などが顕著な原因となります。

加えて、フィルム自体の物性バランス―柔軟性、密着性、バリア性―が最適化されていない場合も、繰り返し曲げ動作への耐久性を著しく損ないます。

昭和的アナログ管理体制の限界

日本の製造業は長らく品質管理=人の目・勘・経験、といったアナログな管理手法に依存してきました。

ライン監督者の“匠”のセンスで対応できた時代は、確かにありました。

しかし、歩留まり改善や不良率低減、トータルコストの削減の観点からみても、再現性や客観的なデータに基づく工程制御が不可欠な時代となっています。

多層フィルム構造がもたらすメリットと設計思想

材料の組み合わせによる性能最適化

歯磨き粉チューブに使われる多層フィルムは、一般的に3層~7層構造が採用されることが多いです。

各層ごとに用途別・目的別の素材を重ね合わせることで、必要なバリア性(酸素・水分)、ヒートシール適性、印刷性、柔軟性、機械的強度などを最適化できます。

例えば、以下のような典型的な多層構成が挙げられます。

・外層:印刷性と耐摩耗性を重視したPETやPP
・接着層:ポリウレタン系、エチレン酢酸ビニル(EVA)など
・バリア層:EVOH(エチレン-ビニルアルコール)、アルミ箔、ナイロン
・内層:内容物適性を重視したPE(ポリエチレン)

この多層構造のおかげで、高いバリア性と耐久性を両立させつつ、コストや材料の持つ欠点も補完できます。

最新トレンド:リサイクル適性と環境対応

サステナビリティの視点から、近年では単一素材への回帰やEVOHの厚み最適化、再生ポリマーの一部採用など、循環型設計の要素が求められるようになっています。

メーカーは環境対応型素材の選定や、ポストコンシューマリサイクル(PCR)素材への転換を検討し始めており、これら新素材でも割れにくいフィルム設計の検証が不可欠となります。

押出成形条件の最適化:職人技から自動制御へ

条件出しの基本ステップ

多層フィルムの押出成形では、「温度」「圧力」「冷却」「押出速度」「樹脂滞留時間」「層ごとのデリバリー比率」など、制御すべきパラメータが膨大です。

現場での失敗例として多いのが、オペレーターの経験値のみに頼る条件出しと、「とりあえず出ればOK」という場当たり的対応です。

これではフィルム厚みや物性がバラつきやすく、押出面の冷却不良・析出不良・ミクロな層剥がれの温床となってしまいます。

データドリブンな条件設定と管理

現場のプロは以下の順で条件設定を考えます。

1. 材料物性(MFI、融点、得意温度帯など)をベースに最初の設定温度・速度を決める
2. 多層それぞれの流動比をシミュレーション。薄肉層のひずみ・ジェル化リスクを考慮
3. ラボスケール試作で、表面・断面の観察と曲げ耐久試験(例えばマンドレルテストや折り曲げ繰り返しテスト)を行う
4. データを蓄積しつつ、押出機の自動計測データ(圧力変動、温度プロファイル、モーター電流など)をモニタリング
5. 統計的手法(SPC、パレート分析、管理図等)で逸脱を素早く検知し、NGが出た場合は即時フィードバック

最新ラインではIoT機器によるリアルタイム条件モニタリングや、自動帳票出力、AIによる条件最適化支援も導入が進みつつあります。

これにより、人の勘と経験が“データ分析力”や“AI予知保全力”にシームレスに進化しつつあるのが、いわゆる「昭和から令和」への進化ポイントです。

サプライヤー&バイヤーの立場別・期待されるアクション

サプライヤーが押さえるべきポイント

・要望ヒアリング:バイヤーに「どんな曲げ負荷下で使うのか」「保管温度・流通環境」「消費者の圧倒的なクレーム事例」などを根掘り葉掘り聞く
・サンプル提出時は、必ず曲げ耐久・裂け耐性のデータを添付(見た目で誤魔化さない)
・薄肉化や環境素材切り替え案件では「耐久性低下リスク」を包み隠さず説明し、改善提案を先出しする

バイヤー(購買担当)目線での留意点

・見積原価だけでなく、品質データ、モールド実績、歩留まり過去実績など、トータルで「割れトラブル」を見抜く
・現場監査時、実際のラインを見て“現場感”を感じ取る(職人技と自動化・標準化のバランス)
・定期的なフィールドテスト、ユーザーの声の吸い上げ体制を整備し、突発トラブル時のサプライヤー対応力を重視する

バイヤーを目指す方へのワンポイントアドバイス

歯磨き粉チューブのような身近な消耗品でも、「一見どれも同じ」ではなく、モノづくりの現場では一つひとつ“こだわりの蓄積”により差別化が生まれるものです。

異常発生時は「材料か?工程か?設計か?」というロジックツリーで原因を冷静に分解する力が極めて重要になります。

現場に足を運ぶこと、サンプル試験に参加すること、専門用語に慣れることを継続してください。

現場力を磨く:現場の工夫とTips

成形現場の小ワザ集

・フィルム面に微細なプリストレッチ(延伸)をかけることで、初期の表面クラックを抑制
・温度帯管理は「中央値」狙いではなく、上下変動幅を極限まで絞ることが大切
・多層間の接着性はインラインで接着層にマイクロスリット加工を施し、柔軟性と強度を両立

これらは一見細かな工夫ですが、数千万本~数億本スケールのマスプロダクトにおいては、不良率を劇的に下げ、コスト改善インパクトを生み出します。

まとめ:昭和型アナログ管理からデータ活用現場への進化を目指して

歯磨き粉チューブの折り目割れは、アナログな現場管理の象徴ともいえる現象でした。

しかし、今や多層フィルムの高度な設計、データドリブンな押出成形管理、バイヤー・サプライヤー連携により、根本的な品質改善が実現可能となりました。

時代遅れになりがちな旧来文化を乗り越え、IoT/AI活用や環境対応素材への取り組みといった“新しい地平”を模索する姿勢が、これからの製造業現場には不可欠です。

小さな工夫一つ一つの積み重ね、しつこいまでのデータ管理、そして現物を見て考える現場主義――これまでの昭和技術の良さと、デジタルの力を融合して、より健全なモノづくり産業の発展に貢献していきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

現場の皆さん、これからも“割れないフィルム”作りのプロフェッショナリズムを愚直に追従していきましょう。

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