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パーカーのジップが波打たない縫製テンションと固定技術

目次
はじめに:ジップの“波打ち”が与える印象と品質課題
パーカーやジャケットのジップ部分が波打っている状態を目にしたことはないでしょうか。
店舗のハンガーに掛かった新品の服や、長年着用したお気に入りの一着。
ジップの波打ちは、単なる見た目の問題ではなく、着心地やジップの耐久性、ひいてはブランドイメージにも大きな影響を与えます。
この問題の本質は「縫製テンション」と「固定技術」の2点に大きく集約されます。
しかし、縫製や製品の世界は今なお“昭和”の職人技や、経験則重視の体質が色濃く残る業界です。
今回は、その現場目線を踏まえつつ、ジップ部分の品質向上につながる縫製テンション管理や固定技術の革新について深堀りします。
ジップが波打つ原因を“根本”から考える
1. ミシンテンションと生地特性の微妙なバランス
ジップが波打つ最も一般的な理由は、縫製時のミシンテンション(糸の引っ張り具合)と生地の伸縮率のミスマッチです。
多くの衣料品工場では、「標準値」をベースにテンション管理が行われていますが、生地ごと・ジップごとに最適なテンションは微妙に異なります。
特にパーカーなどのスウェット生地の場合、ストレッチ性や厚みが品番によって千差万別です。
ここに“均一な設定”を持ち込むと、ジップテープとの引きつりや波打ちが生じやすくなります。
また、ジップ自体もメーカーによって微妙に硬さや芯地、テープのしなやかさが違うため、経験の浅いオペレーターだと一律のテンションで縫い進めて不具合を見逃しがちです。
この課題を放置すると、不良在庫や返品コストを増大させるだけでなく、バイヤーや顧客の信頼失墜にもつながります。
2. 事前固定技術の差が仕上がりを分ける
縫い付け前にジップテープを生地へ仮止め・固定するプロセスも波打ち回避には重要です。
この工程では、「まち針」「しつけ糸」「テープ固定」など、地域や工場ごとに細かな流儀の違いが色濃く残ります。
固定が不十分だと、縫製工程で生地とジップテープのズレや伸縮差が拡大し、波打ち現象を誘発します。
逆に、仮止め力が強すぎても素材を引っ張り過ぎてしまい、別の歪みを生むリスクもあります。
この“ちょうど良い”妥協点をいかに再現性高く設計・伝承していくかが、職人技から科学的品質管理への一歩です。
3. 工程設計と現場の“阿吽の呼吸”の限界
多くの国内工場では、指導者や熟練工が「呼吸」と「手触り感」でテンション調整を行い、“波打ちのないジップ縫製”を支え続けてきました。
しかしベテランの退職増や、海外移管による技術伝達力低下によって、こうした暗黙知への依存がリスク化しています。
“属人化”から脱却し、生産性と歩留まり、そして品質向上を両立させるためには、科学的アプローチと現場知の融合が求められます。
最先端の縫製テンション管理とデジタルサポート
1. データ収集による最適テンション自動設定
現在、ミシンメーカーや縫製機器サプライヤーでは、糸テンションの微調整をセンサーで自動検知する“スマートミシン”が登場しています。
サンプル縫製時に波打ち・引き攣り・浮きなどの症状発生率を数値化し、最適テンション値を標準値として各ロットに展開できる仕組みです。
さらに、生地ロットの柔軟性・厚み・湿度・温度などもパラメーター化し、縫製履歴や歩留まりと組み合わせてPDCAサイクルを自動回転できます。
これにより「担当者の経験値や手加減」といった曖昧な属人化を減らしつつ、現場での品質ムラを劇的に減少させることができるようになりました。
2. 仮止め工程の自動化・効率化
事前固定についても、従来のまち針やしつけ糸ではなく、専用の仮着テープや接着剤の利用が増加中です。
粘着力や剥がしやすさ、生地への糊残りが最小化された新素材の導入で、短時間で精度高くジップと本体生地を仮止めできるようになりました。
また、ある大手パーカーブランドの現場では、AI画像解析を活用した仮止め検査装置を実運用しています。
この装置は、生地のたるみやジップテープの捻れ具合を画像で自動判定し、品質異常を事前検知することが可能です。
一人の作業者が何百着も仮止め後の見逃しをゼロに近づける取り組みです。
3. 量産現場の“KPI可視化”と技能伝承DX
テンション管理や仮止め技術を数値で“見える化”して工程ごとに蓄積し、「合格したジップパーカーの特徴」を言語化・共有します。
このデータをもとに、若手作業者や新人でも安定した品質を再現できる教育キットや動画マニュアルの開発が急速に進んでいます。
ベテランの“手先感覚”をロジックへ置換する取り組みは、すでにクラウドを活用した現場支援ツールとして浸透し始めています。
昭和時代の「先輩の背中を見て覚える」から、「数値と学習コンテンツを見て覚える」時代へのシフトが着実に進行中です。
調達・バイヤー・サプライヤー視点で考えるべき要点
1. サプライヤーに必要な“言語化・データ化”能力
パーカーやその他衣料を調達するバイヤーの立場から見ると、「なぜジップが波打たないのか」「どれくらい歩留まりがあるのか」を、根拠を持って説明できるサプライヤーは強い信頼を獲得できます。
自社の縫製テンション標準値、仮止めの工程管理方法、それらのKPIや直近の工程改善履歴を「見せられる」サプライヤーは、価格競争だけに陥らない商談ができるようになります。
そのためにも、現場の品質改善活動やテンション管理データの蓄積・活用は必須です。
2. バイヤーが押さえるべき“本当のリスクポイント”
バイヤーが価格や納期だけに目を奪われると、納品されたパーカーのジップに波打ち不良が多発し、大規模な返品・再納品コストを被るケースが近年増えています。
製造工程の自社現場または現地サプライヤー現場に足を運び、「どれだけ見える化・標準化が進んでいるか」をチェックすることが重要です。
サプライヤー訪問時には、「仮着け作業の手順」「ミシンテンション調整履歴」「波打ち不良率の記録表示」といった現場管理の実例を必ず確認してください。
これらの裏付けが弱い場合は、コストダウンを優先するリスクが波打ち品質低下に直結します。
3. “現場のこだわり”を正しく評価できるバイヤーが勝つ
品質重視のアパレルバイヤーやパーカー専門商社は、サプライヤーが発信する「現場の工夫」や「工程改善履歴」を積極的にヒアリングし、“ジップ縫製技術へのこだわり”を正当に評価しています。
製造現場が昭和から令和へシフトしていく中で、表面的な品質証明だけでなく、「なぜその仕上がりができるのか」を説明できることが、これからの強みとなる時代です。
パーカーのジップ波打ちゼロへの挑戦は、“昭和職人”と“DX”の融合から
最後に、現場経験者として伝えたいことがあります。
ジップの波打ちを解消する真の鍵は、テンション制御や固定技術のデータ化・標準化と、長年の現場勘や手触り感をうまく融合させることにあります。
どんなにシステムや機械化が進んでも、素材の微妙な違いを見抜き、最適なテンションや仮止め法を試行錯誤して修正できる“人の感性”は失われてはいけません。
一方で、そのノウハウをデータや動画、数値で共有し、量産現場にも再現可能にしていく“DXの力”も不可欠です。
品質意識の高いバイヤーやエンドユーザーは、こうした現場の“魂”が感じられるプロダクトを選ぶようになっています。
昭和の良さを令和の技術で磨き直し、ジップ波打ちゼロの美しいパーカーを世界に届ける。
その歩みこそが、今もなお製造業の現場に必要なイノベーションなのです。
まとめ:美しいジップ縫製がブランド価値を左右する時代へ
パーカーのジップ波打ちゼロを実現するには、縫製テンション管理と固定技術の両輪を回すことが本質です。
現場で培われた技能と科学的な工程管理・DXの活用、そしてバイヤーとサプライヤーの相互理解が、これからの新しい品質競争のカギを握ります。
「なぜその品質が作れるのか」「改善の可視化はどこまで進んでいるか」。
その説明力が、自社のブランド価値や取引機会を大きく左右する時代です。
一人ひとりの現場担当者、バイヤー、サプライヤーが知識を共有し合い、日本の製造業の底力を次世代へと伝えていきましょう。
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