投稿日:2025年10月22日

飲食業が自社お菓子を製造するためのOEM依頼と試作品評価の基準

はじめに:飲食業における自社お菓子製造の新たな潮流と課題

飲食業界の中でも、カフェやレストラン、ホテル、ベーカリーなどがオリジナルブランドのお菓子を開発し、顧客へ提供する動きが年々活発になっています。

自社商品を持つことでブランド力を高め、リピーター獲得や販路の拡大を目指す動機は強く、完成度の高いお菓子が店舗の新たなシンボルとなる例も珍しくありません。

しかし実際には、飲食店が自社でお菓子工房を所有して​一貫製造​するのは、人手や設備、品質維持の観点から現実的でない場合が多いのです。

そこで多くの現場が選んでいる選択肢が、OEM(Original Equipment Manufacturer)による委託製造です。

この記事では、飲食業が自社お菓子をOEM依頼する際の具体的な流れと、リピート生産に繋がる“良い試作品”とはどういうものか――現場目線で深掘りし、その基準や評価のポイント、昭和的アナログ慣習に残る落とし穴も踏まえてご紹介します。

初めてOEMに挑戦する方、バイヤー視点を学びたい方、そして頼まれるサプライヤー側にも必見の内容です。

OEMで自社お菓子を作るメリットと取り組み始める背景

ブランド強化と商品差別化が最重要課題

飲食業の現場で“売れるオリジナル商品”の価値は高まっています。

特にカフェやホテルの売上の多角化、リピーター獲得の武器として、お土産やテイクアウト用のお菓子が重宝されています。

通常の仕入菓子では他店と差別化できず、顧客の印象にも残りにくい一方、自社ならではのコンセプトや地産素材を生かした商品は、その場での話題やSNS拡散にもつながります。

飲食店では製造の「壁」が高い

一方で、小規模・中規模の飲食店が衛生基準を満たしたお菓子の工場設備を持つのは難しく、製造工程・品質管理・包装技術など多くの専門性が求められます。

特に菓子類は食品表示や賞味期限管理も厳格です。

このような理由から、OEMでの製造委託が強く求められているのです。

OEMメーカーの多様化と進化

受託先となるOEMメーカーも、近年は“少量多品種”“オリジナルレシピ対応”“パッケージデザイン提案”など、飲食業の多様なニーズに応えようと進化しています。

老舗メーカーからベンチャー企業、高付加価値志向の工房まで、発注先の選択肢は実に幅広くなりました。

OEM依頼の一連の流れを現場目線で押さえる

OEMメーカーの選定ポイント

まずは候補となるOEMメーカーに問い合わせを行います。

この際の注意点を具体的に見ていきましょう。

  • 得意なジャンル(洋菓子、和菓子、焼き菓子、冷菓等)が自社希望と合致しているか
  • 最低ロット(製造最小数量)が自社の販売計画と合うか
  • アレルゲン対応や特定原材料不要など特別要件は可能か
  • 原料や包装資材の調達範囲(全て委託型~一部持ち込み型)が希望と合うか
  • 自主検査体制や外部監査等の品質保証レベル
  • 小ロット・短納期にフレキシブルに対応できるか

ここで“昭和的なお付き合い”しかできない、もしくは極端に保守的な工場は、柔軟な商品開発や納期対応に難が出るため要注意です。

レシピ共有・仕様打ち合わせ

OEM依頼の多くは、

  • 自社のレシピや要件(味、食感、保存性、アレルゲン、使用NG原材料、形状、サイズ)
  • 参考商品やイメージ写真
  • パッケージやデザイン要素(ロゴ、配色、シールなど)

をメーカーへ伝える形となります。

近年はオンラインミーティングやデジタル資料共有が主流ですが、業界的にはいまだに「対面至上主義」で進むOEMメーカーも存在します。

案件のスピード重視か、きめ細かなフォロー重視か、発注側のスタイルと合うか事前確認が必要です。

見積作成と試作依頼

条件を伝えると、メーカーから試作と見積提案がなされます。

ここで気を付けたいポイントは、

  • 原材料高騰や時価変動リスクはどこまで想定されているのか
  • 試作費やパッケージ初期費など、開発投資がどこに発生するか
  • 量産時の単価と試作ロットの違い、納期の目安

です。

OEMでの試作品:評価ポイントと業界的な実践判断

なぜ試作品評価が重要なのか

OEM製造において、試作品の出来がその後の成否を大きく左右します。

「サンプルは良かったが量産したら味が落ちた」「見た目や包装の美しさが失われた」など、現場から見れば“試作品詐欺”という現象も散見されるためです。

特に製造業の経験から言うと、試作段階での“現場基準”の明確化・共有が最重要です。

試作品評価の現場的な基準

  • 味・風味 … 実際の提供現場(カフェ出し、土産箱、冷凍解凍後など)と同じ環境で“想定客”に試食テストを行う。
  • 食感・口溶け … 原材料置換や保存条件の変更でも再現性が落ちていないか。
  • 外観 … 一括包装、個包装どちらも“売り場で映える”かつ、不良率(欠け、割れ)が低いか。
  • 衛生・品質 … パッケージ破損や異物混入などが起きにくい工場管理基準か。
  • コスト … サンプル予算と、量産時価格が大幅に乖離していないかを実データで比較。
  • 量産性 … サンプル時の配合や作業が量産向きのレシピ・工程で現実的か。
  • 保存性と物流 … 日持ち日数、温度帯別の安定性、店舗バックヤードで管理しやすいか。

現場では、単純に「美味しい」「イメージ通り」で決定するのではなく、必ず“実販売現場の工程”へ疑似適用して評価することをおすすめします。

昭和的な評価会議はもう古い!? 現場巻き込み型評価へ

昭和の慣習では、試作品の最終ジャッジは「上層部のお偉いさんの口に合うか」「社長の好みか」「従業員が“美味しい”と感じるか」だけで決まっていました。

しかし現在はSNSやEC販売まで視野が広がり、“消費者(客層)にウケるか”の科学的検証が求められます。

業界最前線の取り組みでは、

  • ターゲット層に試食アンケートを実施
  • 店舗スタッフ以外にも納品担当や物流サイドからもサンプル評価を取得
  • 本社と現場店長の共同評価会をオンラインで実施

など、「多様な目」で機能・意匠・品質を包括評価する動きが強まっています。

バイヤーはOEMメーカーの何を見るか?

実は重視される“現場の機動力”と“やりとりの透明性”

バイヤー(発注サイド)がOEM先を選ぶ際、単なる技術力だけでなく、

  • 要望変更時の迅速対応力
  • 納期や生産トラブル発生時など“悪いニュースの共有スピード”
  • コスト変動時・原料事情の積極的な説明
  • パッケージやラベル変更などイレギュラー要望への柔軟性

といったコミュニケーション能力、その「誠実さ」が大きな決め手となります。

トラブルやクレーム時も“素早い初動”が重要視されるため、アナログな「お付き合い根性」だけでは今後バイヤーからの信頼は得難いのです。

サプライヤーは“試作後の振り返り”で再評価される

製造業での実務経験から言っても、優秀なOEMメーカーは

  • 試作後のフィードバックをまとめ、次ステップ改善案を提言
  • 想定トラブル対応案(アルバイト作業者でも作れるか等)の事前提案
  • コスト・品質バランスの再調整能力

が突出して高いです。

ここで「一発OKもらえなかったから無理」とならず、粘り強く改善を重ねる工場が、昭和時代から現代まで生き残る秘訣となっています。

業界動向:デジタル進化とアナログの狭間

IT活用による新たなOEM評価の時代

最近では

  • サンプル申し込みから評価フィードバックまでWeb化・クラウド管理
  • 試作品ごとの詳細データ(製造履歴、原料ロット、工程写真など)の即時共有
  • バイヤー側も評価内容をデータで一元管理し、次期商品開発に活用

が進みつつあります。

かつてはFAXや対面レビューが中心だったOEM業界ですが、今後は「工場のIT化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)適応力」が大きな勝敗の分かれ目となるでしょう。

しかし依然根強い“人情”の価値観

ただし現場の中小OEM工場では、「長年の取引関係」「阿吽の呼吸」「現場での人情対応」が依然として強く残っています。

これは単なるデジタル化では置き換えられない、昭和的コミュニティの良さでもあります。

しかし顧客やバイヤー側が「根拠なき安心感」や「仲良し感情」だけで進めてしまうと、商品事故・市場リコール時に大きな痛手を負うリスクも… リスクヘッジの視点も求められます。

まとめ:OEMで実現する自社お菓子ビジネスの未来

飲食業がお菓子OEMを導入し、自社ブランドを磨くことは、今や業界標準となりつつあります。

その成否を分けるのは、「現場のリアルな目線による試作品評価」「バイヤーとサプライヤーの誠実なコミュニケーション」「昭和的慣習とデジタル進化のバランス感覚」です。

  1. まずは、自社のコンセプトや客層にマッチするOEMメーカーを吟味しましょう。
  2. 試作段階で回数・手間を惜しまず、現場巻き込み型で真に“売れる”評価を目指しましょう。
  3. 定期評価とフィードバックの仕組みを作ることで、品質事故・市場トラブル対策も万全にしましょう。

飲食業の方、OEMバイヤー志望、サプライヤー双方が“お互いをよく知り、現場の声を活かすこと”―――ここが、昭和の「根性商売」や「押し付け」で消耗する時代から抜け出すポイントです。

皆様のお菓子ビジネス成功の一助となれば幸いです。

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