投稿日:2025年11月11日

ドライTシャツ印刷で静電気による粉塵付着を防ぐ帯電防止処理と湿度制御

はじめに:製造業現場でのドライTシャツ印刷と静電気の課題

ドライTシャツは、スポーツウエアや作業着など多くの用途で使用され、その印刷工程も年々高い品質が求められています。

その中でも、印刷不良につながる「静電気による粉塵付着」は、現場で大きな頭痛のタネです。

特に昭和から続くアナログな印刷現場では、静電気対策が十分でないまま運用されているケースも珍しくありません。

本記事では、ドライTシャツ印刷工程で静電気により生じる粉塵付着の原因と、帯電防止処理および湿度コントロールによる実践的な解決策について、製造現場目線から詳しく解説していきます。

バイヤー志望者やサプライヤーの皆様にも、我々バイヤー(買い手)の課題共有や対策視点をお伝えしたいと思います。

ドライTシャツの印刷現場で起きる静電気問題の本質

素材由来の静電気発生メカニズム

ドライTシャツの主流素材であるポリエステルやナイロンは、化学繊維特有の「帯電しやすさ」を持っています。

これは、素材表面が絶縁体であり、摩擦や剥離時に電子の移動が生じやすいことが大きな理由です。

生地を重ねたり、カット・搬送したり、版をセットしたりする工程のいたるところで、静電気が発生しやすい現場環境が整ってしまっています。

昭和時代から続く手作業中心の現場では、「静電気がなぜ起きるのか」という根本理解が浅い場合も多く、どうしても”場当たり的な対策”にとどまりがちです。

静電気が起こす粉塵付着・印刷不良の現象

帯電したTシャツ生地には、空中を漂うチリや糸くず、インクの微粒子が一気に吸着します。

この状態で印刷を行うと、プリントのズレや色むら、ピンホール(抜け)・色抜けなど多様な印刷不良が発生します。

また、静電気によるトラブルは顧客からのクレームや再生産コスト増加につながるため、製造現場・調達部門・販売部門すべてが無視できない課題となっています。

なぜ帯電防止処理と湿度制御が有効なのか?

帯電防止処理の役割と現場導入のポイント

帯電防止処理には大きく分けて
1. 帯電防止剤の塗布
2. 抗静電気生地の採用
3. イオナイザー(静電気除去機)の設置
があります。

帯電防止剤(スプレーや液体)は、糸や生地表面に塗布することで表面伝導性を高め、一時的に電荷を逃しやすくします。

ただし持続性や人体・生地への安全性も考慮する必要があるため、選定には調達・品質検討が不可欠です。

一方、近年では原糸段階から抗静電性を持たせたポリエステル糸、生地を選定する工場も増えています。

これは「根本的な帯電防止」としては最も確実ですが、コストが上昇するため、バイヤーとしては納期・価格・品質バランスを丁寧に調整しなければなりません。

現場では帯電除去ブラシの自作や、簡易的なグラウンドアース接続など、知恵と工夫で問題解決へのチャレンジが続いてきました。

イオナイザー(静電気除去機)は、人手不足や自動化志向・歩留まり改善の流れで急速に普及しています。

印刷工程直前のTシャツ通過箇所に設置すれば、非接触で高効率かつクリーンな帯電除去が実現できます。

湿度制御が静電気対策に不可欠な理由

静電気は空気が乾燥して湿度が40%以下になると急激に発生・蓄積しやすくなります。

特に冬場の印刷工場は、暖房・換気の影響で湿度20~30%台まで低下するのが一般的です。

湿度を上げることで空気中の水分が分子間の電荷を逃がしやすくし、静電気の発生を劇的に抑えられます。

加湿器やミスト発生装置、工場全体のHVAC(空調換気制御)システム導入など、業界を挙げて湿度管理の重要性が高まっています。

一方で、工場立地や季節によっては結露やカビ、設備腐食のリスクも高まるため、「ただ湿度を上げれば良い」という安直な考え方ではなく、現場ごとに最適解を導き出すことが不可欠です。

アナログ現場こそ「一歩先を読む」帯電対策が競争力になる

現場従業員の意識改革が品質を左右する

昭和型製造業の現場では、「静電気?また帯電防止スプレー撒いとけ」のような、対処療法的な対応が今も多く見られます。

ですが、静電気現象そのものの正しい知識を教育し、なぜ・どこで・どうして帯電が起きて不良につながるのかを現場全員が理解することが、根本品質向上に欠かせません。

さらに、発生源(人、設備、素材)、現象進行(帯電→粉塵吸着→印刷不良)、クレーム事例や過去トラブル要因の分析を通じて、「現場起点の改善サイクル」が生まれていきます。

デジタル時代の自動化工場でも「湿度と清掃」は人の業に依拠

いくら高機能イオナイザーを導入しても、加湿器の定期手入れや現場清掃、脱衣室での埃・意外な導線リスクについても人間の気づきが大切です。

ホコリが多い冬場には前工程の梱包・検品職場とも連携し、全体工場品質管理チームでPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルを回すことが、満足度の高い商品づくりの核となります。

バイヤー・サプライヤーそれぞれが知るべき「静電気対策モノサシ」

バイヤー(買い手)が重視するポイント

バイヤーサイドとしては、単なる「帯電防止処理済み」の一言ではなく、
・どんな処理方法か(持続性、安全性、匂いや変色リスク)
・湿度管理をどの水準で行っているか
・トラブル未然防止の標準作業手順(SOP)があるか
・クリーン度や工場内環境のエビデンス(可視化、データ管理)があるか
を重点チェックしています。

また、トラブル発生時の連絡体制やクレーム対応スピード感も、サプライヤー評価軸の一つです。

サプライヤー(供給者)が心がけるべき提案姿勢

帯電防止処理への取り組みについては、自社製品・設備の特長や、現場で行っている実践的な対策をデータ化することが、バイヤーへの安心材料となります。

製品サンプルの帯電実験レポート、導入後の不良率改善事例、おすすめ加湿装置の現場見学など、能動的な情報提供と提案力が今後の採用率を左右します。

加えて、季節変動や新素材・新設備のトラブル予防にも積極的にバイヤー目線での「+αアドバイス」や「事例シェア」の姿勢が、信頼構築のカギとなります。

今後求められる帯電防止・湿度管理の新潮流

DXとデータドリブンな予知保全

IoTセンサ搭載の湿度管理クラウドシステムや、帯電量自動検知・記録管理といったDX技術の導入が、今や印刷工場にも進みつつあります。

「勘と経験」から「見える化と予知保全」へ――。
季節や現場の変動をデータで読み、事前拍子で不良率や静電気リスクを把握し対処するノウハウが今後のスタンダードになっていくでしょう。

省エネ・持続的成長と現場の知恵

湿度コントロールや帯電防止装置には電力コストや水資源も必要です。

持続的成長(サステナビリティ)の流れの中、無駄な過加湿や無計画な設備増設を避け、
「現場の知恵」と「デジタル化」の融合で最適な運用を模索していく必要があります。

まとめ:現場とバイヤーが一体となる帯電防止対策へ

ドライTシャツ印刷における静電気・粉塵問題は、昭和的アナログ現場にも深く根ざしつつ新たな課題も生み出しています。

しかし、根本に立ち返って本質を見つめ、「帯電防止処理」「湿度制御」を現場全体で仕組み化すれば、印刷工程の歩留まり向上・クレーム削減・顧客満足度アップといった好循環につながります。

バイヤー・サプライヤーどちらの立場でも”現場の真実”を掴み、それを時代の変化とともにアップデートし続ける姿勢が、これからのものづくり業界全体の未来を切り拓いていきます。

これからも我々現場出身者が知恵と行動力を持ち寄り、製造業現場の新しい可能性を切り開いていきましょう。

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