投稿日:2025年10月29日

ホテルが自社ブランドのコーヒー豆を製造・包装・流通させる仕組み

はじめに:ホテルが自社ブランドのコーヒー豆に取り組む理由

近年、宿泊体験の価値向上を目指し、多くのホテルが自社ブランドのコーヒー豆開発に力を入れています。

これまでコーヒーといえば、外部の専門メーカーや有名ブランド品を調達するケースが主流でした。

しかし今、「ホテルならでは」のこだわりや物語性を商品に付加し、新たな収益源・リピーター獲得に繋げる動きが活発化しています。

なぜ今、ホテルは自社ブランドコーヒーに挑戦するのでしょうか。

ここでは、その背景とともに、調達・製造・包装・流通まで一気通貫で商品を生み出す仕組みを、製造業の現場目線で分かりやすく解説します。

また、実際に現場を動かすバイヤーやサプライヤーの視座、およびアナログな業界構造を踏まえて、どのような工夫や課題、成功のポイントがあるのか深掘りします。

ホテルが自社ブランドコーヒーを作る目的とメリット

ブランド価値と宿泊体験の向上

自社ブランドのコーヒー豆を開発・提供する最大の目的は、「ホテル独自の価値」をお客様に体感してもらうことです。

ホテル業界は差別化が難しく、価格競争に陥りやすい業態でもあります。

自社ブレンドのコーヒーは、宿泊客の五感に訴え、印象に残る体験を演出する重要な要素です。

特別なコーヒー体験はSNSでの拡散・話題化や、お土産・ギフト需要の増加にも貢献します。

新たな収益源とリピーター獲得

自社ブランド商品による物販やEC販売は、宿泊外の接点づくりにも繋がります。

コーヒー豆やドリップバッグ商品のEC展開は、ホテルのファンを増やしリピート率向上に寄与します。

脱・宿泊依存型の経営を模索するホテルにとって、自社コーヒーブランドは販路拡大と顧客ロイヤルティ醸成という2つのメリットを同時に享受できる取り組みなのです。

ホテルが自社コーヒー豆を製造・包装・流通させるまでの流れ

ここからは、製造業に20年以上携わった立場から、実際の現場視点も交えて解説します。

1. コンセプト設計とサプライヤー選定

最初のステップは「どんなコーヒーを、どんなストーリーで提供したいか」を明確にすることです。

コーヒー豆の生産地選定(シングルオリジン、ブレンド)、味のコンセプト、焙煎プロファイルの決定から始まります。

一方で、多くのホテルは焙煎設備や加工ノウハウを持ちません。

このため、豆の仕入れ・焙煎・加工まで担う委託先(OEM/ODM事業者や焙煎工場)の選定が重要となります。

製造業のバイヤーとしては、以下の点を重視します。

– 小ロット対応可否
– 品質管理体制(トレーサビリティ、異物混入対策)
– 安定供給性、納期厳守力
– パッケージやラベルのカスタマイズ提案力

ここで重要なのは、単に調達コストだけでサプライヤーを選ばず、ブランド価値の共創パートナーとして「開発力」「現場連携力」「柔軟性」も見ることです。

2. OEM/OEM方式と工場との役割分担

ホテルが自ら焙煎工場を持つ例は稀で、現実的にはOEM型の仕組みが圧倒的多数です。

– 生豆選定はホテル側(または協働で決定)
-焙煎・カッピング検証はOEM工場とホテル双方が関与
– 包装・充填(ドリップバッグ、パウチ等)はOEMが担当
– ラベル/箱詰め/外観調整はホテルブランドで最終仕上げ

この時、いかにホテルの想いを現場(工程・ライン)に落とし込み、納得感のある商品に仕上げられるかがカギになります。

製造業の現場では「生産の平準化」「品質担保」「コストダウン」まで求められますので、「こだわり」と「現実的な調達管理」のバランス感覚も大切です。

3. 包装・パッケージングと業界特有の制約

昭和から続くパッケージ工場・充填ラインは、意外にも高コスト・高ロット前提の運用が色濃く残っています。

「小ロット・多品種・短納期」の現代ニーズに完全対応したサプライヤーはごく一部に限られます。

ホテルの自社ブランド商品では、非定型・限定パッケージや多様なロット対応が求められるため、以下の工夫が重要です。

– パッケージ設計段階からOEMと密にコミュニケーションを取る
– 汎用ライン・既存資材活用によるコストダウン提案
– 内袋(豆や粉)と外箱パッケージの分業による納期短縮

また、食品衛生法やFSSC 22000等の国際標準認証取得がパートナー選定のポイントになることも見逃せません。

4. 流通~販売網の構築

ホテルの物販店舗・ECサイト・外部セレクトショップ…時には他ホテルチェーン向け販売など、新たな販路開拓も欠かせません。

流通在庫を持つ場合は賞味期限リスク、出荷ロット管理、返品対応ルールなど、細やかな生産管理・在庫管理が求められます。

ここでも、「アナログ業界」ゆえの課題(紙・FAX受発注、現場との情報連携の遅れ)が表面化しがちです。

近年はEDI(電子受発注)や、エクセル連携による各社間データ共有も進みつつあるため、IT化による情報一元管理も将来的な競争力差になってきています。

業界のアナログ構造と現場ならではの工夫・課題

伝統産業特有の心理的ハードル

製造業の中でも食品・飲料のOEM/OEM分野は、とかく「昔ながらの取引風土」と「最新のブランド志向」の狭間で揺れ動いています。

– 現場主導の試行錯誤型で仕様確定まで時間がかかる
– 各工程責任が分散(焙煎・粉砕・充填・包装等)しトラブル時の調整が煩雑
– 紙伝票、電話/FAXでの最終発注シーンが根強く残る
– 工場間移動・小ロット運送も物流コスト増要因

このような背景を知ることが、ホテルのバイヤー、サプライヤー双方の現実的目線として不可欠です。

現場からのイノベーション:改善のポイント

– 仕様変更リードタイム短縮:OEM先への技術指導・情報共有を徹底し、PDCAを高速化
– 多能工化・自動化ライン化:包装や仕分けの一部自動化
– 共同配送・共同調達による物流効率の向上
– IT導入によるトレーサビリティ/在庫管理強化(IoT活用例も増加傾向)

現場と企画部門が一体となり、「こだわり」を体現しつつ、業界特有の足かせを一歩ずつ乗り越えることが不可欠です。

サプライヤーから見たバイヤーの考え方と対応ポイント

バイヤーは「品質」「価格」「工程管理」をどう考えているのか

バイヤーはホテルブランドの顔となるコーヒー豆において、以下3つのバランスに強い関心を持っています。

– ホテルの要望通りの品質(水準を維持できるか)
– ホテルの利益を圧迫しない価格であるか
– 短納期、多品種少量への現場対応力

サプライヤーがこれらに応えるためには、「仕様決定までの密なコミュニケーション」と「現場での柔軟なマルチタスク運営」が不可欠です。

固定観念に縛られず、ホテル側の「想い」をどう現場工程に落とし込めるか、クリエイティブな調整力が問われています。

製造業・サプライヤーが押さえるべきポイント

– 初期提案段階で「できること」と「難しいこと」を明確にする
– サンプル検証・小ロット試作・現場見学などホテルに「安心感」を与えるアクション
– 品質トラブル・納期トラブル想定→代替案準備

アナログなフローが残る業界こそ、一歩踏み込んだ「伴走型バイヤー・サプライヤー関係」が大きな価値となると考えます。

まとめ:ホテルのコーヒーブランド戦略と製造業の新たな地平

ホテルが自社ブランドのコーヒー豆を持つ意義は、単なる商品の置き換えではなく、顧客体験の再設計そのものです。

この仕組みを支えるのが、製造現場の一気通貫マネジメント力と、現場を知るバイヤー・サプライヤーそれぞれの知恵と工夫です。

昭和由来の業界風土や、アナログな工程管理が未だに多く存在する中で、現場からの改善とIT化を地道に進め、ホテルだけでなく製造業界全体の活性化に繋げていくことが、現場経験者としての使命だと考えています。

本記事が、これから先ホテル事業や新たな商品開発に携わる皆さん、製造現場に従事している方、サプライヤーの立場でバイヤーを理解したい方へ、新たな視点や気付きをお届けする一助となれば幸いです。

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