投稿日:2025年11月11日

陶磁器マグ印刷で焼成後の色ズレを抑えるためのインク配合と乾燥時間設計

陶磁器マグ印刷における色ズレ問題の背景

陶磁器マグカップへの印刷は、贈答品やノベルティ、オリジナルグッズとして需要が高く、多くの製造業者やサプライヤーが参入しています。

しかし、製品の品質を大きく左右するのが「焼成後の色ズレ」問題です。

この課題は印刷工程の中でも、特にインク配合と乾燥時間の設計に深く関わっています。

昭和時代からの長い歴史を持つ陶磁器業界では、いまだ経験則が重視される場面が多く、カラー管理や工程標準化は途上です。

今回は、20年以上の現場経験を活かし、実践的かつ現場目線でこのテーマを掘り下げてみたいと思います。

陶磁器マグ印刷における色ズレのメカニズム

釉薬とインクの相互作用による影響

焼成温度が高い陶磁器では、印刷インクと釉薬との間で化学反応や色素の移動が起こります。

このため、焼成前の色と焼成後の色が大きく異なるケースが多発します。

特に酸化や還元雰囲気、釉薬の成分や厚み、インクの組成が微妙に異なるだけで、青は緑に、赤は茶に――と、想定外の発色が起こります。

アナログ管理ゆえの“勘”頼みの現状

昭和から続く生産現場では、ベテラン職人の「勘と経験」によるパッチワーク的な調整が主流でした。

同じインクを使っているつもりでも、ロットごとの釉薬組成や窯の焼成環境、湿度や気温といった様々な因子が重なり合い、仕上がり色が揺らぎます。

これこそ“アナログ製造業の壁”の一つです。

焼成後の色ズレを抑えるインク配合の設計ポイント

顔料選定:高耐熱性の顔料を活用する

焼成温度(一般に800~1,300℃)でも安定した発色を長く保つには、ステイン顔料等の高耐熱性顔料の選定が重要です。

有機顔料は追焼成で分解・退色しますので、無機顔料の中でもシリケート構造を持つタイプやジルコニア系顔料、クロム系顔料などを目的色に応じて組み合わせることが鉄則です。

分散剤とバインダー:適切な設計で顔料の移動を抑える

インクのバインダー(樹脂成分)は焼成で分解されますが、焼成前の乾燥時に顔料の定着度を大きく左右します。

バインダーの粘度が低すぎると顔料がリーフ状に浮きやすくなり、これが色ムラや色ズレの要因になります。

一方、分散剤は顔料粒子が均一に分散するための添加剤で、粒径の揃えこそが発色安定のカギとなります。

顔料の粒径チェックやインク混合テストピースの評価導入が重要なポイントです。

インク配合の最適化手順

1. 焼成後の目的色から逆算し、顔料を混色ラボで焼成テスト。
2. 分散性・安定性を見極めながら分散剤を添加し、最小限の顔料凝集にとどめる。
3. バインダーを調整し、スクリーン印刷なら粘度4000〜6000mPa・s程度を目安にする。
4. 小ロット試作・焼成を繰り返し工程変動の影響まで加味して成分を微調整。

このように理屈先行の配合から現場での再現性テストまで、PDCAを根気強く回すことが現場力の見せ所です。

乾燥時間設計の重要性と最適化

乾燥時間が発色・密着性・歩留りに及ぼす影響

陶磁器印刷後の乾燥は、単なる水分飛ばしではありません。

充分な乾燥が不十分だと、焼成中にインクが気化・発泡し、印刷面の釉薬にピンホールや色移りを引き起こします。

過乾燥でもバインダーが脆化し顔料が剥離しやすくなり、色ムラが発生します。

このため、インク種類、印刷方式(スクリーン印刷、パッド印刷など)、印刷厚みに応じて最適な乾燥条件を設計することが必須となります。

現場での乾燥時間設計と管理手法

乾燥時間と温度は、試験片ごとに記録を積み上げ、焼成サンプルを定点観測することが最短ルートです。

温湿度管理が難しい工場環境ではコンベア方式の乾燥炉や、サーキュレーターによる強制対流などを活用し、「乾燥時間/温度マップ」を蓄積してください。

具体的には、
・標準として50℃ 30分からスタート
・30分きざみで60℃, 70℃…と条件を変える
・焼成後の色差、密着度、釉面の泡や剥離跡を評価

この繰り返しこそが、現場起点での「経験知×データ知」のブリッジとなります。

サプライヤーも知っておきたい、バイヤーが重視するポイント

カラーマネジメントによる品質保証要求の高まり

最近のバイヤーは納品後のクレームリスク減やリピート発注のしやすさから、「焼成後発色」の前提サンプル提出や色差管理指示を重視するようになっています。

調達購買部門は、色ブレによる返品コストだけでなく、自社ブランドイメージの毀損リスクにも敏感だからです。

サプライヤー側も「焼成前でなく、焼成後画像による承認」を取ること、印刷インクやロット記録の追跡ができる管理台帳を持つことが信頼につながります。

プロセス標準化への意識改革

長らく“職人の勘”が支配してきた陶磁器印刷現場ですが、AI外観検査やIOT温湿度管理といったデジタル化の波が徐々に押し寄せています。

これからのサプライヤーは、工程ごとに「標準書」を整備し、インク配合・乾燥時間・焼成プロファイル等の見える化が必須です。

また、現場の多能工化を進め、誰もが安定した品質を出せる工程横断型チーム作りも意識すべきでしょう。

昭和アナログから抜け出す、製造業の新たな地平線

現場のカイゼンとラテラルシンキングの融合

表面の色ズレ問題を単なる「不良率改善」だけで終わらせない。

「なぜ色ズレが発生するのか」「過去の経験値に依存しすぎていないか」と深く追い、ラテラルシンキングでもっと発想を拡げてみる。

例えば、異業種工場の事例を参考に、インク配合データをAIで解析し、夏場と冬場の配合を自動で再提案する。

あるいは、従来の工程前後に品質ゲートを増やすのではなく、インクメーカーや釉薬メーカーとの協業体制で、初めから化学的に見直す。

“こうあるべき”から一歩踏み出す試みにより、新たな生産性と付加価値が生まれると確信しています。

まとめ

陶磁器マグ印刷における「焼成後色ズレ問題」は、現場の努力と理論的アプローチ、双方向で向き合うべき永遠のテーマです。

インク配合は高耐熱顔料・分散剤・バインダーの最適化を心がけ、乾燥時間は現場データを積み上げて現物で正解を見つける。

そして、サプライヤーもバイヤーも一緒に標準化・見える化を進め、昭和アナログから脱却して新しい製造業の常識を切り開いていきましょう。

現場の一歩先を読む力が、日本のものづくりに再び輝きをもたらすと信じています。

陶磁器マグ印刷のあるべき姿を、ともに再定義していきましょう。

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