投稿日:2025年10月23日

商品づくりの初期に決めるべき“おいしさの基準値”と再現条件

はじめに:ものづくりにおける「おいしさ」とは何か

ものづくりの現場において「おいしさ」という言葉を使うと、食品業界を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、私たちが長年携わってきた製造業でも「おいしさ」は、製品が顧客に提供する価値そのものを意味する指標と捉えることができます。
本記事では、食品を例にしながらも、汎用的に応用可能な「おいしさの基準値」設定と、その再現条件の重要性について解説します。

なぜ商品づくりの初期に“おいしさの基準値”が必要なのか

「商品開発の肝は最初にあり」。
そう断言できるほど、開発初期の基準値設定はものづくりの成否を左右します。

なぜ曖昧なイメージから失敗が生まれるのか

現場では「美味いものをつくろう」「お客様に褒めてもらえる品質を目指そう」と、熱意や情熱が先行しがちです。
しかし、「おいしさ」という概念が曖昧なままでは、部署ごと・人ごとに解釈がずれ、設計、生産、品証、営業、さらには調達部門との間で認識齟齬が生じます。
たとえば、ある部品調達の現場で「丈夫に作る」という要求だけで発注した結果、想定以上に重く高価なものが納入されてしまい、コストや生産性で大きな問題になった例もあります。

基準値なしは“都度判断”という名の属人化

曖昧な目標は現場スタッフの“経験と勘”頼りに陥りやすく、ベテランが辞めるとノウハウが消失したり、新規バイヤーやサプライヤーが戸惑う要因にも。
こうした属人化を防ぐために、「“おいしさ”とはこういう状態である」という合意形成と基準値(スペック)が必要なのです。

“おいしさの基準値”の決め方と現場実装のポイント

基準値策定の本質は「数値化・可視化」にあります。
ですが、単純なスペック化だけでは「現場で本当に再現できるか」、すなわち“再現条件”まで考慮する必要があります。

顧客価値を「数値」で定義する

たとえば食品業界の場合、糖度、食感、粘度、色味などを「何度」「何g/cc」「何ナノメートル」まで定量化します。
製造業で言えば、寸法公差、表面粗さ、硬度、導電率などですね。
しかしここで重要なのは「お客様が本当に価値と感じている数値か」という顧客視点です。
現場目線では、「なぜこの数値設定なのか」まで踏み込むことで、目的意識と生産技術が一体化します。

現場での再現条件をセットで設計する

数値設定だけでは現場迷走は止まりません。
「再現条件」とは、温湿度、機械の状態、作業者の動作、原材料ロットなど、「その数値を安定して出せる条件」のこと。
特に昭和から続くアナログな生産ラインほど、「職人頼み」だった部分を明確に言語化しておく必要があります。
たとえば同じ糖度でも「原材料Aで、仕込み温度B度、時間C分」であれば実現できる…といった具体性まで踏み込むことで、再現性ある商品づくりができます。

バイヤー・サプライヤー双方の“基準値”に対する意識ギャップ

製造業の現場では、調達部門(バイヤー)とサプライヤー(供給者)の間に根強い意識ギャップが存在します。
それは“基準値の捉え方”の違いから生じているケースがほとんどです。

調達バイヤー目線:「基準値=守るべき契約」

調達バイヤーは仕様書記載の基準値を絶対条件と捉え、それを担保しないサプライヤーには厳しく対応します。
なぜなら部品や原材料の一つのブレが最終製品品質やコスト、納期全体に波及し、顧客クレームや損失リスクを生むからです。

サプライヤー目線:「実際に作れる条件」の説明不足

サプライヤー側では、「この条件・ロットなら対応できそうだ」「過去似た実績があればOK」という感覚値が先行し、イレギュラー時の再現条件や注意事項がきちんと伝えきれていないケースが多々あります。
結果的に微妙な品質ズレや不適合が発生し、トラブルの元になってしまいます。

両者で“再現条件”まで落とし込む重要性

現場で本当に生産可能な“再現条件”を双方で共有し、「このやり方なら安定して出せる」という合意形成こそが、信頼関係の礎となります。
最近ではサプライヤー同士のベンチマーク、現場実証、共同レビュー会などの導入がトラブル防止や持続的信頼関係に大いに寄与しています。

デジタル化・自動化の時代ならではの“見える化”手法

昭和から続くアナログ現場では「経験・勘・根性」に頼った管理が根強く残っています。
しかし、デジタル化・自動化の波の中、「基準値と再現条件」を如何に“見える化”し「現場で継続再現」できるかが、現場力向上には欠かせません。

IoT/センサによるリアルタイムデータ取得

ライン各所にセンサを設置し、温度・湿度・振動・トルク・圧力などを秒単位で取得・蓄積。
閾値を設けて逸脱時アラート発報や、自動補正制御につなげることで、基準値逸脱のリスクを劇的に減らすことが可能です。

工程シート・作業標準書のデジタル化

これまで紙のバインダーで管理していた標準書や検査記録をデジタル化し、必要な現場作業者にタブレット等で即共有。
実際の改善事例や「ココがポイント」まで動画・写真で可視化することで、新人からベテランまで“同一基準”での作業再現が可能となります。

AI解析による「異常傾向の早期検知」

過去の製造データと不良発生パターンをAI学習させることで、わずかなトレンド変化を現場スタッフにフィードバック。
これにより、従来見落とされがちだった“再現条件の逸脱”も早期是正が期待できます。

現場×調達×サプライヤーの“三位一体”で進化する現代のものづくり

商品づくりは開発、生産、調達、サプライヤーのどこかひとつでも認識ズレがあるとうまくいきません。
だからこそ、全工程を俯瞰できる現場目線を持つことが重要です。

現場スタッフ:徹底した作業標準・改善活動

基準値・再現条件に従い作業し、「再現できなかった場合」や「再現性に不安がある場合」は、即改善PDCAサイクルを回せる風土づくりがポイント。
現場の“小さな気づき”を調達サイドや開発側にもフィードバックしましょう。

調達バイヤー:サプライヤーとのコミュニケーション強化

「スペック厳守」を強調するだけでなく、「なぜこの基準が必要か」「再現性に課題はないか」「実際の作業現場で困っているポイントはどこか」まで踏み込み、サプライヤーと密に情報交換し続ける姿勢が大切です。

サプライヤー:課題・注意事項の積極的な可視化と共有

“実際の現場ではこれが難しい”“このロットは試験が十分でない”など、リスクや注意情報を隠さず、むしろ率先して伝えることで全体最適に寄与できます。
また、「再現条件」を自営で可視化・社内教育することもサプライヤー力向上のカギです。

まとめ:おいしさの基準値設定は「繰り返し進化型」で磨かれる

商品づくりにおける“おいしさの基準値”設定と再現条件策定の重要性について解説しました。

基準値づくり・再現条件づくりは、商品特性や業界動向、お客様の声を汲み取りながら“繰り返し改善”していくものです。
昭和的な現場力と最新のデジタル技術を融合し、「現場で本当に再現できる品質」をみんなでつくり上げていきましょう。
現場のみなさん、調達担当者、サプライヤー担当者が「おいしい」に込めた熱意が、必ずや日本ものづくりの礎となるはずです。

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