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初回生産後に起こりやすい味の変化と改善サイクルの作り方

目次
はじめに:製造業現場における「味の変化」とは
製造業の現場では、初回生産を終えた後に思いもよらない「味の変化」が発生することがよくあります。
ここでいう「味」とは食品業界だけの話ではありません。
たとえば、家電製品や自動車部品など、非食品分野の製造でも「初期品質」「風合い」「肌触り」「機能性」「耐久性」など、製品ごとにその“持ち味”があります。
量産前のサンプルやプロトタイプでは問題なく満足のいく品質だったにもかかわらず、初回生産品・量産初期ロットになると「微妙に違う」「どこか改善が必要」などの声が現場や顧客から聞かれるのです。
これは、多くの場合に現場の“アナログ文化”や人手頼みの製造プロセス、コミュニケーション不全、監視体制の緩みなど、昭和から続く習慣によるものが本質的な課題です。
本記事では、なぜ初回生産後に味の変化が起こりやすいのか、その要因と実体験に基づく改善サイクルの作り方を、現場実務の目線で深堀りしながら考察していきます。
初回生産後に味の変化が起こる主な理由
試作段階と量産工程のギャップ
設計段階や試作品(試作モデル)の段階では、少量・限定環境で各工程を丁寧に行うことができます。
一方、初回生産や量産段階では「スピード」「コスト意識」「ライン効率最優先」など、現場の状況が一変することが多々あります。
たとえば、機器の設定値や作業者の手順が微妙に異なる、工場設備の老朽化によるばらつきが出る、材料ロットの違いが影響するなど、細かな違いが積み重なり、「味」が変化します。
ヒトによる属人性・勘に頼った作業
多くの工場では、結局のところ現場作業員の腕や経験に依存することが非常に多いです。
“ベテランの○○さんがやれば大丈夫”という属人性や、帳票類のアナログ管理、チェックシートの現場ルール頼りでは、作業者によるバラつきや品質の低下は避けられません。
これらはまさに昭和的な現場文化の名残であり、デジタル化や標準化の遅れにつながっています。
バイヤーとサプライヤーのコミュニケーションのズレ
発注側(バイヤー)が「求めるもの」と、供給側(サプライヤー)が「作るもの」の間には常にギャップが存在します。
仕様書や契約内容に書かれていない“ニュアンス”や“製品へのこだわり”のすり合わせができていないため、完成品を見て初めて“味の違い”が顕在化するのです。
特に現場で阿吽の呼吸、暗黙知として伝えられていたマニュアルが、正式ドキュメントになっていないことが多く、「言ったつもり」「理解されたと思っていた」というトラブルが後を絶ちません。
味の変化を検知するための現場の工夫
立ち上げ初期の徹底的な「見える化」
筆者が最も意識してきたのは、初回生産の立ち上げ段階で「計測値」「工程手順」「作業記録」を徹底的に“見える化”することです。
これは単にデータを残すだけでなく、「量産で本当に必要な管理項目はなにか」「どの工程で想定外の変化が発生しているのか」をリアルタイムで検出できるようにしています。
現場の班長やリーダーが毎日の定点観測として行う“朝会チェック”や、設備ごとの微調整記録、簡易スクリーニング検査の実施などが効果的です。
外部視点による客観的評価の導入
現場サイドの「大丈夫」「問題ないです」だけではいつまで経っても不良の芽は摘み切れません。
そこで、初回ロットや重要部品では、第三者(他部署や外部専門家)のレビュー・検査体制を敷くことで、当事者目線で見落としがちな“違和感”や“味のズレ”を拾いやすくなります。
バイヤーの立場でも「現場に丸投げ」ではなく、サプライヤー現地での抜き取り評価や現場ヒアリングなど、積極的な現場介入がカギを握ります。
改善サイクルの立て方と実践事例
「なぜ変化が起きたのか」を数字と事実で分析
味の変化が顕在化したら、最初にやるべきは「5M(人、機械、材料、方法、測定)」ごとに徹底的に原因を洗い出すことです。
例えば、生産管理部門が工程ごとに生データを分解し、どの段階でバラつきが出ているか、同一材料ロットでも物性値の違いがどう味に影響したのかを分析します。
その上で、「標準作業書」の内容を見直し、再教育や再トレーニングを現場実施、ロットごとに検査サンプルの拡充、必要に応じて工程変更も速やかに取り入れるようにします。
「現場—設計—購買」のコミュニケーション塩梅改革
バイヤー側が設計意図や顧客への“こだわりポイント”をサプライヤーに丁寧に伝える場を設けること、逆にサプライヤーからの「作れない理由」「作りながら気づいた注意点」などがリアルタイムでバイヤー・設計者まで届くシステムを構築します。
書類や仕様書のやりとりだけでなく、現場合同の立ち合い評価会・定期レビュー・Web会議や現場Slackチャットを活用して素早い情報共有と小さな変化の早期発見を推進しましょう。
現場のナレッジ化&水平展開
一度つかんだ“味を守るための工夫”は、ナレッジデータベースや動画マニュアルなどに迅速に落とし込み、同一カテゴリの他ラインや協力工場へも水平展開することが肝要です。
ここがアナログ業界の最大の壁ですが、小さな成功体験を積み重ねて広げていくことで「うちもやってみようか」「現場の声をもっと活かせるのでは」と組織風土が少しずつ変わっていきます。
昭和的ものづくりから未来型への変革に向けて
現場の微妙な「味」を守りつつ、品質を安定化させるためには、昭和的な人任せ手順や個人プレーからの脱却が欠かせません。
とはいえ、現場の経験値とカンの重要性を軽視するのではなく、「データ」と「現場感覚」の両立を目指すアプローチが大切です。
これからのものづくりは、AI・IoTによる工程監視、自動化と熟練工の技能継承、サプライヤーとバイヤー間のデジタル双方向コミュニケーションなど、多層的な進化が求められます。
ただし、最終的には顧客やユーザーが「お、これはいつもの味だ」「これぞ〇〇製品らしい」と納得してくれる“味づくり”こそ製造業の使命です。
おわりに:バイヤー・サプライヤーそれぞれに必要な姿勢
バイヤーを目指す方は、「現場に行き、現物を見て、本音のコミュニケーションを心がける」ことが重要です。
PC上や資料だけでは見抜けない現場の“空気感”や“ちょっとした違和感”こそ、味の変化の兆候だからです。
サプライヤーの立場でも、バイヤーが「なぜ・どこにこだわるか」を理解し、それを自社の現場改善や技術伝承にどう活かすかが、信頼構築のカギを握ります。
最後に、「味の変化」は必ずしも“悪”ではありません。
それをいち早く察知し、素早く対策を回すこと——。
この積み上げと改善サイクルこそ、これからの製造業の現場にとって最大の“競争力”となるのです。
製造業で働く皆さんが、新しい時代の品質づくり・ものづくりを共に切り開いていく――。
そうした現場の知恵と努力が、さらに多くのお客様へ「良い味」として届けられることを心から願っています。
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