- お役立ち記事
- 製造業の工程設計で求められる“ばらつき吸収設計”の考え方
製造業の工程設計で求められる“ばらつき吸収設計”の考え方

目次
はじめに:なぜ「ばらつき吸収設計」が今、製造業に不可欠なのか
製造業の現場では、工程設計の巧拙が最終的な製品品質と経営効率を大きく左右します。
近年、グローバル化や顧客ニーズの多様化にともない、高品質・低コスト・短納期といった要求水準が年々高まっています。
こうした状況で、現場目線で工程設計を組み立てるうえで決して見逃せないキーワードが「ばらつき吸収設計」です。
まだまだアナログ傾向が根強い製造業界ですが、工程設計でのばらつき吸収の考え方と現場ベースでの実践ノウハウを押さえることで、品質トラブルやロスの発生を抜本的に抑え、高効率のものづくりを目指すことができます。
本記事では、その基本から応用まで、長年の現場知見をフル活用しながら、今の時代に即した「ばらつき吸収設計」の考え方を徹底解説していきます。
ばらつき吸収設計とは何か
工程設計における「ばらつき」とは
ばらつきとは、材料の寸法、処理精度、作業ばらつきなど、工程や作業ごとに発生する品質の“揺らぎ”のことを指します。
たとえば、プレス部品の穴径が標準値±0.1mmで管理されていたとしても、実際にはさまざまな要因(使用設備、金型摩耗、温度・湿度、作業者のスキル差など)によって現場の数値は微妙に変動します。
このような現場レベルの「ばらつき」をそのまま放置してしまうと、全体工程を通して次第にゆがみが大きくなり、不良品の発生や組み立て不良、品質トラブルに直結します。
なぜ「ばらつき吸収」が必要なのか
昔ながらの昭和的発想では「現場に気合と根性で頑張らせればよい」「厳格な検査で弾けばいい」といった属人的・アナログ的なアプローチが主流でした。
しかし、現代の大量生産や人手不足、グローバル調達の現実を考えると、それでは全く追いつきません。
本来、「ばらつき」はゼロにはできません。
しかし、工程設計の段階で「各工程ごとに生じるばらつきを後工程でどのように吸収し、全体最適を図るか」という発想に立ち返れば、再現性のある品質向上と安定生産が可能になります。
この“工程間のばらつきリレー”を見越した設計思想こそが、「ばらつき吸収設計」の本質です。
ばらつき吸収設計の現場的アプローチ
上流工程からの逆算設計
優れた工程設計担当者は、部品・材料調達から出発します。
たとえば、仕入れる部材の寸法公差が±0.2mmで供給されてくる場合、前後工程でこのばらつきを問題なく吸収可能なのか、あるいは追加工や矯正工程をどこに設けるかを、はじめから逆算して組み立てます。
調達部門やサプライヤーとの段階的な情報共有も非常に大切です。
現場の工程内で許容し得る「ばらつき」と、どうしても制約上吸収できない「致命的ばらつき」をきちんと仕分けし、上流から最適な“受入れ条件”を設計することが重要です。
中間工程での“バッファ工程”設計
ばらつき吸収設計において、しばしば登場するのが“バッファ工程”の考え方です。
具体的には、工程内加工の途中で「ある程度のばらつきをリセットする意味合いの工程」を意識的に設けます。
たとえば、プレス成形の後にトリミングや穴あけの工程を加えることで、複数のばらつき要因をまとめて吸収しやすくします。
あるいはプラスチック成形品の場合、冷却収縮によるバラつきを見込んだ寸法設計や、アニーリング処理などで寸法変化を吸収するといった工夫がなされます。
こうした“緩衝地帯”的工程を事前に組み込むことで、下流工程への影響を最低限に抑えることができます。
後工程での組立吸収設計
ばらつきが避けられない場合、最終工程で組立吸収設計を考えることも重要です。
たとえば、“A部品の穴位置とB部品のボス形状”のように、クリティカルな嵌合箇所が生じる場合は、「どちらの公差幅を大きめに取るか」「どちらに最終的な調整ルールを持たせるか」など、部品間でばらつきの“受け皿”を設けておきます。
実装段階ではスペーサーやパッキン、偏芯ピンなどの“バラつき調整部品”で吸収する設計も良く使われます。
このような形で現場での調整作業を最小化しつつ、トラブルの発生リスクを低減します。
設備・治工具による“ばらつき吸収”
近年では、FA(ファクトリー・オートメーション)やIoT技術の進展により、設備や治工具そのものに「ばらつき吸収機能」を設ける発想も一般的になりました。
自動計測システムを組み込むことで、各部品の公差外れをリアルタイムで識別し、NG品を自動排出する工程設計や、ロボットハンドのサーボ制御でワークの誤差を自動補正しながら組み立てる応用例も増えています。
アナログ主導の業界でも、こうした設備投資や工夫が競争力の決定的な差を生み出す時代となっています。
「ばらつき吸収設計」を組織風土に根付かせるには
設計部門と現場の連携強化
「ばらつき吸収設計」を効果的に実践するためには、現場の声をいかに設計部門へフィードバックできるかがカギとなります。
現場で発生する不具合や、工程ごとのバラつき事例、蓄積されたノウハウなどをオープンにフィードバックし、それが設計に素早く反映されるサイクルを作る必要があります。
たとえば「定例の工程FMEA会議」や、「設計レビューに現場リーダーを加える」などの仕組みづくりが効果的です。
これにより、バラつき吸収設計の現実解を組織全体で共有し、早期から高再現性の工程設計が可能となります。
サプライチェーン全体での「吸収設計」意識
ばらつき吸収設計の取組は、自社工場内だけに留まりません。
むしろ、グローバル調達やマルチサプライヤー時代のいま、上流の部品・素材メーカーとの「吸収設計」を含めた議論や、共通KPI設定などがますます重要となっています。
安定調達のパートナー関係を維持するためにも、「どこまで許容し、どこから厳格管理が必要か」を明確にし、全体で一気通貫の吸収設計文化を醸成することが急がれます。
ばらつき吸収設計の成功事例(業界横断の視点で)
自動車部品メーカーの事例では、プレス加工や樹脂成形の連続大量工程で、特定工程ごとにバラつきの“リセットポイント”を明確設定しています。
たとえば、重要寸法ごとに自動測定+再調整の仕組みを事前に織り込むことで、不良流出を限りなく縮小し、歩留まり90%→99%台へと向上した例があります。
ある電子部品メーカーでは、チップサイズや端子寸法のミクロンレベルのばらつきに対し、リードフレーム設計の吸収幅を増やすことで下流の実装効率と良品率を両立させる手法を採用しています。
このように「ばらつきは悪」と見なすのではなく、「どこで吸収するか」にリソースを集中させる戦略こそ、多品種少量・短納期化の時代に生き残るための現実的解なのです。
今後の製造業における“ばらつき吸収設計”の展望
デジタル技術・AI技術の進展を背景に、今後は「ばらつきの予兆検出」「シミュレーションによる想定吸収」など、設計段階から事前に精緻なばらつき評価ができる時代が到来します。
また、バイヤー目線で見れば、「納入品のバラつきの吸収ポイントを明示する」「サプライヤーと共通の吸収設計プラットフォームを構築する」など、上流サプライチェーンとの連携強化も成否を分ける大きなポイントとなります。
現場発・管理職発の現実解と、デジタルツールの強みを組み合わせていくことで、より安定かつ高効率な、“新しい地平線のばらつき吸収設計”が展開されていくでしょう。
まとめ:これからのものづくりがめざすべき吸収設計思考
ばらつき吸収設計は、単なる品質管理のテクニックに留まりません。
それは、「現実に存在する制約条件の中で、最善のものづくりを目指す現場の知恵」そのものです。
これから製造業の現場で活躍する方、バイヤーを志す方、また、サプライヤーとして顧客目線に立ちたい方にとって、「ばらつきをいかに吸収し、全体最適を図るか」という発想は現場知の宝庫です。
設備・人・サプライチェーン全体で“ばらつき”を受け止める柔軟な設計思考――。
それこそが、これからのものづくり現場に必要とされる新たなイノベーションへの第一歩となるはずです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)