投稿日:2025年10月23日

飲食店が商品化を成功させるために必要な「現場と経営の意識統一」

はじめに 〜現場の声から生まれる商品化成功のヒント〜

飲食店ビジネスにおいて、オリジナル商品の開発や新メニューの発売は、差別化と利益向上の大きなカギとなります。
しかし、実際に商品化を成功させるための道のりは決して平坦ではありません。
なぜなら、現場で実際に業務に従事しているスタッフと、経営層との間に意識のズレが生まれやすいからです。

20年以上メーカー現場に携わった私が、製造業で培った「現場と経営の意識統一」の知見は、飲食業界にも数多く応用できます。
現場が主導する業務改善は、時にアナログな業界動向や長年の慣習に阻まれがちですが、現場目線を忘れず本質を見抜くことで新たなチャンスをつかむことも可能です。

この記事では、飲食店が商品化を成功させるために、現場と経営がどのように意識を統一して取り組むべきか、実践的かつ現場主義の視点を交えて解説します。

現場と経営の意識ギャップとは何か

現場のリアルな課題

現場スタッフは、日々の業務に追われる中で「今できること」「お客様が本当に求めていること」への感度が非常に高いです。
一方で、経営層は「売上目標」「ブランディング」「コスト管理」など大局的視点を持ちます。

この違いが、「せっかく開発した商品が現場でうまく運用されない」「現場アイディアが経営層に伝わらない」といったギャップを生みます。
特に、昭和型のトップダウンが色濃く残るアナログな組織では、この溝が深く、せっかくの新メニューや商品化が空中分解することも少なくありません。

意識ギャップを放置すると…

現場と経営の意識ギャップをそのままにすると、下記のようなリスクにつながります。

・商品化したものの、現場が「やらされ感」で熱意を持てない
・現場でオペレーションミスが頻発し、品質が安定しない
・経営の狙いが現場に伝わらず、本来のターゲットや価値からズレた運用になる
・結局「元通りのメニュー」に戻る負のスパイラル

このような事態を避けるには、現場と経営層の意識統一が不可欠です。

昭和から抜け出せない業界動向と意識統一の壁

「現場力」は優れているが…

日本の飲食店や製造業は、いまだ昭和的な「現場の叩き上げ文化」が根強く残っています。
これは現場の柔軟な対応力やチームワークの良さにつながる一方で、「新しいこと」を導入しづらい温床にもなります。

現場は「今まで通りが一番楽」と思いがちですし、経営層も「とりあえず現場に丸投げ」してしまう傾向が。
結果として、商品化プロジェクトが「絵に描いた餅」になってしまうケースも多いのです。

アナログとデジタルのはざまで

業務が属人的かつアナログなままでは、現場の知恵も経営視点も相互に伝わりません。
食材発注、調理工程、衛生管理、顧客管理…。
多くの飲食店では、いまだに「紙と電話」「伝言ゲーム」が主流です。

本気で商品化を成功させるには、
・現場スタッフの“肌感覚”
・経営層の“数値的視点”
この両輪の情報共有が不可欠です。
部分最適にとどまらず、全体最適=意識の統一が求められます。

意識統一への5つのアプローチ

1. 経営者自ら「現場体験」する

松下幸之助氏の「現場主義」に象徴されるように、経営者自ら現場に立つことで「何がネックなのか」「どんな工夫が現場でされているのか」を肌で実感できます。
週に数時間でも、繁忙期でなくてもいいので現場に入り、現場スタッフと一緒に作業することで、新商品の運用イメージや調理工程の具体的な改善策が見えてきます。

2. 商品化プロジェクトに「現場代表」も参画

試作会議やメニュー開発会議では、現場を良く知るスタッフを必ず巻き込みます。
現場で普段から工夫しているスタッフや、顧客との距離が近いホールスタッフは貴重な意見を持っています。
「忙しい現場に負荷をかけるだけでは?」との懸念もありますが、参画させないほうがむしろリスクが大きいことを認識しましょう。

3. KPIや成功基準を「現場目線+経営目線」で設定

KPI(重要業績評価指標)は、経営層が一方的に決めるのではなく、現場が実行可能な数値や基準と融合させて初めて意味を持ちます。
例えば、
・食材のロス率
・調理工程の時間短縮
・サービスへのクレーム減少
・新商品のリピート率
これらを現場で「見える化」し、成果をスタッフにもフィードバックすることが大切です。

4. 「現場発表会」を設けてやりがいと創意工夫を共有

定期的に現場スタッフの創意工夫や成功事例を発表する機会を作りましょう。
この場は、現場発の改善案や苦労話を経営層が正面から聞く貴重な交流の場です。
現場での「頑張り」や「工夫」が、賞賛されるだけでなく経営層の判断材料となり、意識統一のきっかけとなります。

5. 業務フローを「簡略化」「標準化」し、紙運用から卒業する

業務改善の第一歩は、現場オペレーションを「簡単」「確実」にすることです。
アナログ優先・属人的運用から脱却し、
・調理工程書の作成
・発注や在庫のデジタル化
・教育マニュアルの動画化
など、現場に負荷をかけず誰でも回せる体制に。
ここでも現場のリアルな声を反映して無駄を省き、定着しやすい仕組みにするのがポイントです。

商品化現場で実際に起きた失敗事例と成功事例

ありがちな失敗事例

・現場への説明が不十分で、気付けばいつのまにか元のメニューに戻っていた
・経営層の「手間がかかっても差別化になる」という主張が、現場の過剰ストレスに
・調理法が複雑で、新人が定着できず商品化が頓挫
・現場スタッフから、「こんな面倒なことやってられるか!」の反発が多発

成功事例のエッセンス

・調理工程を何度も現場メンバーがテストし、可能な限りシンプル化した
・経営層が新メニューの意図を現場に時間をかけて説明、全員で試食会も
・店長、主任クラスが自発的に「どうすれば現場が楽になるか」改善案を提案
・新商品がヒットし、現場スタッフから「自分たちが主役になった」との声

サプライヤーや外部バイヤー視点で意識統一を促進するポイント

実は、商品化の根本には原材料や食材、機器などのサプライヤーやバイヤーが密接に絡んできます。
サプライヤーからすれば、「売り込む相手は経営層だが、運用するのは現場である」と強く認識しておく必要があります。

したがって、
・現場に出向き、どう使われているか観察する
・現場スタッフにも話を聞き、課題を把握する
・経営層が求めるコストや品質目標と現場の声を両立する提案をする

サプライヤー自身も「現場目線」「経営目線」を使い分けて価値提案をすることで、商品の定着率や継続受注にも直結します。

現場のモチベーションと経営視点を結びつけるコツ

商品化が成功するか否かは、「現場がどれだけ前向きに取り組めるか」「経営層がその努力をどれだけ評価できるか」にかかっています。
・現場スタッフが目標数値と成果を共有できる場づくり
・小さな成功体験でも「見える化」し、褒め称える文化の醸成
・PDCA(計画-実行-評価-改善)をチームで回す仕組み
こうした細やかな取り組みの積み重ねが意識統一の基盤となります。

まとめ 〜商品化の本当の成功は「全員主役」から生まれる〜

飲食店の商品化は、決して経営層や企画部門だけの領域ではありません。
現場で調理と接客に汗を流すスタッフ、メニューの狙いを定める経営層、仕入れやサプライチェーンを担うパートナー企業…。
全員が「自分事」として関われる仕組みこそが、真の意味での「意識統一」となります。

アナログ文化が色濃い現場でも、小さな成功体験の積み重ねと、現実に即した業務改善、現場主導の意識統一の仕組みさえあれば、商品化プロジェクトは必ず実を結びます。

飲食業の未来を切り拓くには、現場と経営層、サプライヤーが「一丸」となり、全体最適を見据えたラテラルシンキングで常に新たな地平線を拓いていきましょう。

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