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陶磁器ポットの製版でインク漏れを防ぐための周縁厚制御と防漏マスキング技術

目次
はじめに:陶磁器ポット製版に潜むインク漏れのリスク
陶磁器製品の顔ともいえるポットは、単なる器としての役割だけでなく、デザイン性や耐久性といった価値が求められます。
その要となるのが、ポット表面に美しくプリントされた柄やロゴです。
このプリント工程で不可欠なのが「製版」と呼ばれる作業であり、肝となる課題の一つが“インク漏れ”です。
インク漏れが生じれば、製品の美的価値はもちろん、リードタイムやコスト面でも大きな損害につながります。
特に、昭和のアナログ時代から続く製造ラインでは、熟練の勘と経験頼みの工程が多々あり、抜本的な改善には新技術と現場目線の両立が欠かせません。
本記事では、陶磁器ポットの製版工程におけるインク漏れを防ぐ技術、特に「周縁厚制御」と「防漏マスキング技術」について、現場で役立つ実践的な知見とともに掘り下げます。
陶磁器ポット製版の基礎知識と工程の流れ
製版工程とは何か
陶磁器ポットの表面に図柄やロゴを転写するためには、絵柄の版(ステンシルやシルクスクリーンなど)を作成し、インクを押し当てる「製版」工程が必要です。
この製版プロセスは、高い精密度と強固な密着性が求められ、一歩間違えばインクのにじみや漏れが発生してしまいます。
インク漏れの主な原因
現場でインク漏れが起こる主な原因は以下の通りです。
・版と陶磁器表面との間に生じる微小な段差や隙間
・インクの粘度設計不良や塗布ムラ
・製品ごとの成形寸法誤差(ロット間バラつき)
・版自体のエッジ摩耗やハンドリング不良
長年、“現場の慣習”だけで乗り切ってきた部分が、最新設備や高品質志向によって見直される時代にきています。
インク漏れの根本対策:周縁厚制御の重要性
「周縁厚」がカギを握る理由
陶磁器ポットの曲面やエッジ部分では、版と基材が完全に密着することは困難です。
特に曲率が大きい部分や形状変化の激しい箇所では、どうしてもインクが“側面から回り込む”現象、すなわちインク漏れが多発します。
この時、決定的に作用するのが「周縁厚(エッジ厚)」です。
版のエッジ部分ならびにマスキング材の厚みや形状をミクロン単位で制御することで、インクの物理的な広がりを抑制できます。
最適な周縁厚とは
「厚ければ良い」わけではありません。
厚すぎるマスキングは図柄に段差を生み、薄すぎるとインクが簡単に染み出してしまいます。
・基材表面の粗さ(Ra値)
・インクの表面張力と粘度
・版材のエッジ硬度やしなり具合
これら現場ならではの条件を見極め、最適な周縁厚を設計します。
多くの現場テストでは「80~120ミクロン前後」が標準的な厚みとして採用されることが多いですが、形状やインク仕様によって必ず現場で検証することが不可欠です。
進化する防漏マスキング技術
従来型マスキングの限界
昭和の時代から続く汎用的なマスキング方法は、シンプルなテープや液体マスキングによるものが主流でした。
しかし、精密な線幅や複雑な曲線部では「テープの浮き」や「マスキング液の塗りムラ」が多発し、インク漏れのリスクを残していました。
多層式・高密着マスキングの導入事例
2020年代以降、ハイブランド向けの高級食器を製造する現場では、
・レーザーカットによる多層型マスキングシート
・シリコーンやポリウレタン系樹脂による高柔軟・密閉型マスキング
・3Dプリントによる現物合成型ジグ&マスキング
などが導入され始めました。
これら新技術を適切な厚み制御と組み合わせることで、インク漏れの大幅削減に成功しています。
また、従来のマスキング法に自動塗布装置を組み込むことで、省力化と品質安定を両立する動きも進んでいます。
現場実例:3M社製ウレタンマスキングの活用
筆者が所属していた現場では、3M社のウレタン系マスキングを導入し、複雑形状のハンドル付きポットでインク漏れ率を従来比1/5まで削減しました。
この際、版接地部のエッジ厚を測定器で管理し、「ハンドル根本 110μm, ボディ部 90μm」と部位ごとに最適化しました。
単なる材料交換ではなく、「周縁厚制御×高密着マスキング」のシナジーが成功のカギです。
デジタル時代の品質管理と現場改善
AI・画像解析技術の導入
一部の先進工場では、製版後のインク漏れ判定にAI画像解析を活用しています。
判定アルゴリズムが漏れの発生箇所や面積を自動算出することで、「人の目」依存からの脱却と再発防止のフィードバックが実現しています。
これにより、「どこで」「なぜ」インク漏れが起きているかを統計的に把握し、マスキング厚や工程条件の最適化に役立てています。
現場主体の小集団活動・改善提案
最前線の現場には、ベテラン作業員のノウハウが眠っています。
例えば、「異常検出ポイントの直接マーキング」「マスキングパターンの微調整」など、数ミリ単位の工夫が品質向上に直結します。
これらを現場から吸い上げ、標準化することで、昭和からの“現場力”をデジタル時代の武器にできます。
時短とコストダウンの両立
インク漏れ対策には、どうしても手間や材料コストがかかる―と言われてきました。
しかし、厚み制御の精度向上や自動塗布装置の導入、AI判定システムの活用により、工程全体のスピードアップと歩留まり向上が達成できます。
結局は「攻めの投資」が守りにもつながるのです。
業界動向:アナログ業界の変革と、サプライヤー・バイヤーの役割
成熟した市場で“差”を生むのは「見えない品質」
陶磁器ポットのような伝統的商品ですら、ユーザーは「細部の仕上がり」や「安心感」を敏感に感じ取ります。
インク漏れの抑制は目立たない改良ですが、ブランドロゴや精密柄の美しさこそが差別化要素になります。
アナログ業界こそ、こうしたマイクロレベルの品質改善が「生き残り」の決め手になるでしょう。
調達・バイヤー目線での留意点
バイヤーの立場で重要なのは、「見えないプロセス」が最終品質に直結する点の理解です。
取引先工場を訪問した際は、インク漏れ対策―具体的には周縁厚管理やマスキング方法―の細部にこだわっているか、実際に現場で作業員とコミュニケーションを取ることが大切です。
また、歩留まり改善や再加工率低減の定量データも確認ポイントです。
サプライヤーが押さえるべき提案視点
サプライヤーとしては、顧客(バイヤー)ニーズの「表面」だけでなく、「なぜその仕様が必要か」「どんなトラブルが潜むか」を自ら現場で突き詰めることが重要です。
新技術の提案だけでなく、「現場導入のしやすさ」「トータルコストでのメリット」の数字を事前に示すことで、信頼獲得にもつながります。
まとめ:現場目線から見た“これからの製版技術”
陶磁器ポットの製版におけるインク漏れ対策は、「周縁厚制御」と「防漏マスキング技術」の2軸の進化によって、大きく飛躍する可能性を秘めています。
アナログな現場力に、デジタル技術や新材料を組み合わせることで、小さな改善が「次の時代のスタンダード」になるタイミングです。
製造に携わる皆さま、調達バイヤー、サプライヤーの全てが、現場で見えない“当たり前”にもう一歩踏み込むことで、歩留まり・ブランド価値・利益率すべてを守り、高めていく。
そんな現場主義と未来志向が、陶磁器ポットの製造現場だけでなく、日本のものづくり全体の新たな地平を切り拓くことを願っています。
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