投稿日:2025年10月26日

地方企業が初めて自社製品を作るときに必要な「地域らしさ」と「市場性」の両立の考え方

はじめに:地方企業が直面する新製品開発の壁

地方企業が自社で初めて製品開発を行う際、よく耳にするのが「ウチらしさ」を出した製品を作りたいけれど、市場でちゃんと売れるか不安だ、という声です。

長年、現場と経営の両面からモノづくりに携わってきた経験からいうと、「地域らしさ」と「市場性」は対立するもののようで、実は重なり合う領域も確実に存在します。

昭和的な“内輪受け”や根強いアナログ志向に偏ると、市場性が見えづらくなりがちです。

この記事では、地方発オリジナル製品開発で求められる両軸アプローチ、そして調達バイヤーやサプライヤーとの協業視点までを現場目線で解説します。

「地域らしさ」の罠と可能性

地域のアイデンティティは一歩引いて見直す

製造業の現場では、「昔からのやり方」や「伝統技法」「地元産素材」など地域性を強調する声が必ず上がります。

これはアイデンティティとして大切ですが、それが“独りよがり”になる危険もはらんでいます。

県外や海外のお客さまにとっては「地域らしさ」自体の意味や魅力が伝わらない場合が多いからです。

一度、外部の協力者や異業種の知見を借りて「それ、本当に外の人も欲しいと思える?」と問い直しましょう。

これが、伝統技術や地場資源の「再定義」に繋がります。

コモデティ化と差別化の境界を見極める

たとえば、「地元の土を使ったタイル」や「地元の木材を使った家具」などは、似た事例が他県にもあります。

この場合、単に“地元産”というだけでは市場性が薄れ、価格競争に巻き込まれます。

地域独自の文化的背景や、歴史的な文脈、新たな技術との融合など、何か「地域ならでは」の違いを掛け合わせて、コモデティとの差別化を明確化することが重要です。

「市場性」を成立させるリアルなアプローチ

調達・バイヤー目線での“売れる理由”をセットする

商品開発段階ではどうしても「いいものを作れば売れる」と思いがちですが、実際の流通現場やBtoB市場では、バイヤーには「仕入れて損がない」「他と差をつけられる」理由が求められます。

彼らは「売りやすさ・トラブルになりにくさ・利益率・話題性・供給安定性」など多角的に見ています。

製品設計時から「バイヤーが営業会議で上司に説明できるキャッチコピー」や「卸先担当者が自信を持って提案できるストーリー」を念頭にすることが、実は極めて重要です。

流通チャネルごとに求められるものが違う

同じ製品でも、百貨店、道の駅、ECモール、量販店など販路で求められるものは大きく異なります。

たとえば、百貨店は「希少性」と「高水準の品質」を重視しますし、ECモールであれば「分かりやすい差別化」「レビューで話題になる」「発送のしやすさ」といったポイントが重要です。

自社がどの流通をメインターゲットにするのか、最初から意識しましょう。

外部視点の導入が「地域」と「市場」の壁を壊す

第三者の評価とラテラルシンキングの効用

「地域らしさ」と「市場性」は、両立の糸口が見つからない場合でも、外部の“第三者評価”や“水平思考(ラテラルシンキング)”を持ち込むことで発見できます。

固定観念を外し、「もしこの製品が〇〇県ではなく海外で作られたら?」「全く異業種の技術を取り入れたらどうか?」という問いかけがヒントになります。

第三者アドバイザーやコンサルだけでなく、現場の若手や異分野の事業者との雑談からもアイデアが生まれます。

古い成功事例の丸写しはもう通用しない

かつての“大ヒット商品”のモデルに安易にすがると失敗する時代です。

今はSNSやネットの普及により、消費者は「本当の価値」「オリジナリティ」「作り手の姿勢」など、より多様な視点で選びます。

過去の成功体験に囚われず、新しい市場ニーズや価値観を捉え直すことが欠かせません。

実践!両立させるためのプロセスと現場ポイント

1.「製品ストーリーの再定義」から始める

まずは「なぜ自社でその製品を作るのか」「それを求めるのはどんな人か」を明文化し、従業員も共有しましょう。

現場スタッフ、パートナー企業、バイヤーや消費者という“外側”からの質問にも耐えられる言語化がポイントです。

2.「技術」と「物語」を両立する設計思想

たとえば、地域材を使う場合でも「どの技術とどう組み合わせるか」「どんな社会課題を解決するか」など、「物語性」を盛り込んだ設計思想が有効です。

新しい機能やデザインと、使い手に伝わるストーリーを同期させることで、差別化と市場性が生まれます。

3.現場~経営層までの垣根を低くする

初めての自社製品開発では、「現場の声」と「マーケティング上の要件」を徹底的に擦り合わせることが重要です。

開発途中での意見交換やサンプルテスト、実際に市場へ小ロットで投入→反応を分析するPDCAサイクルを徹底しましょう。

4.バイヤー・サプライヤーとの対話を積極的に

中小メーカーほど、「サプライヤー・バイヤーの立場や本音」が分かりにくい傾向があります。

現地視察や商談会の場で、積極的に彼らの「評価基準」や「現場の課題」を聞き出しましょう。

そのフィードバックを製品改良やサービス設計にすぐ活かせる柔軟さが、最速で市場性を高めるカギになります。

5.昭和的な「モノづくりの美学」を現代的に進化させる

地元の職人技や情熱、細やかな工程など、昭和的な「こだわり」は決して悪ではありません。

むしろ、それを正しく伝え、現代の生活者の価値観やデザインセンス、持続可能性の意識と重ね合わせていくアップデート力が必要です。

まとめ:地方発の新製品が「選ばれる」未来のために

地方企業が自社で初めて製品を作る際、最大の壁は「内向きのローカリズム」か「過度な市場迎合」のいずれかに大きく振れてしまうことです。

「地域らしさ」を冷静に再定義し、「市場性」を現実的目線で設計し直すこと。

現場の情熱とラテラルな発想、外部との対話、そしてストーリー化を融合させることで、地方発の新製品は初めて全国で「指名される」存在になります。

昭和から現代へ、アナログの強みを活かしつつ新しい地平線を開拓する——これが、地方企業にいま求められている開発姿勢です。

製造業現場から得た実践知が、次世代のものづくりのヒントになることを願います。

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