投稿日:2025年10月22日

飲食店が初めてパッケージ食品を作るときに学ぶべき食品表示と規格の基礎

はじめに:飲食店からパッケージ食品へ挑戦する背景

近年、社会の変化やライフスタイルの多様化により、飲食店が自社の味を多くの方へ届けるためにパッケージ食品事業へ挑戦する事例が増えています。

実店舗だけにとどまらず、全国の消費者へオンラインショップや小売店を通じて販売する。

その一歩を踏み出すにあたり避けて通れないのが、「食品表示」と「食品規格」の知識です。

自社の商品を「安心・安全・信頼」とともに消費者に送り届けるためには、これらの基礎をしっかりと学ぶことが絶対条件になります。

本記事では、実際に製造業の現場で品質管理・調達・規格策定に携わってきた視点から、飲食店がパッケージ食品を初めて作る際に最低限知っておきたいポイントを解説します。

現場目線での実践的な内容と、昭和型アナログ業界にも根付いている背景を交えることで、飲食店様が新たな挑戦を失敗なく進められる一助となれば幸いです。

なぜ食品表示と規格が重要なのか

食品表示法―消費者との約束

食品表示法は、消費者の「安全」と「選択」を守るためのルールです。

原材料、アレルギー物質、内容量、賞味期限、保存方法、製造者情報など、表示を義務付ける事項は多岐にわたります。

これらは単なる表示義務ではなく、

「消費者に正確な情報を提供することで事故を防ぎ、信頼を獲得する」
「トラブル発生時の責任分界を明確化する」

といった重要な意味を持ちます。

現場で起こる多くのトラブルは、表示ミスや説明不足から発生します。

初めて商品をパッケージ化する飲食店にとっては、このルールを最初から押さえておくことが非常に大切です。

規格策定―製品品質の担保

規格とは、「自社の製造する商品に関する具体的な決まりごと」です。

内容量、原材料の産地や配合比率、化学的性質(水分値、pH)、微生物規格、形状や包装仕様など、詳細な設計図と言えます。

現場では「レシピ」だけではなく、「品質規格書」や「工程基準」もセットで用意しなければなりません。

規格書をきちんと整備しておかないと、
「委託工場で味や品質が変わってしまった」
「異物やアレルギーの混入リスクを見逃してしまった」
「取引先や消費者からのクレーム対応で困惑した」
といった問題が必ず発生します。

また、工場監査や小売店審査でも、規格書や表示の整合性が重視されます。

表示と規格の基礎:これだけは押さえる10のポイント

1. 原材料名の正しい表記

原材料は「配合割合の多い順」に記載するのがルールです。

また、添加物は「/」で区切り、使用目的もできるだけ記載します。

原材料名は、できるだけ一般的な名称で統一しましょう。

アレルギーを引き起こす原材料(特定原材料7品目+特定原材料に準ずる21品目)は、必ず強調表示が必要です。

現場で時折見受けられる「この食材は表示しなくても大丈夫?」という油断が事故を招くため、必ず取り扱いサプライヤーとも連携を密にしましょう。

2. 内容量・賞味期限・保存方法

消費者目線では「いつまで食べられるのか」「どのくらいの量が入っているのか」は重要です。

内容量は「g」「ml」「個数」など最もわかりやすい単位で表示します。

賞味期限や消費期限は、検証試験を最低限行ったうえで設定し、日付の形式も「年・月・日」で明記します。

保存方法も「直射日光、高温多湿を避けて常温で保存」など、具体的に表現しましょう。

特に、後から温度帯が変わった(チルド→常温出荷など)のにラベルが修正されていない…といったありがちなミスは見落としがちです。

3. アレルギー・遺伝子組換え・特定成分の記載

アレルゲン表示、遺伝子組換えの有無、健康被害を防ぐ表示(アルコール分やカフェインなど)の表記が必要です。

また、ヴィーガン、グルテンフリー、糖質オフなど、各種フードポリシーへの配慮も商品性を高めます。

一方「ゼロ」や「フリー」表示には厳しい基準があるので、根拠のない安易な表示は避けましょう。

4. 栄養成分表示とその根拠

現在、ほとんどのパッケージ食品で「熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量」の表示が義務です。

自社で計算したり分析に出したりする必要がありますが、実際には原料実態とのブレも起こります。

現場感覚で言えば、毎ロットごとに分析出来なくとも、初回と大きな原料変更時は必ず測定しておきましょう。

5. 製造者(もしくは販売者)の名義

実際に製造した工場名(所在地含む)、または販売会社の情報明記は必須です。

OEMや委託工場で製造した際の表示ルールは意外と複雑なので、工場側と十分な協議が必要です。

場合によっては「製造所固有記号」が交付されるケースもあるため注意してください。

6. LOT管理とトレーサビリティ

万が一のリコールや不具合発生時、どのロット(生産単位)で作られたかすぐに特定できるよう、LOT記号や生産日付を打刻します。

現場では「伝票を混在させない」「原材料入庫から出荷まで一貫記録する」習慣が必須です。

まだデジタル化できない場合は、整理箱や手書きシートでも必ず記録を行いましょう。

7. 包装仕様と資材衛生管理

食品に直接触れる資材(パッケージ、袋、容器)は、食品衛生法などで基準があります。

現場でよくあるのが「印刷インキのにじみ」「過剰包装によるコスト増」「封緘不良による異物混入」など、些細なトラブルです。

必ず専門資材メーカーに相談し、現場で実際に試作してチェックしましょう。

8. 製造工程・衛生基準の設定

HACCP(ハサップ)に基づく衛生管理は、2021年6月より原則義務化されています。

大きな工場でなくても、「どの工程で」「どんな管理を」「どんな記録を残しているか」をまとめておく必要があります。

製造委託の場合も、「うちのレベルでこんなに…」と油断せず、一度は工場現場を自分の目で必ず確認しましょう。

9. 品質トラブル・クレーム対応フロー

現場でたびたび起こるのが「異物混入」「ラベルミス」「賞味期限切れ流出」などです。

何か起こったとき迅速に商品回収・対策が取れる体制を作っておきましょう。

現場には「小さなミスも必ず記録」「バイヤーや上司への第一報は速やかに」を徹底する文化が求められます。

10. 小売・バイヤーの求める条件に合わせる

飲食店単独の通販や自社販売であれば比較的自由度は高いですが、大手小売店・バイヤーとの取引を目指すなら「独自の表示・規格ガイドライン」への対応も必要です。

現場感覚でいえば、「サンプル提出→品質書類のやり直し→抜き打ち現場審査」の流れを想定し、決して“やっつけ”で表示や規格を整えるのは禁物です。

昭和型アナログ慣習をどう乗り越えるか

食品製造・流通業界は、長年の慣習や“暗黙の了解”が多く残る分野です。

たとえば

「ラベル内容は業者任せ」
「分析値は毎回同じでいい」
「うちの商品なんだから細かい表示は不要」

こうした思い込みが時代遅れになりつつあります。

特に近年はSNSでの情報拡散やトラブル報道も増え、「本当の意味での消費者目線」が求められています。

現場で働く方は、「上(本部や社長)が言ったからやる」のではなく、「なぜこの表示や規格が消費者の信頼につながるのか」を考えて実践しましょう。

むしろ、現場発でルールやチェックリストを作り経営層と合意形成することが、今後ますます重要となります。

実際に起こりやすいトラブル事例とその予防策

小さなラベル表示ミス

アレルゲン表示や賞味期限の記載漏れ、内容量表記のフォーマットミスは、現場で最も多いミスです。

本当は1回の製造で異なる2種のパッケージを使うなど、現場の作業とラベル管理をきっちり分けて運用したいところです。

原材料の急な変更時の混乱

仕入れ原料の都合が変わることは現場では日常茶飯事です。

その度、レシピ表だけでなく規格書・ラベル・バイヤー提出書類に即時反映する流れを作りましょう。

「原料変更は表示変更に必ず反映」とセットで現場教育しておくことが重要です。

品質クレーム発生時の初動遅れ

現場で発生した問題への報告フローが曖昧、担当者が明確でないと、いざという時の対応が後手に回ります。

小さな工房であっても、最低限の「初動フロー(検品→LOT特定→社内報告→販売先連絡)」だけは明文化しましょう。

サプライチェーンにおける「バイヤー目線」を理解する

メーカーやサプライヤーとしてバイヤーと関わる場合、最も重視されるのは「安心」と「一貫性」です。

現場目線で語れば、バイヤーは

「表示が法令通りきちんとされているか」
「規格書と現物が完全に合致しているか」
「イレギュラー変更の連絡がきちんとタイムリーか」

といった点を細かくチェックしています。

バイヤー側も、品質問題が消費者トラブルに発展すると企業リスクが高まるため、高い水準でルール遵守を求める傾向が強くなっています。

サプライヤーとして信頼されるには、

「現場レベルできちんとルールを守れている」
「トレーサビリティ(追跡性)が担保されている」
「トラブル時の初動・対応フローが透明である」

ことを示せる体制づくりが大切です。

まとめ:現場発の“自社らしい”安全安心ブランドを作ろう

パッケージ食品事業に挑戦する飲食店にとって、食品表示と規格は“法律”であり“消費者との約束”でもあります。

昭和型の“なあなあ主義”や“アナログ慣習”にとらわれず、一つひとつの表示や基準を現場で考え、実践し、自分たちの手で安全・安心な商品を作り上げましょう。

その積み重ねが、自社ブランドに対する信頼を築き、ひいては外食・食品製造業界全体への発展貢献に繋がります。

新たな一歩を踏み出す飲食店の皆様が、現場とともに食品表示・規格という“基礎”をしっかり築き上げ、日本の食の未来を切り拓いていくことを願っています。

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