投稿日:2025年10月30日

アイスクリームのなめらかさを守る急速冷却と空気混入率の制御

はじめに:製造現場で実感するアイスクリーム品質の真価

アイスクリームの製造現場において、そのなめらかな食感は消費者の満足度を大きく左右します。

なぜなら、クオリティの高いなめらかさが口溶けの良さを生み出し、リピート購入につながるからです。

このなめらかさを左右する核心的なプロセスが「急速冷却」と「空気混入率(オーバーラン)」の高度な制御です。

本記事では、20年以上にわたり製造業の現場を歩んできた筆者が、アイスクリーム製造で大切にされてきた技術的工夫にスポットをあて、意外と知られていない実践ノウハウや業界動向も交えながら、実践的かつ現場目線で解説します。

製造現場での改善活動や管理業務、バイヤー・サプライヤー両方の視点からも参考になる内容をお届けします。

なめらかさを決める2大要素:急速冷却と空気混入率とは

急速冷却で左右される氷結晶の大きさ

アイスクリームの主原料である乳製品や糖分、水分の中に存在する微細な氷結晶。

この氷結晶が大きいとザラザラした食感、小さいと口当たりがなめらかになります。

氷結晶をどれだけ微細にできるかは、「急速冷却」の成否で決まります。

急速冷却では、ミックス(原料液体)を瞬時に-5℃〜-7℃ほどまで冷却し、均等な微細結晶を大量に生成します。

ここで冷却工程を遅延させてしまうと、成長した粗大な結晶が残り、なめらかさを損なう原因となるのです。

空気混入率(オーバーラン)の役割

アイスクリームには製造時に意図的に空気が含まれています。

この空気混入率を「オーバーラン」と呼び、一般的には50〜100%(ミックス1リットルに対して空気1リットルで100%)の範囲で設定されています。

空気含有量が増すと、アイスクリームはふんわり軽く、なめらかで伸びやかな食感になります。

しかし、多すぎるとボソボソとした「かさ増し」感が出てしまい、少なすぎると重くてベタついた食感になるため、ターゲットとなるアイスの種類や販売戦略に応じて、最適値を細かくコントロールする必要があります。

現場ではどのように管理しているのか?:アナログ現場と最新技術

昭和から続く感覚とデータの狭間で

多くの工場では、ベテラン職人による「音・温度・粘度・振動・照り」といった熟練の五感監視に頼りがちで、設備のデジタル化、IoT化が進んだ現代でも、現場の価値観は意外と昭和の感覚から抜け出せていません。

突出温度計やバッチ間のデータ記録も未だに手書き帳票が根強く残る工場もあります。

だからこそ、現場では “傾向管理” や “なめらかさ評価会” など、工程能力指数(Cpk)やSPC(統計的工程管理)だけに頼らず、官能検査を合わせた2軸の品質管理が重要視されています。

そうした現場文化は改善活動やトラブル対応の胆力を鍛え上げ、バイヤーとの信頼醸成にも貢献しています。

最新の自動化動向と課題

一方で、最新の自動フリーザーやインライン粘度計、オンラインO2センサーなどを活用する工場も増えてきました。

これにより、急速冷却時のミックス出口温度や攪拌による気泡分散、オーバーラン値をリアルタイムでフィードバック制御することが可能となり、人的ミスや感覚的バラつきを低減しています。

しかし、導入コストや設備保守負担が課題となるほか、最終的な官能評価や現場感覚の有無で差がついてしまうことがあるのも事実です。

現場リーダーはデジタルとアナログ両方の目線を持ち、設備に詳しい“通訳者”を自ら育てることが求められています。

バイヤー・サプライヤー視点で考える品質管理のポイント

バイヤーが重視する「品質」とは

バイヤーはサプライヤー選定の際、単なる物性数値だけでなく「一貫したなめらかさ」を維持する仕組みや、異常時のリカバリー力も評価ポイントとします。

工場見学・監査では、書類上での手順だけでなく「実際にどこまで再現性や実効性が担保されているか」「現場従業員の意識水準」に着目です。

そのため、サプライヤーは工程標準書や教育訓練記録だけでなく、「なぜ、その管理値に設定したのか」といった理論背景や“現場の声”が重要になります。

サプライヤーが身につけるべき視点

サプライヤーがバイヤーの真意を理解するには、顧客の「最終目的(消費者満足)」に思いを巡らせることが肝心です。

特に「原材料コスト」「生産リードタイム短縮」「安定供給」「商品の外観・食感」といった複数の価値を、バイヤーがどのような配分比率で重視しているかまで深掘りすることで、差別化提案や現場改善の真の意義が見えてきます。

また、トラブルや品質事故の際には「なぜ起きたか」を深く掘り下げ、再発防止策として“人材教育〜設備保守〜工程見直し〜IoT分析”まで一気通貫の対応を示すことが、バイヤーからの信頼を勝ち取るナレッジになります。

ラテラルシンキングで新たな地平線を拓く:応用・進化へのヒント

急速冷却とオーバーランのシナジー活用術

例えば、気温や湿度、原料ロットばらつきに応じて「最適な急速冷却曲線」「オーバーラン修正レシピ」を数理モデルで自動調整する仕組みを作ることで、更なる品質向上が可能です。

近年はAI・機械学習技術と画像認識を組み合わせ、結晶の微細さや“商品ごとの最適な泡の粒径分布”を研究するメーカーも出てきています。

また、製造エネルギーを徹底的に見直すことで「サステナビリティと高品質」の両立を目指す企業も増えつつあります。

“なめらかさ”の本質再定義と提案型価値創出

これからは、ただ“なめらか”であるだけでなく「空気感の違いを楽しめる二層仕立て」「温度変化で食感が変わるアイス」など、新しい価値提案が求められます。

現場の知見と技術応用を組み合わせ、競合他社に真似できない独自性の打ち出しが、アイスクリーム工場の未来を創造します。

バイヤー・サプライヤーの垣根を越えて共創し、業界全体で“なめらかさのアップデート”を追求することが、日本の製造業の価値を次世代へつなぐ道です。

まとめ:現場の知と技で次世代へ、なめらかさを守り抜く

アイスクリームのなめらかさは、急速冷却と空気混入率の絶妙なバランスで生み出され、その裏には昭和から続く現場感覚と、最新テクノロジーの掛け算があります。

バイヤー・サプライヤー両視点を持ち、根拠を噛み砕いて現場に落とすことで、“伝統と革新”が共生する工場運営が実現します。

今後も価値ある現場知見を積極的に学び、共有し、共に高め合う姿勢が業界全体の競争力を加速させます。

本記事が、これからアイスクリーム製造に携わる方・バイヤー・サプライヤーすべての皆さんの一助となれば幸いです。

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