投稿日:2025年10月25日

自社製品を作る前に知っておくべき原価構成と利益率の考え方

はじめに

自社製品を企画・開発する際に、必ず意識しなければならないのが「原価構成」と「利益率」の考え方です。

とくに大手・中堅製造業では、価格競争や国内外の生産ネットワークの最適化、サプライチェーンの強靭化など、アナログからデジタルへ激しく環境が変わりつつあります。

それにもかかわらず、昭和・平成時代から変わらずコスト管理が属人的、見積の算出も勘と経験頼りという企業も少なくありません。

本記事では、調達・生産・品質・工場管理すべてを長年経験した現場目線から、原価構成と利益率の基本、そして実践的なノウハウについて解説します。

また、バイヤー(購買担当者)を目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの視点を知りたい方にも役立つ情報を盛り込んでいます。

原価構成を理解する重要性

なぜ原価構成が重要なのか

製品開発や事業計画において、原価は最も重要な基礎指標です。

原価を正しく把握しなければ、適切な販売価格の設定も難しく、利益が出るかどうかも分かりません。

とくにBtoB領域ではコストダウン要求が年々厳しくなっており、原価低減の工夫なしに継続的な受注を維持することは困難です。

原価構成の主な内訳

原価構成は主に「直接材料費」「直接労務費」「製造間接費(工場経費)」の3つに大別されます。

1. 直接材料費:製品の主たる材料そのものにかかるコスト
2. 直接労務費:製造現場で実際に作業する労働者の人件費
3. 製造間接費:工場全体の設備減価償却、光熱費、管理部門の人件費、一部の保守や消耗品など直接配賦できない費用

加えて最近は、物流コストの高騰やサプライチェーン維持費用、調達リスクを回避するためのマルチソース戦略なども原価に大きくかかわっています。

「見えない原価」とその見落とし

特に注意したいのが、工場やオフィスの「隠れコスト」です。

例えば、調達管理の非効率さによる在庫過多や、旧態依然の紙ベース運用による事務コストの増加、新製品立ち上げの手戻りによる再工数などです。

これらは経営層や購買担当者が現場感覚でしっかり把握し、積極的に可視化すべきコストと言えます。

利益率の考え方と商談時のポイント

利益率の基礎:粗利益率と営業利益率

製造業では「粗利益率」「営業利益率」など複数の利益指標を使います。

– 粗利益率=(売上高−売上原価)÷売上高
– 営業利益率=営業利益÷売上高

中小・中堅規模のメーカーであれば、粗利益率=20〜30%、営業利益率=5%以上が一つの目安ですが、ハイテクやニッチ分野であれば50%超の粗利益率も十分ありえます。

適正な利益率を守るバイヤー、サプライヤーの攻防

調達バイヤーはコストダウンを厳しく要求しますが、無理な値引きはサプライヤーの品質管理低下や供給不安に直結します。

サプライヤー側も、最低限死守すべき利益率(損益分岐点)を事前に計算し、価格交渉に臨むことが必要です。

また、商談時「歩留まり」「作業の標準化」「生産回数」「設計変更リスク」など、原価を左右する背景要素をいかに説明・伝達できるかが信頼関係構築のカギとなります。

原価低減活動と利益最適化への工夫

– サプライヤーと協働し、VA/VE提案(設計簡素化・材料代替・作業効率化)を進める
– 購買担当者がサプライヤー現場に足を運び、現場起点でのムダや改善点を見つける
– 調達先の多様化や長期契約による調達安定化を進め、リスク・コスト増に備える

昭和的な「取引先を叩いてコストダウン」の時代はとっくの昔に終わっています。

現代は、バリューチェーン全体で原価と利益率の適正バランスを追求し、互いに付加価値を見出せるパートナー関係が重要です。

原価管理の実務でありがちな失敗例

見積もりミスによる大赤字の実例

熟練担当者の勘に頼った見積もりで、設備の初期投資費用や品質保証コストを過小評価し、大口受注後に巨額の赤字化するケースが実際に多くみられます。

工場長として現場にいた私も、新規案件の営業・設計・生産技術がバラバラに原価情報を持ち寄り、詳細検討をしないまま納期に追われて意思決定をしてしまい、納品後に原価割れが発覚した経験があります。

固定費と変動費の区分・管理不足

設備投資後の減価償却費や人員シフトの過不足など、いわゆる「固定費」の管理は後回しにされがちです。

とくに繁忙期・閑散期の波がある製造業では、変動費型ビジネスへの転換(外注や期間工利用等)や標準原価の定期見直しを怠ると、利益率がみるみる悪化します。

システム未導入・アナログ運用のリスク

現場では今なお、「紙の伝票・手書き台帳」「EXCELでの手動管理」といったアナログ作業が根強く残っています。

こうした運用体制では原価データのリアルタイム把握や見直しが難しく、「気がついたらどんぶり勘定のまま数年経過」するケースも非常に多いです。

だからこそ、小規模工場でも自社に合った原価管理ツールやERPシステム、IoTによる工程可視化への投資が不可欠です。

原価構成と利益率が決める「勝てる製品」とは

市場性×付加価値 × コスト最適化

最先端の技術や新素材を使った製品でも、売価に見合う原価構成+高い利益率がなければ、せっかくの開発投資も損失に終わることがあります。

逆に、高い原価率でも独自の付加価値(業界唯一の性能、難加工実現など)やサービス(メンテナンス契約、品質保証)があれば、高利益率の製品に生まれ変わります。

高付加価値化すればするほど、下請け的な「コスト競争力」一本槍ではなく、「なぜこの値段なのか」をロジックで説明できる力、顧客価値訴求の力が重要になります。

「逆算」から考える市場参入戦略

市場で最後に勝ち残るのは、「いくらで売れて、いくらで作れて、いくら儲かるのか」を最初から逆算して製品企画し続けているメーカーです。

具体的には、
– 目標利益率を確定し、それを必達条件として設計・購買・生産現場すべてが協働
– コンカレント・エンジニアリングやQCD(品質・コスト・納期)意識の徹底
– チーム横断で原価情報を共有し、不足データ(歩留・作業ロス・材料歩留・物流費用)を都度アップデート

また、昨今は原材料高や円安の世界的な影響もあるため、「数年先まで安定供給・安定品質」をどう確保するかも、企画段階から織り込む必要があります。

バイヤーとサプライヤーの理想的な関係性

真のWIN-WINは「原価の見える化」から

バイヤー視点では、ただ安いだけでなく、「なぜその原価なのか」「どんな企業努力がなされているのか」の納得感が高いサプライヤーほど、長く協力体制を続けられます。

サプライヤー視点では、自社の原価構成や利益率の目標を明確にしたうえで、「困っている」「ここが課題」とリアルタイムで情報共有できるバイヤーが理想のパートナーです。

お互い、相手と情報を開示し合い、「問題を共に解決する姿勢」が信頼関係と利益率の向上、ひいては持続的な業界発展につながります。

まとめ:原価と利益率を「現場目線」で捉え直す

自社製品の原価構成と利益率を正しく理解・管理できることは、企画・調達・生産・販売すべての起点です。

昭和のどんぶり勘定や経験重視から、データ駆動・可視化・チーム連携へと大きく価値観は変化しています。

これからバイヤーを目指す方やサプライヤー側の立場の方も、相手と原価情報・利益率・課題意識を共通の言語として共有できるようになれば、製造業の未来はきっと明るいものになるはずです。

日々の実践と新たなテクノロジー導入により、現場DXの第一歩をぜひとも自社で踏み出してください。

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