投稿日:2025年10月22日

日本発の素材メーカーが海外ブランドに採用されるための提案書戦略

はじめに:なぜ日本発素材メーカーは世界進出で課題を抱えるのか

日本の素材メーカーは世界最高水準の技術力や品質管理能力を誇ります。
しかしながら、とくに欧米を中心としたグローバルブランドとの取引拡大においては、思うような成果を出せていない企業も多いのが現実です。

その理由は決して技術力や製品そのものの品質だけの問題ではありません。
むしろ“どのように自社技術を伝え、相手の価値に合わせて提案していくか”という、「提案書戦略」が問われる局面で、日本独特の慣習やアプローチが通用しなくなることが大きな壁となっています。

この記事では、製造業の現場で20年以上にわたり調達、購買、品質、工場運営を経験してきた立場から、日本の素材メーカーが海外ブランドに採用されるための「本当に通じる」提案書戦略について、実践的な視点で掘り下げていきます。

なぜ日本企業の提案書は海外で響かないのか

スペック一辺倒の「説明書」では選ばれない

欧米の先進ブランドの多くは、調達担当者・バイヤーに十分な専門知識があります。
そのため、単なる技術スペックや実績の羅列、写真中心の「カタログ型提案書」は興味を引きにくくなっています。

日本企業の多くは、「品質には自信がある=きちんと誠実に説明すれば必ず伝わる」と考えがちですが、海外ブランドのニーズや価値観は刻々と変化します。
彼らは“自社の世界観や顧客体験にどう貢献できるのか”という視点こそをしっかり見ています。

「阿吽の呼吸」を前提にしない

日本の商習慣は、長年の取引継続による信頼関係や、「言わなくても分かるだろう」という阿吽の呼吸がベースです。
一方、グローバルマーケットでは初対面で“なぜあなたの素材が今の課題を解決できるのか”を端的に示すロジックが求められます。

日本語の提案書から英文に直して内容を伝えようとすると、論旨がぼやけたり、論理展開が弱くなりがちです。
結果、「何がしたいのかよく分からない」「で、どうしてこの素材が必要なの?」と突き返されてしまうことが多いです。

海外ブランドに「刺さる」提案書の構築方法

1. バイヤーの“現実的課題”を深掘りするリサーチ

海外企業は「新規サプライヤー開拓」を戦略的に進めていますが、当然その舞台裏には独自のサプライチェーン課題やESG要求、コスト目標があります。

成功する提案書の出発点は、“相手がどんな課題の真っ只中にいるのか”を徹底分析することです。
ネット上の情報や公開資料、環境への取り組みなどから、バイヤーの「立場の本音」まで掘り下げてリサーチする力が必要です。

2. 「何が変わるのか」を定量・定性で示す

あなたの素材や技術が採用されることで、相手企業のどんな悩みや目標がどれほど改善するのか――。
それを“ストーリーとして”伝えることが、海外向け提案書では不可欠です。

技術スペックや試験データのみならず、「御社で採用いただくと平均1割の歩留まり向上を見込めます」「CO2排出量を最大20%削減できます」等の数値根拠、あるいは「顧客からの新たなブランド評価が狙えます」といった定性的メリットまで落とし込みましょう。

3. なぜ他社素材でなく“あなたの素材”なのかを明言する

日本企業はつい控えめな表現に走りがちですが、「なぜ多くの選択肢の中で、今こそ自分たちの素材を選ぶべきか」の根拠を明確に語ることが肝要です。

差別化ポイントは「スペックが高い」だけではありません。
品質の安定供給、大規模生産への対応力、地球環境対応、部品供給の柔軟性…こうした“価値連鎖”の中でどこにアドバンテージがあるのか、シンプルかつ力強いメッセージで伝えます。

4. ESG・サステナビリティ観点を忘れない

近年は多くのグローバル企業がSDGsやESGに強い関心を持ちます。
原材料調達における透明性、カーボンニュートラル、生体由来材料の使用状況など、技術や品質とは別軸の情報も戦略的に整理し、提案書に必ず盛り込みます。

現場で実践できる「提案書強化術」

現場の「成功体験」「失敗体験」を必ず盛り込む

実際に自社素材が海外ブランドにもたらした効果や、逆にうまくいかなかったケース(原因・対策)、さらには「現場での困りごとの声(一次情報)」を事例として記載すると、相手は「自社の話だ」「リアルな現状をわかっている」と感じてくれます。

図表・チャートで一発理解を狙う

文字で長々と説明するのではなく、Before・Afterや製造工程の改善イメージを一枚の図表、チャートで見せ、視覚的に理解を促すことが、海外提案書では非常に重視されます。
日本的な「行間」ではなく、パッとみて分かる形で数字やストーリーを簡潔にまとめましょう。

工場現場と連携した“証拠データ”を添付

机上の空論では通用しません。
製造現場から直接取得した計測データ、試験結果(第三者認証があればベター)、現行ラインでの適合実績などを、証拠として添付します。
これがあるかどうかが決定的な違いとなるケースが非常に多いです。

アナログ業界からの脱却~昭和型メーカーが陥るワナ

「うちは技術屋だから」と言い訳する文化の払拭

「いいものを作れば売れる」という価値観が根強く残り、“提案書づくり”自体を軽視する傾向が、今なお多くの現場に残っています。
とくに昭和時代から続く企業文化では、営業・開発・工場の縦割りが強く、部門間の“壁”が創造的な提案書の阻害要因になりがちです。

しかし、グローバル市場で生き抜くには、開発・品質・生産管理・営業すべての知見を総動員して、一体型の「ストーリー作り」こそが強力な武器になるのです。

「翻訳だけ」の提案書ではなく“現地化”を徹底する

日本語提案書を英訳するだけでは、グローバルバイヤーの心には響きません。
現地の文化や市場ニーズ、競合状況に合わせて内容を再構築し、「現場の共感」を得られる表現に切り替えることが不可欠です。

また、提案書と並行して、Webサイト・動画・ケーススタディ(白書)の多言語化も同時に進め、相乗効果を狙うことが重要です。

まとめ:日本発素材メーカーが世界で選ばれるために必要なマインドセット

グローバルな素材調達の最先端では、提案力そのものが競争力となります。
取引実績や工場の生産能力だけでなく、「御社にベストな解決策を本気で考えている」という熱量と、冷静なロジックの両輪が強みとなるのです。

安定した品質・優れた技術は大前提。
そこに「相手企業の課題を自分の言葉で語る」「データとストーリーで価値変化を描く」「サステナビリティ・現地化意識を徹底する」――これが、現場から真にグローバルに羽ばたく日本素材メーカーへの“突破口”だと考えます。

昭和型の受け身営業から一歩抜け出し、ラテラルシンキング(水平思考)で相手の立場・業界動向まで広く俯瞰した提案書をぜひ仕上げ、世界市場への扉をともに開いていきましょう。

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