投稿日:2025年10月29日

イベント業が自社記念Tシャツを製造するための印刷方式と原価計算の方法

はじめに:イベント業が自社記念Tシャツを作る理由と課題

イベントを成功させるためには、一体感の演出や参加者の思い出作りが重要です。
その中でも、自社記念Tシャツはコストパフォーマンスが高く、抜群の広告効果も期待できます。
一方で、「どんな印刷方式を選ぶべきか」「原価はどう計算すればよいのか」といった悩みもつきまといます。

本記事では、20年以上の現場経験を持つ筆者が、イベント業の皆様や製造現場を目指す方に向けて、Tシャツの印刷方式選定や原価計算の実践的なポイントを解説します。
また、アナログとデジタルが混在する昭和型の工場事情や、サプライヤー・バイヤー双方の目線にも踏み込んで解説していきます。

主なTシャツ印刷方式とその特徴

シルクスクリーン印刷(スクリーンプリント)

シルクスクリーン印刷は、Tシャツ印刷において最も古典的かつ主流の方法です。
版(スクリーン)を作り、インクを直接Tシャツ生地に刷り込むことで発色・耐久性ともに優れています。
大ロット向きで、枚数が増えるほど1枚あたりの単価が下がるのが魅力です。

しかし、色ごとに版が必要となるため、複数色・小ロットの場合はコスト高になりやすいです。
大量イベントや企業の統一Tシャツなど、数百枚単位の発注が多い現場で根強く選ばれています。
実際に昭和時代から続く地場印刷工場の多くが、この技術を柱としています。

インクジェット印刷

インクジェット印刷は、パソコンから直接インクをTシャツ素材にプリントするデジタル方式です。
製版が不要なため、小ロットやフルカラーデザインに強みがあります。
版代が不要なので、1枚単位の注文も経済的に行えます。

ただし、発色や堅牢性(洗濯に対する強さ)は従来のシルクスクリーンにやや劣り、プリンターやインクの性能に大きく依存します。
近年、オンデマンド化・イベントの多様化により、専門サプライヤーで機材導入が加速しています。
導入は増えているものの、製造現場では「アナログの耐久性」を重視する声も根強く残っています。

転写印刷(熱転写/シート転写)

転写印刷は、フィルムやシートにデザインを印刷し、それを熱でTシャツに圧着する方式です。
細かいデザインや写真表現に優れており、少ロット・多品種向きです。
初期費用が抑えられ、素人でも扱いやすいため、社内で「内製化」したいイベント業にも好まれます。

一方、圧着部分の通気性や耐久性で課題が残ります。
また、面積が大きくなるとベタつきやシワが発生しやすく、プロの技術と適切な機材選定がポイントとなります。

印刷方式選定のポイント

Tシャツ印刷方式を選ぶ際は、各方式のメリット・デメリットを徹底的に洗い出す姿勢が重要です。
以下の観点から自社イベントの特徴に最適な方式を見極めましょう。

必要枚数の規模と発注ロット

まず重視すべきは発注枚数です。
数十枚ならインクジェットや転写が経済的。
100枚、200枚を超えるならシルクスクリーンの採算性が増してきます。

デザインの複雑さ・色数

単色、2色程度のロゴTやナンバー入りならシルクスクリーンが効率的。
フルカラーデザインや写真Tは、インクジェットまたは転写方式が有利です。

仕上がりイメージと耐久性

配布後、長期間着用を前提とするなら、耐久性が高い印刷方式を選ぶ必要があります。
その点、現場ではスクリーン印刷の「生地と一体化した仕上がり」を評価する声が多数です。
「イベント当日だけ着ればよい」場合は、カジュアルなインクジェットや転写でも十分と言えるでしょう。

予算・納期・社内体制

社内でDIYしたい・納期がない場合は転写方式。
品質優先でじっくり作りたい場合は、外部プロにスクリーン印刷を依頼しましょう。

こうした複合的な視点で判断することが、納得度の高い選定につながります。

原価計算の基本プロセスと注意点

原価計算の全体フロー

Tシャツ製作の原価計算は、バイヤー・サプライヤー双方にとって「お互いの腹を探る駆け引きの場」とも言えます。
何にいくらかかるのか、現場目線で1つずつ分解してみましょう。

1. 無地Tシャツ本体の単価
2. 印刷方式ごとの加工費(版代・印刷費・シート代ほか)
3. デザイン制作費・版下作成費
4. 包装・仕分け・物流費(イベント現場直送等の対応が多い)
5. 人件費・固定費の配賦
6. 発注数量による単価の変動
7. 追加注文・在庫管理コスト

バイヤーとしては、「必要最小限の発注数量で、予算内に収める」ことが一番の命題です。
一方、サプライヤー側は「どのロットで一番効率よく生産できるか」を常にシビアに計算しています。

無地Tシャツ本体の選定と価格

一般的に、無地Tシャツはブランド・生地・厚み・カラー展開で大きく価格が異なります。
安価なノーブランドなら1枚200~300円から、高品質な国内有名ブランドなら600円以上になる場合もあります。

大量発注時は、早期発注・直送等でディスカウントが可能ですが、イベント直前の忙しい時期は仕入れ価格が上がりやすい傾向があります。

印刷方式ごとのコスト構造

シルクスクリーンの場合、注文色ごとに版代(5,000~10,000円)がかかります。
作業工程も手間が多く、初期費用が割高です。
しかし、200枚・300枚を超えてからは1枚あたりコストが急落します。

インクジェットや転写は版代が発生しない代わりに、1枚ごとの加工費(500円~1,000円)が軸になります。
小ロット発注ではこちらがトータル原価を抑えられる場合も多いです。

デザイン・データ作成コスト

イベント企業の場合、内製できれば節約できますが、多忙な現場では外部委託が主流です。
データ作成は5,000~10,000円程度が一般的で、修正や再依頼が発生する場合も想定しておきましょう。

物流・包装・諸経費

参加者ごとに仕分け、現地直送、当日納品などは追加費用が発生しやすいです。
また、昨今は段ボールや梱包資材の値上がりも無視できません。
見積もり依頼時には「搬入・梱包・各種オプション」を明示しましょう。

昭和から令和へ:アナログの強みを活かす現場知恵

製造現場が重視する品質と信頼性

昭和の時代から続く町工場や大手下請けの多くは、安定した品質・納期遵守を最優先しています。
アナログ工程の多さゆえの「融通のきく現場力」「細かいカスタマイズ対応」は今も根強い魅力です。

仕様書に載らない“現場暗黙知”や、問題発生時の即座なリカバリー力はデジタル化・自動発注時代にも今なお重宝されています。

逆提案力:バイヤーの盲点を現場がフォロー

イベント業のバイヤー視点では、「とにかく早く・安く・かっこよく」が最優先項目となりがちです。
ところが、印刷方式や納品形態によっては、逆にコスト増や品質劣化を招くことも。

ここで、熟練サプライヤーの逆提案力が発揮されます。
「このデザインならこの方式がベスト」「このロット数なら今月中に仕上がります」など、現場からの提案を受け入れる柔軟さが、バイヤーにとっても成功のカギとなるのです。

原価低減のためのラテラルシンキング(横断的思考)のすすめ

サプライチェーン全体での最適化発想

Tシャツ調達単独ではなく、イベント運営全体を見渡した「総コストアプローチ」が求められています。

・まとめ発注で全体コストダウン
・複数イベントのTシャツ統合運用
・外注/内製のハイブリッド運用

例えば、類似デザインの複数イベントを1回で発注し、コストを圧縮。
現地作業と印刷を分業して、効率的に運用するといった発想が現場で進化しています。

バイヤー・サプライヤー間での情報の透明化

「現場は分かってくれない」「サプライヤーは何を考えているのか分からない」といった相互不信は、過去から続く業界課題です。

価格交渉・納期調整・品質要件について、双方で“なぜそうなるのか”を共有することで、無駄な調整や追加コストを削減できるようになります。
昭和的な“隠し味”としての現場知恵を、デジタルプラットフォーム等で可視化する試みも、業界内でじわり広がっています。

まとめ:経験と革新を融合したTシャツ製造の最前線へ

イベント業が自社記念Tシャツを製造する際は、印刷方式ごとの特色・現場事情・原価構造を丁寧に理解したうえで、「自社イベントの本質的な価値」に最も合致した選定・交渉を行うことが重要です。

一方で、昭和の現場発想やアナログの経験則も今なお無視できません。
新しい技術を貪欲に取り入れながら、「現場の暗黙知」や「逆提案力」も活かし、バイヤー・サプライヤーが一体となって“最適解”を探し続けること。
これこそが、現代製造業の『新しい地平線』であり、多様なイベントの現場で輝きを生み出す原動力となるのです。

これから自社Tシャツ製作を検討される方、製造現場でバイヤー・サプライヤーの立場を理解したい方は、ぜひ今日紹介した現場視点・ラテラル思考を取り入れ、次なる一手を打ってみてください。

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