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飲食業がオリジナルスパイスを商品化するための食品衛生法と表示管理

目次
はじめに ~飲食業の新たな挑戦、オリジナルスパイス商品化の背景~
飲食業界では、近年オリジナリティの追求や差別化戦略の一環として、自社で開発した「オリジナルスパイス」を商品化し、小売やECサイトで販売する動きが活発になっています。
店舗で親しまれてきた味をより多くの人に届けたいという思いや、物販を通じて新しい収益の柱を作りたいという戦略的な理由から参入する飲食店も増えています。
しかし、「スパイスを商品として売ること=飲食店営業」とは異なるルールや法律が存在します。
特に、食品衛生法や食品表示関連の法律、業界ならではの慣行、オリジナル商品を扱う際の注意点など、未知の課題も多く見受けられます。
本記事では、製造業の元現場責任者ならではの視点で、オリジナルスパイスを商品化する際に飲食業が確実に押さえておきたい、食品衛生法・表示管理のポイントを分かりやすく網羅します。
さらに、昭和から続く食品業界特有の「アナログな現場慣習」にも目を配りつつ、現代の法規制や消費者の目線にも即した実践的ノウハウを深掘りします。
食品衛生法をなぜ押さえる必要があるか?
飲食店の「そのまま」では商品化できない理由
飲食店では調理済み食品を店舗内で提供していますが、これを「商品」として流通させる場合、「製造(加工)」「包装」「流通」などの各段階で、食品衛生法の規制下に置かれます。
飲食店営業許可だけでは、包装済み食品の卸売・小売は認められていません。
たとえば、「手製のスパイスミックスを袋詰めしてお客様に持ち帰らせている」といったケースは、法的にグレーゾーンに該当します。知らずに継続してしまうと、最悪の場合、行政指導や商品回収命令を受け、ブランド価値を大きく損なう危険性さえあります。
食品衛生法の基本 ~スパイスは「加工食品」として扱われる~
オリジナルスパイスは「飲食物の製造および加工」に該当します。このため、調理とは異なる「食品製造(加工)業」または「食品小分け業」などの営業許可・届出が必要になります。
2021年6月の「食品衛生法改正」により、これまで一部グレーだった小規模製造販売にも明確なルールが設けられるようになりました。
特に自社でブレンド・充填・包装まで担う場合は、「菓子製造業」「そうざい製造業」「その他食品製造業(スパイスや調味料の場合)」などの業種区分に該当するか、都道府県ごとの所轄保健所へ必ず確認が必要です。
食品衛生責任者の選任と施設基準
加工施設(あるいは小分け施設)ごとに、「食品衛生責任者」の選任が義務です。
また施設自体も、手洗いや湯沸し設備、虫が入り込まない構造、作業台や計量器の衛生管理体制など、明確なハード・ソフト両面での施設基準が求められます。
飲食店のキッチンと兼用する場合でも、前提となる基準を満たす改修が必要です。レンタルキッチンや第三者の委託工場を利用する際の留意点も同様です。
製造委託という選択肢にも要注意
小規模事業者の場合、自社で製造環境の整備が難しいケースもあります。そうした場合、既存の製造業者(OEM)にレシピ供給し、製造と包装だけを外部委託する方法もあります。
このとき自社ブランドで販売したい場合、「自社が販売者、委託先が製造者」としての責任、表示上の義務や、トレーサビリティ対応がセットとなります。
信頼あるパートナーと「衛生管理計画」「回収基準」「製造ロット管理」について事前協議・契約が重要になります。
食品表示法:商品化したスパイスに求められる表示管理
食品表示の「落とし穴」と消費者目線の変化
昭和の時代、店頭で「手作りスパイスミックス、1袋100円」という形で販売していたものが、今では法的に厳しい規制が設けられています。
消費者の権利保護、健康被害対策などの社会的要請が年々高まり、表示違反による指摘や炎上例も増えています。
食品表示法違反は、最悪の場合「販売停止命令」や「罰則」につながります。
特定原材料(アレルギー)事故、内容量偽装、期限切れ品の販売など、後からトラブルになることも多く、業界の信用も地に落ちかねません。
表示ラベルに必ず記載が求められる項目
オリジナルスパイス(包装済み商品)には、以下の基本情報を漏れなく表示する義務があります。
- 名称 (例:香辛料ミックス等の一般的名称)
- 原材料名 (アレルゲンを含め、使用量の多い順)
- 内容量
- 賞味期限または消費期限
- 保存方法(例:「直射日光・高温多湿を避けて保存」など)
- 製造者名および住所、または販売者名及び住所
- 原産国(輸入原料を多用する場合には特に注意)
- 栄養成分表示(エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量)
- アレルゲン表示(特定原材料等28品目の中で該当するものを明記)
- その他、任意で「販促文」「レシピ提案」など
作成例 ~ラベル文例を分かりやすく解説~
例えば「オリジナルカレースパイスMIX」を販売する場合、以下のように表記します。
名称:カレー用香辛料ミックス
原材料名:ターメリック(インド)、クミン、コリアンダー、黒胡椒、シナモン、ナツメグ
内容量:30g
賞味期限:2025年7月31日
保存方法:直射日光・高温多湿を避けて保存してください
製造者:株式会社●● 東京都○○区○○町1-2-3
栄養成分表示(1袋30gあたり):エネルギーXXkcal、たんぱく質X.Xg、脂質X.Xg、炭水化物X.Xg、食塩相当量0.0g
アレルギー:本製品は特定原材料等(●●)を含みます
新たなSNS時代の企業リスクと表示ミスの怖さ
現代では、消費者が気軽に商品のラベルや原材料をSNS拡散できる時代になっています。間違いがあれば即座に炎上・拡散され、経営リスクが一気に膨らみます。
知識の浅い段階で商品化へ突進する前に、必ず所轄保健所や商工会、食品業界の団体等から最新情報と実務的な確認を取ることが必要不可欠です。
アナログ業界の裏側:現場あるあると落とし穴
ベテランの「昔ながらのやり方」と最新ルールのギャップ
日本の食品業界では長年にわたり、いわゆる「現場の常識」「生き字引の経験」が重視されてきました。
たとえば
– 取引先・顧客との口約束
– 「大丈夫だろう」と省略される手順
– 非公式な帳簿や手作業ラベル貼り
など、アナログな慣習が色濃く残っています。
一方で現行法はどんどんアップデートされており、「昭和の常識」が今は通じないどころか違法になるリスクが高まっています。
仕入れやバイヤーとの取引体系も変化中
小売店や外食チェーン本部のバイヤーが求める品質基準やトレーサビリティ水準も日々厳格化しています。
– 原産国証明書の提出
– 品質検査成績書の添付
– 事故発生時の一括回収体制
– 容器包装の安全証明
など、昔ながらの「顔と信頼」だけで商売が成立する時代ではなくなっています。バイヤーとしてもサプライヤーの法令順守と表示品質を厳しくチェックします。サプライヤー(製造側)は単なる「下請け」ではなく、食の安全を支える正しいパートナーである姿勢が必要です。
デジタル対応と業務標準化の重要性
今や、原材料仕入れから製造工程、ロット管理、在庫・出荷・回収まで一連の流れを「デジタル対応」することが主流になってきました。
伝票や出荷記録もPCやクラウド管理が求められます。食品表示用の情報も、手書きや感覚値で行う時代ではなく、正式なディスクロージャー(開示)が前提です。
Excelやラベルプリンタの導入、標準作業手順書(SOP)作成、クラウドによる情報共有など、業界全体の業務効率化・標準化が進行しており、ここに適応できる事業者こそ生き残ることができます。
まとめ:業界の壁を超え、オリジナルスパイス販売を成功させるための提言
飲食業がオリジナルスパイスを商品化することは、自社ブランドを高める絶好のチャンスであり、時代の求める新たなビジネスモデルです。
しかし、成功のためには「熱意」だけでなく「確かな知識」と「現場目線」が不可欠です。
– 食品衛生法・食品表示法・関連法令を正しく理解し遵守する
– 必要な製造・衛生管理体制を整備し、バイヤーや消費者の期待に応える
– 昭和的な勘や経験に頼るだけでなく、現代のデジタルツールや標準化を積極活用する
これらの総合力こそが、今後の飲食業や食品業界の成長のカギとなります。
古き良き現場感覚も時には大切ですが、それをアップデートして新しいルールのもとで「守るべきこと」と「攻めるべきポイント」を見極めることが、競合他社との差別化・市場での生き残りの必須条件となるでしょう。
本記事が、飲食業の皆様・バイヤー志望者・サプライヤー各社の皆様にとって、現場に根差した実践的な指針となれば幸いです。
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