投稿日:2025年11月1日

製造業で働くなら理解しておくべき設備稼働率とOEEの計算方法

はじめに:設備稼働率とOEEの重要性

製造業の現場において、効率よく製品を生産するためには、工場の設備や装置がどれだけ有効に稼働しているかを正確に把握する必要があります。
特に、柱となる2つの指標「設備稼働率」と「OEE(総合設備効率)」は、ムダを排除し生産性を高める上で欠かせません。
本記事では、これら指標の意味や計算方法、そして現場でどのように活用すればよいかについて、現場目線でわかりやすく解説します。

設備稼働率とは何か?

設備稼働率の定義

設備稼働率とは、工場の設備が稼働可能な時間のうち、実際どれだけ稼働していたかを表す指標です。
たとえば、24時間稼働可能なラインが10時間しか動いていなければ稼働率は約41.7%となります。

なぜ稼働率が重視されるのか

製造業では、稼働率が低いと「設備が遊んでいる=もったいない」という印象を持つ方が多いです。
固定費で賄うべき生産ラインの能力を最大限活かしきれていない状態ですから、営業・経営層にも「何とかしろ」というプレッシャーがかかります。
実際、稼働率の低い現場は、納期遅延、コスト高騰、不良在庫の増加などにつながりやすいため、現場・事務所問わず強く意識されています。

OEE(総合設備効率)とは?

OEEの定義

OEEとは「Overall Equipment Effectiveness:総合設備効率」の略称で、生産設備がどれだけ有効に活用されているかを示す指標です。
単なる稼働しているか否かだけでなく、「稼働速度」や「できばえ(不良率)」も加味する点が特徴です。

OEEは
– 稼働率(稼働できる時間のうち、実際に稼働した時間の割合)
– 性能稼働率(稼働中に標準サイクルで生産できていた時間の割合)
– 良品率(生産品のうち良品が占める割合)
この3要素の掛け算で表現します。

OEEが重視される理由

かつては「とにかく稼働率を上げろ」という昭和的な働き方が主流でしたが、近年は品質や速度も重視されます。
稼働率だけ高めても、不良品ばかり作っていては本当の意味での効率向上にはなりません。
OEEは、全体最適や現場の実情に近いパフォーマンス指標として、グローバルな製造現場で急速に普及しています。

設備稼働率の計算方法と具体例

基本の計算式

設備稼働率(%) = 実際の設備稼働時間 ÷ 設備の稼働可能時間 × 100

たとえば、設備の停止時間(休止・段取り替え・故障など)が発生するたびに、その時間を稼働時間から差し引くのが一般的です。

具体的な計算例

ある工場で、1日(24時間)中、生産設備が17時間稼働したとしましょう。
設備稼働率は
17時間 ÷ 24時間 × 100 = 70.8%
となります。

この指標によって、「ラインのムダ」や「改善ポイント」が客観的に見えてきます。

OEE(総合設備効率)の計算方法と具体例

OEEの計算式

OEE(%)= 稼働率 × 性能稼働率 × 良品率

ここで、それぞれの説明と計算方法を紹介します。

稼働率

稼働率(%)= 実際に設備が稼働していた時間 ÷ 設備が使える予定の時間 × 100

性能稼働率

性能稼働率(%)= 理論的に生産可能な数量 ÷ 実際の生産数量 × 100
(もしくは、設備が実際に稼働していた時間内での生産速度が、標準速度にどれだけ近かったか)

良品率

良品率(%)= 良品の数量 ÷ 総生産数 × 100

具体的な計算例

想定するケースを挙げてみます。

– 設備の稼働予定時間:8時間(=480分)
– 段取りやトラブルのための停止時間:1時間(=60分)
– 実際の稼働時間:7時間(=420分)
– 標準サイクルで作れば、60秒に1個できる
– 実際に作った個数:350個
– 不良品:20個

1. 稼働率:420分 ÷ 480分 = 0.875(87.5%)
2. 性能稼働率:420分稼働で標準では420個(1分1個)が作れるはず→標準個数=420個
 →実際350個→350 ÷ 420 = 0.833 (83.3%)
3. 良品率:(350個-20個)÷ 350 = 0.943(94.3%)

OEE=0.875 × 0.833 × 0.943=0.687(68.7%)

このOEE値を見ることで、ボトルネック(停滞要因)が稼働時間なのか、速度か、それとも品質かを論理的に洗い出せるのです。

現場が陥りがちな落とし穴とOEEの本質

稼働率だけ上げても生産性は伸びない

昭和以前の現場では「止まるな、走れ」「機械は24時間止めるな!」という文化が主流でした。
ただし、これだけでは慢性的なトラブルやなし崩し的なムリ・ムダ・ムラ(3M)を生みやすくなります。
たとえば、ラインがフル稼働でも、不良品だらけではコスト増大やクレーム、信頼喪失となり本末転倒です。

部分最適から全体最適へ

大事なのは全体最適です。
OEEのような包括的指標は、生産スピードや出来栄えまで網羅するため、「隠れリスク」を洗い出してくれます。

アナログ慣行に根ざした業界動向

日本の製造業界は「長く続くノウハウ」や「ベテラン職人技」を大切にする風土が色濃く残っています。
しかし、その裏で、データ収集方法が手書きだったり、帳票主義だったり、物理的な現場対応に終始しているケースも多くみられます。
OEEや稼働率の改善には、IoTやDXを活用したリアルタイムデータ取得の導入がカギとなりますが、現場の「紙文化」に強力な根が張っているため、いかにして意識改革・システム移行するかが今後の競争力の分岐点となるでしょう。

設備稼働率・OEEを高める具体的施策

1. データの「見える化」

稼働データをリアルタイムに「見える化」することで、異常の早期発見や工数配分の最適化が可能となります。
IoTセンサーや生産管理システムを活用し、「止まった・遅れた・不良が出た」原因をすぐに突き止めることが重要です。

2. ボトルネックの明確化と優先順位付け

OEEを分解して個別の指標(稼働率、性能、良品率)を分析しましょう。
「停止時間が長いのか」「速度低下が問題か」「不良が多発しているのか」複数要因を列挙し、もっとも致命的な部分から改善をかけていきます。

3. マニュアルやノウハウの標準化

熟練者依存の作業を減らし、「誰でも同じ水準で作業できる」状態に近づけます。
これにより人が変わってもQCD(品質・コスト・納期)を安定させやすくなります。

4. 設備メンテナンスの徹底

突発トラブルによるロスを減らすため、現場点検や予防保全をルーチンワークとして定期化しましょう。

5. サプライヤー・バイヤー連携の深化

稼働率やOEEは自社努力だけでなく、部材や仕掛品の納品状況、サプライヤーの品質も大きく影響します。
バイヤーやサプライヤー間で「現場の課題」「調達リスク」「改善案」を共有し、「現場目線の伴走型パートナーシップ」を築くことが、設備稼働・OEE改善の長期的成功につながります。

なぜ今、OEEが現場の最適化に欠かせないのか

デジタル変革(DX)時代の最重要KPI

日々の現場管理において、OEEは「経営層の意思決定」から「現場の改善アクション」まで、一気通貫で使えるKPIへと進化しました。
IoTデバイスやクラウド活用で、リアルタイムかつ誰でもダッシュボードで見られる環境が整い始めています。
今後は、単なる報告資料や帳票記載のみならず、設備・人材の最適化、働き方改革といった全社的イノベーションのベースとなっていくでしょう。

製造業バイヤー・サプライヤーにとってのOEE活用視点

バイヤーの立場からOEEを考える

OEEの高いサプライヤーは、安定的な供給力・トレーサビリティ・短納期対応力などが強みとなります。
調達先選定において「OEEの見える化」は重要な判断材料となるでしょう。

サプライヤーの立場でバイヤーの思考を知る

サプライヤー側は「現場の実効性と信頼性」を数値で示し、バイヤーの“見える調達”ニーズに応えることが受注獲得や顧客信頼向上に寄与します。
OEEや稼働率を「顧客への約束」としてマネジメントに組み込む姿勢が求められます。

まとめ:製造業の成長にOEE・設備稼働率の活用を

設備稼働率やOEEは、過去の「帳面主義的な管理」から、現場主導の実践的KPIへと進化しました。
グローバル競争、デジタル化の流れがますます加速する現代、これらの指標を現場や経営に一体化して活用する企業だけが生き残る時代です。
紙や経験則にとどまらず、数値を軸に現場の知恵を集約し、一歩先をいくラテラルな発想で未来の工場像を切り開きましょう。

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